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Q12:中小規模事業場に適したメンタルヘルス対策は?

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Q12:中小規模事業場に適したメンタルヘルス対策は?

【Q】質問

 わが国の事業場の大半は中小規模事業場であるにもかかわらず、行政から示される指針類は、大中企業を想定しているように思われます。建前はともかく、大企業と同様のメンタルへルス対策を中小規模事業場で推進するのは難しいという話を聞きますが、中小規模事業場に適した実施方法があれば教えてください。

【A】回答

1)中小規模事業場のメンタルヘルス対策の実際

 メンタルへルス対策の指針としては、2000年に発表された「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」に引き続き、2006年に改訂版として「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が発表されたことは、産業保健関係者には広く周知されていますが、中小規模事業場の事業者や担当者に浸透しているとは言えないようです。
 指針の基本的な骨子として、事業者の責任において職場のメンタルへルス対策を進めること、4つのケアとして、①セルフケア、②ラインケア、③事業場内産業保健スタッフによるケア、④事業場外資源によるケアを活用することが記載されています。さらに、具体的な対策の進め方として、A:情報提供と教育研修、B:職場環境の把握と改善、C:不調への気づきと対応、D:職場復帰支援の4つの方法を用いることが推奨されています。改訂版では、個人情報保護や小規模事業場におけるメンタルへルス対策の進め方などについての解説が付け加えられています。また、常勤の保健師等または衛生管理者を「事業場内メンタルへルス推進者」とし選出し、事業場の主体的な取組みを推進することが望ましいことが追記されました。 従業員数1,000人未満で専属産業医の選任が義務付けられていない中規模事業場では、常勤産業看護職(保健師、看護師)が雇用されている場合も多く、産業看護職が「事業場内メンタルへルス推進担当者」として従業員との信頼関係にもとづき職場ニーズを把握した上で、人事・労務部門および嘱託産業医と協力しながら、職場のメンタルへルス対策の推進役割を担うことができます。また、産業看護職が雇用されていない従業員数50人以上の事業場では衛生管理者がその役割を担うことが期待されています。また、50人未満の小規模事業場については、衛生推進者を「事業場内メンタルへルス推進者」として選出するとともに、地域産業保健センター等の事業場外資源の提供する支援を積極的に活用することが望ましいことが記載されています。
 しかし、「労働者健康状況調査」※1からも、中小規模事業場におけるメンタルへルス対策の実施率は、大企業と比べて低く、事業場規模による格差があるのが明らかです。上記の4つの方法のうち、A:情報提供と教育研修とB:職場環境の改善が一次予防活動、C:が二次予防活動、D:が三次予防活動になりますが、とくに、三次予防活動の実施率が低いようです。これは、事業場規模が小さくなるほど事業場内に専任の産業保健スタッフが雇用されていないために、専門的な知識を持った支援者が求められる職場復帰支援対策が難しいことや、大企業と比べて病気休職の可能な期間が短いために退職を余儀なくされる場合が多い可能性が考えられます。

2)一次予防活動

 そこで、中小規模事業場においてもっとも推進しやすく効果的な対策は、職場環境改善に代表される一次予防活動であると思います。一次予防活動は、職務上の目標共有や、上司-部下間および同僚間の情報伝達・日頃のコミュニケーション改善など、経営対策として従来から行われてきたいわゆる業務改善と合わせて行いやすく、進め方のコツと困った時の助言が得られれば、保健医療の専門職が社内にいなくても事業者と労働者が協力して進めやすい活動と言えます。また、情報提供や教育研修などは、各種媒体(リーフレットやDVDなど)を使ったり、外部機関に委託することも可能ですので、小規模事業場でも実施しやすい活動と言えるでしょう。
 経営者の感覚からも、働きやすく元気な職場づくりは生産性や労働意欲に直結する要素ですので、必要性を理解していただきやすいと思います。それぞれの職場に合う方法で進めていただいて構いませんが、一例を挙げると、日頃の挨拶・声かけの励行、談話室や休憩コーナーの設置、従業員間や事業場幹部との交流機会の増加、アサーティブなコミュニケーション方法や傾聴法に関する研修会の開催、メンタルへルス対策に関するリーフレット配布などです。さらに可能であれば、困った時に相談できる窓口づくりや相談可能な外部機関の紹介などの二次予防活動や、職場復帰支援の三次予防活動が加わればさらによいでしょう。
 メンタルへルスを専門とする専門職の支援を常に求めることは費用対効果から見て中小規模事業場では不適切と考えられますので、心身両面を含めた総合的なアセスメントと支援のできる保健師などの身近な助言者から定期的に支援を受けるような仕組づくりが求められます。そして、必要に応じて事業場外の精神科専門医などによる専門的支援を受けることが適切でしょう。目的・内容に応じて相談できる支援者を上手く活用することにより、小規模事業場においても、現場主体でメンタルへルス対策が行えるようになることが期待されます。

文献

  • ※1 厚生労働省.平成24年労働者健康状況調査.2012.

執筆者:錦戸典子(東海大学健康科学部看護学科)

【出典】産業精神保健 Vol.22特別号(2014)「職場のメンタルヘルスQ&A」(日本産業精神保健学会 編)