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株式会社小学館集英社プロダクション(東京都千代田区)

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株式会社小学館集英社プロダクション
(東京都千代田区)

 株式会社小学館集英社プロダクションは、「教育」と「エンタテインメント」の2つを事業の柱とする会社である。「教育」分野では、幼児教育、英会話教室、通信教育、そして保育園事業や刑務所での更生教育等の他、大人向けの文化・教養講座や、公共施設の管理運営事業等を行っている。「エンタテインメント」分野では、皆さんご存知のキャラクターの版権管理やアニメ・テレビ番組の制作、イベントなどのコンテンツビジネスをメインに事業を進めている。これだけ幅広く事業を行っているため、部署の移動は転職に近い感覚だともおっしゃっていた。
 1967年に設立。従業員数は全国で約400名ながらも、現場のスタッフや契約社員も含めると、約4000名規模になる。東京の本社地区の従業員数は約300名。
 今回は、総務局総務部次長の竹内俊司さん、課長の荒川人さん、健康相談室の苗加一男さんの御三方に、総務部が主管する健康相談室での活動内容を中心にお話を伺った。

「健康相談室」を中心とした職場のメンタルヘルス対策活動

最初に、「健康相談室」設置の経緯と活動内容について苗加さんを中心に伺った。

「当初は”医務室”として、体調が悪くなった従業員が少し休むくらいの部屋でした。10年位前に定期健康診断後の内科的な”有所見者”に対して、総務部から個別に声を掛け、産業医による面談を実施するところから始めました。その後、産業医といろいろと話していく中で、今後はメンタルヘルスの問題も企業の中で大事になるということもあり、少しずつメンタルヘルスを含む健康相談に移行していきました。そうして間口を広げる中で、名称を”健康相談室”と自称し、今では通称となっています。最近では、有所見者でない方にも声掛けして面談を実施していますので、皆1回は相談に来られていることになります。長年続けてきたことで一巡しました。このように相談室としての敷居を低くすることで、『あなたは1人ではないんだよ』、『1人で悩むことはしないで』といったことにも繋がります。また、私自身も知識を身につけるため、7年前に産業カウンセラー、並びにキャリア・コンサルタントの資格を取得しました。」

「入社時研修では、健康相談室として、2つ行います。1つは産業医によるメンタルヘルスを含む健康に関する研修。もう1つは、管理栄養士による食育の研修です。最近は1人暮らしの社員も多いので、食育は、メタボリックシンドロームのみならず、メンタルヘルスを含む健康面すべてに共通する予防対策事項だと考えています。また、メタボリックシンドロームの研修では自主参加ながら、98%の対象社員が参加しています。当社の従業員の間では、健康への関心が高まっている証しだと考えています。」

「最初、健康相談室の所管を人事部門にするのか総務部門にするのかという議論がありました。従業員にとっては、人事部門とすると、自身の健康情報が会社の評価査定に響いてしまうのではないかというイメージを持たれてしまって、相談することのハードルが高くなってしまうことを懸念し、結果、総務部門で行うこととしました。相談に際しては、プライバシーには細心の注意を払っています。これが私たちの基本姿勢です。また、健康相談室に相談したからと言って、すぐに人事的に配慮する訳ではありません。メディカルの部分と会社のビジネスの部分は厳格に線を引いています。健康面での相談に特化して相談対応しています。」

「面談は産業医が行います。私たちの主な業務は、事務処理や健康相談室の運営、スケジュール調整などです。従業員から直接相談対応を受けるのではなく、裏方に徹しています。産業医は非常勤にて月に3回訪問されます。衛生委員会への出席も含んでいます。また、産業医は、専門医への紹介先をいくつか持っています。メンタルヘルス不調者への対応では、あくまでも専門医の見立てをもとに、産業医が業務と照らし合わせて、産業医の立場で判断されます。産業医も『医師ではあるがメンタル専門ではないので、私が直接診断名をつけることはしないから。あくまでも面談と紹介の要否の確認がメインなので』と、立場を明確にしています。その点では、信頼できる専門医を紹介していただけることで正しい判断に繋がっているものと思われます。」

「最近は従業員が急激に増えたせいか、相談もいろいろな内容のものが増えているような感じがします。また、診断書をそのまま鵜呑みにするのではなく、精査していただくことも産業医の役割の1つになっています。」

「職場のメンタルヘルス対策に対しては、”会社として実現したいこと”を産業医に明確に伝えることで、産業医からも100%答えていただいていると思っています。産業医の指導を受けながら、この健康相談室ができたと言っても過言ではありません。私もこの会社の従業員ですので、当社に合った仕組みを産業医と話しながら作り上げてきました。時には、産業医から『産業医としての関わりはここまで』と言って専門職としての線引きをされることもありました。そのような時は確かに会社側で行う事案であるため、会社側で対応してきました。ただ、そのような場合でも産業医の指導を受けながら丁寧に対応をしてきました。健康相談室内で得られた相談事例はケーススタディとして蓄積し、今度は総務部として経営幹部へ働きやすい環境づくりのための提案を行っています。」

産業医と総務部門の担当者である三人の連携の上、「健康相談室」が機能し始め、結果、従業員に浸透されていったものと思われる。

職場復帰では本人にも周囲にもストレスがかからないように支援

次に「職場復帰支援の取り組み」についてお話を伺った。

「職場復帰支援においても、健康相談室における産業医の面談を重視しています。復帰に際しても、必要に応じて産業医から専門医へ紹介し、専門医の目でも判断してもらうようにしています。 」

