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Q11:労災保険法上の治ゆとは、どういう状態を指すのか?

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Q11:労災保険法上の治ゆとは、どういう状態を指すのか?

【Q】質問

 労災保険法上の治ゆとは、どういう状態を指すのか?

【A】回答

症状の固定した状態で判断

 労働者が発病した精神疾患が「業務上」の疾病として労災認定されると、当該精神疾患の療養には労災保険が適用され、「療養補償給付」が支給されます。(「業務外」の場合は、健康保険の適用)また、当該精神疾患の療養のため労働することができず、賃金を受けられない場合には、「休業補償給付」が支給されます。療養の期間については、当該疾患が療養を必要としなくなるまで、すなわち「治ゆ」するまでの期間とされており、これは精神疾患についても同様であり、精神科医としては、療養の過程を通じて、できる限り早期に患者の精神疾患を治ゆの状態にし、患者の社会復帰の促進を図ることが望まれます。しかし、労災事故後の療養開始日から1年6ヵ月(以上)経過した時点で、療養(補償)給付と休業(補償)給付の両方を受けている場合は、「傷病状態等に関する届書」を労働基準監督署に提出することになっており、その届書で「労働能力喪失率100%」と判定されると、労働基準監督署長の職権で傷病(補償)年金という障害(補償)年金に準じた労災保険給付が支給されます。傷病補償年金は1年半で1~3級は解雇権制限が解除されますが、4~14級は年金は出続け、解雇制限が継続することになります。
 労災保険法には、治療を補償する側面と後遺障害に対しての補償という二つの側面があります。たとえ疾病の程度が軽度であっても業務上と認定されれば、速やかに労災保険が適用されて、治療が開始され、できる限り後遺症を残さないような治療法が施され、社会復帰が促進されます。労災保険では、業務上または通勤による負傷や疾病が治った時に身体や精神に一定の障害が残った場合に、その障害の程度に応じて障害(補償)給付が支給されています。労災保険で治ゆという判断は、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状の改善の見込みがないと判断され症状が固定されているときを指し、症状が固定したという状態でその判断がなされています()。

 労災保険における「治ゆ」とは、身体の諸器官・組織が健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうものではなく、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療(注1)を行ってもその医療効果が期待できなくなった状態(注2)(「症状固定」の状態)を言います。したがって、「傷病の症状が、投薬・理学療法等の治療により一時的な回復が見られるにすぎない場合」など症状が残存している場合であっても、医療効果が期待できないと判断される場合には、労災保険では「治ゆ」(症状固定)として、療養補償給付をしないこととなっています。

(注1) 「医学上一般に認められた医療」とは、労災保険の療養の範囲(基本的には、健康保険に準拠しています)として認められたものを言います。したがって、実験段階または研究的過程にあるような治療方法は、ここにいう医療には含まれません。
(注2) 「医療効果が期待できなくなった状態」とは、その傷病の症状の回復、改善が期待できなくなった状態を言います。

執筆者:黒木宣夫(東邦大学医学部精神神経医学講座(佐倉))

【出典】産業精神保健 Vol.22特別号(2014)「職場のメンタルヘルスQ&A」(日本産業精神保健学会 編)