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Q4:うつ状態の診断で休職中の社員の治療方針を知りたい

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Q4:うつ状態の診断で休職中の社員の治療方針を知りたい

【Q】質問

 2ヵ月前から休職に入った女性社員がいますが、今日受診後の定期的な連絡を受けました。その際に気になったのは、「うつ状態」と診断されていてまだ状態が芳しくないにもかかわらず、初診時から薬が出ておらず精神療法のみで対応されているとのことです。薬が出ていないということは軽症だと思うので本当に働けないのかと勘繰ってしまいますし、もしそれなりに病状が重いのであれば薬がないままでは早く治らないのではないかと心配です。こういう形の治療もあるのでしょうか。休職中の治療方針について、一般的なものと特殊なケースがあれば教えてください。

【A】回答

1)治療の「3つの柱」 

 まず解答としましては、そのようなケースがあってもおかしくはありません。しかし、一般的には何らかの内服薬が処方されることの方が多いと思いますので、治療上何らかの理由があることが考えられます。理由とは、患者本人の要望や主治医の意図などがある場合が考えられます。
 治療には大まかに①休養、②薬物療法、③相談・精神療法・心理療法といった「3つの柱」があります。なかでも一番大切なのが①休養です。これはメンタルヘルス不調に限らずあらゆる疾患に共通の治療の大原則と言えます。捻挫や胃潰瘍などの身体疾患でも痛んでしまった患部は動きを制限することにより、自然治癒力を最大限に発揮させることができます。「メンタルヘルス不調」は言わば、「頭を酷使し、心身が疲弊しきってしまっている状態」です。少し生物学的な表現をしますと、過度な「脳の疲労」によってもたらされた病的な心身の状態ということになります。「脳」は人間のあらゆる機能をつかさどっている一番大切な臓器です。その脳が過度に疲労することにより、脳システム全体の働きにトラブルが生じ、心理的な症状や身体的な症状が現れてきます。PCの周辺機器は壊れていなくても、ハードディスクがうまく働かないと機器が機能を発揮しないのと似ています。
 さて、具体的な治療的休養ですが、そのレベルは大きく二分されます。動きを止めて治療する方法と、動きを制限して治療する方法です。前者は「いったん休職して治療する」、後者が「働きながら治療する」ということになります。社会的機能の支障の程度が大きく、また経過を追っても悪化する一方であれば前者を選択することになります。受診前にすでにそのような状態であれば自宅療養などが必要になります。そこまででない場合は残業を減らすなど負担を減らすことで対応することになります。
 2つ目の柱の②薬物療法ですが、不調者にとっての大変苦痛で不快な症状を軽減してくれます。根本治療とは言えないかも知れませんが、苦痛で不快な症状を耐えるだけでもエネルギーは消耗してしまいます。これ以上の悪化を防止するだけでなく、苦痛に耐える余計なエネルギーの消費を食い止めることにより、①の休養をより効果的に過ごせるため、本来の自然治癒力も発揮しやすくなり早期の回復を促します。そのため多くのケースでは何らかの症状に対する投薬がなされます。たとえばうつ症状には抗うつ薬、不安症状には抗不安薬、不眠症状には睡眠導入剤、躁症状には感情安定薬、幻覚や妄想には抗精神病薬など主な症状に対して内服薬の処方が行われます。
 このケースのように投薬がなされないのは、患者さん本人の要望、もしくは主治医の治療上の意図が考えられます。本人の内服薬に対する否定的な考えが強い場合には、主治医はまず治療関係を構築することを優先する場合があります。つまり初診時には内服を強要することにより通院が途絶えてしまう可能性が高ければ、まず通院を継続して治療が継続できるよう①休養を重視し、内服の必要性は治療関係が構築されてから説明していくという方針をとることもあります。また明らかな環境要因が発症に関わっていると主治医が推測した場合にも、①休養を重視し、内服については経過を追って検討する場合もあるでしょう。
 そして治療の3つ目の柱が③相談・精神療法・心理療法です。こちらは医師やカウンセラーとの診察やカウンセリングを通しながら進めていくものです。最近では認知行動療法がよく知られていますが、他にも森田療法、対人関係療法など様々あります。何かのストレスを受けたときの対処や物質的な事柄だけを指していないため、捉え方を見直そうというところが共通しています。ついついストレスを増大させてしまうような思考パターンや行動パターン、つまりその人の「考え方の生活習慣を見直す」といってもよいでしょう。これは高血圧や糖尿病といった生活習慣病の患者さんが内服治療だけでなく、食習慣や運動習慣の指導を受けて、そもそもの生活習慣の改善を促すことと似ています。患者さんの協力が必要なため治療の急性期には①休養と②薬物療法が優先されることが多いので、③相談・精神療法・心理療法の開始時期は医師やカウンセラーによく相談する必要があります。

2)確認をする際の留意点

 このケースですが休職してすでに2ヵ月経過しています。つまり①休養の治療が2ヵ月は行われていることになり、病気としては急性期は過ぎていると考えてもよいと思います。②薬物療法が行われていないのであれば、一般的には③相談・精神療法・心理療法の治療が行われているべき時期と思われます。「受診後の定期的な連絡」を行っているようですが、どのような専門的指導を受けているのか概要は本人に確認してもよいのではないでしょうか。その際の目安として1)診察時間、2)診察以外にカウンセリングやデイケア通所などが行われているか、3)専門家からの指導内容の3点を確認するとよいと思います。2ヵ月の休職をしていても、1)診察時間数分、2)カウンセリングなし、3)「変わりないか?」だけの問いで特別な指導なしなどであれば適切な治療を受けられていない可能性もあります。もしそうであれば、「円滑な職場復帰の事前準備を今の段階から進めていくため」という理由にて本人の了解を得た上で、産業医が主治医に対して情報提供依頼として率直に疑問点を投げかけてみてはいかがでしょうか。もちろん今後の連携を考慮の上、普段から自社の社員の治療行為に対する感謝を伝えつつ問い合わせる形をとります。具体的には、1)治療経過と現在の病状、2)今後の治療方針、を確認するほか、3)本人から定期報告で感じる疑問点を投げかけてみてはいかがでしょうか。とくに3)については、主治医にとっても診察の場では得られない貴重な情報であることもあり、治療上有用な情報にもなる場合があります。
 補足としてですが、産業医から医療機関を紹介する際についても大切なことがあります。単に「ご高診よろしくお願いいたします」ということだけではなく、受診させたいと判断した理由、つまり職場における従前の社会機能に比してどのように支障が生じているのかという具体的な内容が情報提供書に含まれていると、診断および治療の精度が高まることにつながります。

文献

  • 1 )高野知樹,佐藤恵美.もしもパパがうつになったら.東京:労働調査会,2013.

執筆者:高野知樹(医療法人社団 弘冨会 神田東クリニック)

【出典】産業精神保健 Vol.22特別号(2014)「職場のメンタルヘルスQ&A」(日本産業精神保健学会 編)