「職場復帰の際は、周囲に目立たないよう、また本人にもストレスがかからないように、自然に復帰させることに気を配っています。元の職場への復帰が原則ではありますが、例えば、異動を伴う職場復帰の際は、定期異動の時期になるべく合わせるなどの配慮もしています。もちろん、本人の体調と主治医・産業医の判断、そして会社側の状況を重要視して、職場復帰可能のタイミングを判断しています。職場復帰可能の判断後は、会社側も本人も準備を整えて、自然に復帰できるように進めていきます。社員は会社にとって、大切な財産ですから。だからこそ順序に沿ってなるべく丁寧に、ストレスなく職場復帰させることは、すごく気を配りますね。そこは、産業医と健康相談室と復帰該当部署との間のパスワークだと思っています。復帰後のフォローアップとしては、復帰半年間の中で数度、復帰した職場での状況について産業医と面談していただいくようにしています。」

「メンタルヘルス不調は、病気が治ったから、じゃあ今日からすぐに復帰という訳ではなく、ゆっくりゆっくりと時間をかけてもと通りにさせたいという点で気を配りますし、そこをおろそかにしてはいけないと思います。産業医の見立てを基にしたメンタルヘルス分野の視点と、会社のシステム・体制からの視点とを相互に持ちながら進めていく。休職者本人と私たちとの間で、進むことも戻ることもお互い話し合い、納得して進めていくことで、大きな問題には発展しないものと思われます。これが当社の底力ですね。」

「つまり健康相談室としての活動のベースがあるから、職場復帰の際にも相談しやすい場所となっている。会社は、人の集まりですから、人の気持ちは人がケアできればいいなと。制度や機械が行う訳ではないので。」

「健康相談室」の日頃の活動があってこそ、メンタルヘルス不調で休職した後の職場復帰の際も、スムーズな支援かつ自然な復帰に繋がっているものと思われる。

講座を通じて健康への関心を高めると共に「健康相談室」を周知させる

最後に、「健康相談室」主催のイベントに関して、お話を伺った。

「健康相談室主催のイベントは定期的に行っています。4月の定期健康診断の後、6~7月に健康診断結果が戻ってくるので、”健康見直し週間”としてそれに合わせて昼休憩時にセミナーを行っています。また、10月は”健康増進週間”として1週間、ヨガ、空手、ピラティスなど身体を動かすものを中心に、日替わりで就業後の夕方に実施しています。本社以外の他の事業所などからも含め、約20名近くが参加しています。」

「上司と部下とのコミュニケーションが不足している中で、自然なコミュニケーションを作りたいと考えていました。このようなイベントでは、日頃1人で業務をこなしているような従業員も他部署の方と接することでつながりを感じ、結果、仕事の相談を行ったり、コラボレーションして仕事をすることに繋がったりしています。イベントに参加することで身体を動かすと共に、何かの時に相談できる知り合いを見つけることにも繋がります。就業時間中の研修などで仕事として強制的に作り出すコミュニケーションは、自然なものではなくなってしまい、それだけでは十分なコミュニケーションとは言えないと思います。コミュニケーションを自然なものとするためには、楽しく続くようなものであることが大切です。参加者が一緒になって身体を動かしてちょっと汗をかいて、皆共同で達成感を得られるものとして、これらのイベントを行っています。会社側で”きっかけ”をつくってあげるが大切だと考えています。」

「さらにこのイベントを主催しているのが健康相談室ですので、何かあったら、相談に来てくれれば尚良い。健康相談室の周知・浸透にこれらイベントは貢献しています。”医務室”ではなく、気軽に相談できる”健康相談室”。会社内においての、印象・イメージは大事だと実感しています。」

「私たち三人はお互いに話をし合うことで、”仲の良いチーム”を形成しています。問題をそれぞれが抱えているのではなく、お互いに意見を言い合える仲間です。私たち担当者は表に出ず、裏方に徹しようというのが基本的な考え方としてあります。いつでも相談できる場所、ちょっと相談したい時に相談できる相談室でありたい。窓口の入口は広く、敷居は低く、でも普段は前に出ていかない。健康相談室は、気づけば誰でも知っている存在にやっとなってきたのかなと思います。」

ただ単に「健康相談室」を設置しただけでは、内勤者全員に周知されるまでの浸透はなかったのではないかと思われる。相談室担当者として、従業員に産業医との面談を働きかけたり、セミナーや社内交流などのイベントを通じて、「健康相談室」の存在を知ってもらったりするよう、相談室から能動的に行動を起こすことが重要である。そして、担当者は1人で抱え込まずに、チームで対応することの大切さも感じられた。

【ポイント】

  • ①社内で相談室を設置する際は、産業医の指導を受けながら体制・仕組みを作り上げていく。
  • ②相談室を社内に設置し従業員に日頃から周知することで、相談することへの抵抗感が低くなり、結果、スムーズな職場復帰に結び付く。
  • ③相談室は実際の相談は産業医が行い、事務方は裏方に徹し、役割を明確にしている。
  • ④相談室の担当者は、相談室で待つだけではなく、産業医との面談を促したり、健康に関するイベントなどを実施したりして、能動的に活動する。

【取材協力】株式会社小学館集英社プロダクション
(2014年8月掲載)