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[事例7-1] 新幹線上野地下駅の設計技師の反応性うつ病―精神障害労災認定第1号―

1 概要

 業務による精神的ストレスを受けたことによって発病し、自殺(未遂)に至った労働者から、労災保険による保険給付の請求がなされていた反応性うつ病(当時の診断名)と自殺(未遂)による負傷について、昭和59年2月21日、中央労働基準監督署長が業務上と認定しました。このケースは、判断が困難であるとして、東京労働基準局(当時。現:東京労働局)を経て労働本省(当時。現:厚生労働本省)に判断が委ねられていたものです。

 このケースの概要は、次のとおりです。


  1. (1) このケースの患者(男性、発病当時31歳。以下「被災者」という。)は、昭和45年4月、鉄道関連施設の設計等を行う建設コンサルタント会社に入社、設計技術者として高架橋、駅舎等の地上構造物設計を主たる業務としてきました。 昭和53年9月に国鉄(当時。現:JR)から受注した東北新幹線上野地下駅詳細設計の業務に技術面における事実上の責任者として従事しました。

  2. (2) この設計業務には、次のような強い精神的、身体的ストレスがありました。

    ア 大都市ターミナル駅における極めて大規模な地下駅としての特殊性による技術上の困難性。例えば、新幹線としては初めての地下駅であること、当時の地上在来線ターミナル駅と連絡した最大の地下駅であること、駅周辺地区の都市整備計画が同時に検討されているため付随する検討事項が多いこと、在来の国鉄線、地下鉄銀座線、跨線連絡橋、道路橋等の機能を維持した施工が必要であること等の事情がありました。

    イ 応用例のない新技術の導入による技術上の困難性。すなわち、仙台地震の教訓から耐震設計の新しい手法である応答変位法を取り入れることになりましたが、この手法を実際に応用した例がなく、この実用化のための理論の確立に非常に難渋した経緯がありました。

    ウ この設計業務には、発注者による相次ぐ設計条件の変更があったため、納期確保の困難性がありました。この設計は、昭和53年9月27日に契約、翌年3月26日に納品とされていたものですが、11月に前記の応答変位法の導入決定があったほか、設計条件の変更は再三にわたり、最終的に設計条件が固まったのは昭和54年2月でした。

    エ この設計業務の受注は、被災者の会社を中心とする三社で受注しているため、種々の調整、打合わせ会議が頻繁に行われており、業務量の増大要因、すなわち長時間労働の要因の一つとなりました。

    オ 以上のような状況においても、困難性に対処するための上司からの適切な助言等は得られず、例えば、応答変位法導入の技術的相談は被災者が直接国鉄技術陣に行うという状況にありました。

  3. (3) 被災者は、昭和53年11月頃から身体の不調、不眠等を訴え、昭和54年1月、某病院の精神科に受診して「神経症」と診断されました。その後、同年7月までの間に大学病院等で、「うつ病」あるいは「心因反応」と診断されて通院または入院による治療を受けていました。同年7月2日より出勤を再開しましたが、仕事に対する自信を極度に失っている状況にあり、同月16日に技術主任から課長代理に昇進した後、同月19日、通勤途中の駅ホームより電車に飛び込み、両下肢切断の重症を負ったものです。

2 労災認定のポイント

 認定当時は、認定基準(平成11年9月14日付け基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」)は策定されておらず、個別的に判断したもので、当時の判断の概要は次のとおりです。


  1. (1) 被災者の業務には、反応性うつ病の発病原因として十分な強い精神的ストレスがあると認められました。
  2. (2) 被災者には、このような精神障害にかかりやすい性格特性が認められるが正常な者の通常の範囲を逸脱しているものではないと判断されました。
  3. (3) 業務以外の精神的ストレスの原因があると認められましたが、反応性うつ病の主たる発病原因となるような強いものではないと判断されました。
  4. (4) 主治医を含む多くの精神科医の意見の多くは、業務との因果関係を肯定するものでした。

 以上から被災者の疾患は、業務との間に相当因果関係があるものと判断され、労働基準法施行規則別表第1の2第9号「その他業務によることが明らかな疾病」に該当するものとして認定されたものです。また、被災者の自殺企図は、反応性うつ病の一症状としてしばしば認められる自殺念慮が発作的に生じた結果の事故と認められ、反応性うつ病とこの事故による負傷との間にも相当因果関係があるものと判断され、この負傷についても業務上の災害と認められました。

 なお、認定の背景としては、本人や家族はもちろん、会社や関連会社、さらに主治医などが調査に協力的で、十分な資料が得られたことがあげられます。