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[事例2-1] 長時間労働からメンタルヘルス不調をきたして自殺したケースの裁判事例(山田製作所事件)

1 概要

 本件は、自動車等の部品工場に勤務するA(男性・24歳)が、長時間労働に従事するなか、リーダーに昇格してまもなく自殺するに至ったため、遺族である妻と両親が会社に対して損害賠償を請求した事案です。

 具体的な事実経過は、以下のとおりです。すなわち、Aは、1996年に会社に入社し、塗装業務に従事していました。2002年3月、会社ではクレーム削減目標を掲げ、製造工程での対策を強化することとなり、さらに受注の増加も加わったことにより、Aの残業が増加しました。2002年4月、Aは班のリーダーに昇格し、心理的・肉体的に追いつめられるなかで、同年5月14日に自殺するに至りました。Aの1か月当たりの時間外労働・休日労働時間は、自殺の1か月前が118時間11分、2か月前が118時間32分、3か月前が84時間48分でした。

2 裁判の経過等

 本件は高裁の判決ですが(福岡高裁2007年10月25日判決)、その前段階として、一審(熊本地裁2007年1月22日判決)では、会社に約7,400万円の賠償金の支払が命じられました。これを不服とした会社は控訴し、その取消を求めたのが、この裁判です。

 裁判における争点は、別に本サイトに掲げられている電通事件同様、(1) 業務と自殺との間に因果関係が認められるか、(2)会社に義務(注意義務ないし安全配慮義務)違反があったか、(3)Aの性格や家族の対応などを損害額算定の際に減額事由として考慮すべきか、の3点です。

 福岡高裁の判断では、まず、Aの業務については、流れ作業方式で一見容易に見えるものの、長時間の作業では苦痛感などを生み、心理的に相当な負荷が生じるものと認められました。さらに、1月に100時間を超えるような時間外労働・休日労働と、リーダーに昇格したことによる心理的負担の増加によって、肉体的・心理的に相当過重な業務であったとされました。その結果、疲労困ぱいしたAは、病的な精神状態になったと判断され、上記(1)の因果関係を認めています。

 次に、上記(2)の義務違反の点については、まず、予見可能性(この事例の場合には、健康被害の発生の事前の認識が可能であったかどうか)について、会社がAの心身の変調を認識し、対応することは容易でなかったとしても、Aの労働時間や勤務状況などから、健康状態の悪化を招くおそれのあることは容易に認識し得たとされ、予見可能性有りと判断されました。そして、Aの時間外労働の状況の是正や職場環境への配慮を行わず、会社は漫然と放置していたとして、安全配慮義務違反及び注意義務違反を認めました。この点については、2005年の安衛法の改正によって、時間外労働時間が1か月で100時間を超える労働者については、本人の申し出によって産業医による面接指導を行うことが法律で定められるようになりましたが、本判決の立場からしますと、本人の申し出の有無にかかわらず、その健康状態に配慮し、すみやかに適切な措置を講ずることが求められます。

 最後に、上記(3)については、Aの変調が表面化してから自殺に至るまでの経過が急進的であり、本人や家族にとっても専門医の医療を受けるなどの行動を取ることは容易ではなく、むしろ、就労状況を見て会社が適切な措置を講じるべきであり、Aや家族に過失(落ち度)を認めることはできず、損害額を減額すべきではないと判断されました。また、Aの性格についても、損害額を減額するような要素は認められないとされました。

 本件の結論として会社側より、上告されましたが、受理されず確定しました。