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[事例8-1] 自殺者の発生を契機に職場としてメンタルヘルス対策が進められた事例

 某社では、本社のみ100人以上の社員がいましたが、日本全国に営業所をもち、各所は数名程度の社員配置でした。「社員は家族同然」という社風で創業50年にわたって自殺は1例も発生していなかったのですが、ある年不幸にして某営業所で自殺事例が生じてしまいました。自殺の原因は不明(おそらくご家庭の問題)でしたが、少なくとも過重労働であったり、職場の人間関係等で気がつかれるようなものはありませんでした。しかし、誰も自殺のシグナルに気がつくことができなかったことが、事業場全体で課題として浮かび上がってきたのです。職場に問題がなくとも悩むことはあるし、1日の大半を職場で過ごすのなら職場の誰かが気がついてやれなかったのか、本人や家族の問題と放置していては今回のような自殺は再発する可能性があるのではないか、ということです。このことは営業所から本店へ報告され、会社全体として自殺予防対策を行うことが決定されました。

  しかし、衛生管理担当者は困りました。これまでまったく経験がなかったからです。そこで彼は、まず本店の産業医に相談しました。自殺例は営業所の社員だったため、本店の嘱託産業医はその時初めて知ったのですが、彼はすぐに、「自殺予防対策」の多くは企業のメンタルヘルス対策活動そのものである、と言いました。まずは自殺も含んだメンタルヘルスの知識を社員が、特に管理職が持つことの重要性を指摘したのです。そこで初年度は、産業医にメンタルヘルスの管理職教育をお願いすることとなりました。産業医は内科のドクターでしたが、産業医研修などでメンタルヘルス教育を受講しており、さらに都道府県産業保健推進センターで図書の貸し出しやビデオ閲覧で当日の講演資料を作成し、1時間程度の講義とその後のディスカッションを行ったのです。

 すると、驚くことに衛生管理担当者や人事労務担当者が予想するよりはるかに多くの問題を管理職が抱えていることが分かりました。例えば、自律神経失調症という診断書をもとに欠勤を繰り返している例、アルコール依存症と考えられるが治療を受けようとしないで朝から酒臭いまま出社したり遅刻を繰り返す例、さらには職場に盗聴器が仕掛けられているなどと主張する例などもありました。どの例も、どこに相談を持ちかけて良いか分からずに、管理職が一人で抱え込んでいたのです。小さな営業所では1人でもそのような状態だと周囲にも負担がかかり、業務成績にも影響がでていると感じられたのです。

 そこで衛生管理担当者は、産業医と相談してまずは社内体制整備から取り組むこととしました。本社は産業医が相談にのれますが、営業所ではそのようなチャンネルがないので、地域産業保健センターや精神保健福祉センターなどの連絡先を確認し、何かあった時に相談できるようにしました。また、営業所所長会議の折りに必ずメンタルヘルス教育(外部講師)とその後のディスカッション時間を持つようにし、本社の産業医に同席していただくようにしたのです。

 数年後には、毎年の定期健康診断の折りにストレスチェック(職業性ストレス簡易調査票)を行い、高得点者には健診機関の保健師に面談していただくようにもしました。現在、幸いにしてメンタル不調者が増加するような傾向はなく、年に何例かの休務者が出ても、復職時面談や必要な場合の職場調整委員会の開催、試し(リハビリ)出勤制度なども整備され、多くは順調に復職されているようです。特に職業性ストレス簡易調査票での結果を職場ごとに分析し、仕事のストレス判定図から職場ごとの課題を抽出し、取組みを開始しているようです。けっして大企業ではなくとも、熱意のある担当者と、それを支える指導者がいれば、職場改善が進むことを示す事例でしょう。