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[事例5-1] 会議中に脳出血を発症した労働者の会社と産業医に対する損害賠償請求が認められなかった裁判事例(北興化工機事件)

1 概要

 原告は51歳の時に、会社の幹部会議の席上で左脳出血のため倒れました。本件は原告が、被告会社に対しては事業主として、原告の疾病や原告の業務が多忙で検査や継続的治療を受けられない状態であることを知りながら、原告の疾病が増悪し、脳出血などの重篤な障害に至らないよう定期健康診断、休職、就業制限などをすべきところを行わず、安全配慮義務の履行を怠ったとし、また鉄工団地診療所の医師に対しては、産業医としての労働安全指導契約上の義務を怠り、原告の病的状態の医学的解明や適切な治療を施さなかった、などと主張し安全配慮義務違反または不法行為に基づき損害賠償を請求したものです。

2 裁判の経過等

 判決(札幌地裁2004年3月26日判決)の主文は、「原告の請求をいずれも棄却する」というものです。まず、被告会社については、「これらの諸事情を考慮すると、原告の置かれた作業環境が、恒常的な精神的、肉体的負荷を生ぜしめ、疲労を蓄積させるものであったとは言い難い」とし、「原告の高血圧が増悪して本件発症に至ったことが考えられるものの、業務が自然的な経過を超えて高血圧を増悪させたとは言えず、その他、業務と本件発症との因果関係を認めるに足りる証拠はなく、これを認めることはできないと言わざるを得ない。他の点を論ずるまでもなく、被告会社に対する請求は理由がないこととなる」とされました。

 また本件では、会社とともに産業医が被告とされた裁判ですが、裁判所の判断は、「原告は、被告○○(医師)が、(1)被告会社から選任を受けた産業医として、被告会社に所属する原告の疾病を増悪させないため、原告に定期健康診断の受診を命じたり、原告の出張制限、検査及び受診時間を付与するなどの措置をとらなかった、また、被告会社をして同様の措置をとらせなかった、(2)産業医として労働安全指導契約に基づく原告に対する健康維持のための指導を行わなかった、(3)被告会社との間の昭和48年3月15日付け産業医に係る契約は第三者のためにする契約であり、第三者である原告は受益の意思表示をしたところ、これに基づいて生じた債務を履行しなかった、と主張し、債務不履行責任がある旨を述べるが、原告が主張する事実は、被告会社に対する債務不履行責任を生じさせることはあっても、原告との間で、個別の医療契約を離れて債務不履行責任を生じさせるものではないと解される」とし、産業医としての責任の範囲を示しています。ちなみに、「鉄工団地診療所初診時の原告の血圧は薬物治療が開始されるべき状態であったのであり、薬物治療を開始した被告○○(医師)の処置に問題はない。また、原告は平成4年6月10日以降被告○○(医師)を受診しなくなっていたが、それまでに降圧剤の処方により原告の血圧は抑えられた状態であり、降圧剤を継続する必要はあるものの、緊急に診察を要する状態であったとはいえないことから、被告○○(医師)が原告の受診を督促しなかったとしても、そのことをもって医師としての注意義務を怠ったものということはできない」と個別の医療契約上の注意義務についても違反はなかったとしています。

 本件では、仕事が忙しいことを理由とした健康診断受診機会の逸失も争点となっていた点がポイントの一つでしょう。原告は、「補修工事や営業活動には一人の部下もおらず、原告一人で作業をしていた。そのため、落ち着いて受診する時間を作ることができなかった」と主張していますが、先に述べたような判断がされています。いずれにせよ、産業医契約は会社との契約であり、労働者一人一人との契約ではない旨示されたとも解釈できます。