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第1回 産業医として

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産業医として

スタンレー電気株式会社 秦野製作所
産業医 池上 和範 さん

産業医の活動

 私が産業医としての活動を始めて8年程になります。この間、職場からはメンタルヘルスに関する諸問題への対応を常に求められ、それに要する時間と労力も他の産業医業務に比べ、より大きかったと実感しています。しかし、費やした時間や労力に見合う十分な成果が出ているかというと決してそうではなく、一進一退を繰り返しながら漸く改善に向かっているという状況です。

 メンタルヘルス対策における産業医の具体的な活動は、従業員への相談対応、過重労働対策、休業者の職場復帰支援などの個人的アプローチと、メンタルヘルス教育、ストレスチェックによる職業性ストレス要因の評価、職場環境の改善などの集団的アプローチをバランスよく実施し、対策を実効的に推進していくことです。既に多くの事業場で職場復帰支援の制度などの三次予防が導入されており、その効果が発揮されています。今後は、職場全体で不調者を早期発見し、迅速な対応を取るための二次予防、さらにメンタルヘルス不調の発生を未然に防ぐための職場環境の改善といった一次予防へシフトし、集団へのアプローチが重要になってくるものと思われます。

果たすべき役割の変化

 このような流れとは別に、メンタルヘルス対策において産業医が果たすべき役割が変化していると感じることがあります。産業医を始めたころは、私自身がメンタルヘルス不調を有する従業員への対応を職場から求められることが多かったのですが、最近は人事担当者や管理監督者が精神疾患を有する部下へ対応する場合の助言を求められることも多くなってきました。メンタルヘルス不調により休業した従業員についても、当初は私が休業者との面談を適宜調整し、健康や生活の状態を評価してきましたが、最近は休業者の方から産業医面談の申し入れが行われたり、生活の記録を作成し自らの体調を自己評価して産業医へ報告する事例が増えてきました。また、人事担当者や衛生管理者から、新たなメンタルヘルスに関する支援策の提案を受け、その実現のために必要なツールや他企業の取り組み例を紹介されることもあります。職場のメンタルヘルスケアが、”産業医に一任”ではなく、”職場が中心となり率先して取り組むべき活動”として認知されるようになりました。産業医の役割も、従業員に対して面談や治療を施したり、陣頭に立ってストレス対策に取り組むこと以上に、専門的立場からの助言・指導により職場を側面支援することが求められているように思います。

職場を中心としたメンタルヘルス対策

 ここで職場が中心となってメンタルヘルス対策を進めた事例を紹介します。主に研究・開発や設計業務を行う事業場(従業員数約150人)では、仕事の質・量ともにその負担が大きく、メンタルヘルス不調による休業者が増加傾向にあり、管理監督者の一人から職場でメンタルヘルス対策を推進したいという相談を受けました。手始めに、一般従業員との面談や職業性ストレスの評価、職場環境の改善要望の調査を行い、その結果をまとめて管理監督者に報告しました。その後も、従業員との面談を繰り返し医療機関への受診勧奨やストレス対処法の指導を行ったり、管理監督者へ職業性ストレス要因の軽減を意見しましたが、現状は変わりませんでした。

 そこで、アイゼンベルガーの知覚された組織支援(Perceived Organizational Support; POS)を引用し、”上司と部下が直接的に支え合える関係を構築することが、仕事のモチベーションを高め、ストレスを緩和する。特に上司の役割は重要であり、部下は上司の行動を組織そのものの行動と認知し、組織へ貢献しようとポジティブになる”ことを説明しました。数日後、その管理監督者から”個々で完結してしまう業務が多く、上司と部下の会話がほとんどなかったので、これからは上司から部下に一日一度の声掛けを徹底させること、部下の健康状態を上司の視点から定期的に評価できるようなツールを活用してみること、近日中に自ら部下全員と面談をすること”などの提案がありました。そして、これらの実施にあたってのポイントや注意点についての相談を受けたため、私は傾聴による対話やプライバシーへの配慮を心掛けること、部下に異変を感じた場合は産業医へ繋ぐこと、持続的な取り組みにすることなどを助言しました。その後、人事担当者や衛生管理者も協力し活動を継続することで、次第に休業者は減少していきました。職場が主体となって、適切な情報、産業医の助言、有益なツール、職場関係者間の連携を活用し、快適に働ける職場づくりを目指した好事例でした。

 最後に、管理監督者と従業員が一丸となってメンタルヘルス対策に取り組む職場が益々増え、快適な職場作りが企業風土となり、全ての労働者が健康に働くことが出来るような将来を見据え、産業医として私は今何をすべきかを改めてよく考えようと思います。

 産業医とは、労働者の健康を保持するため労働者の作業環境や作業管理、健康管理に関して専門的立場から助言・指導を行う医師のことを示します。産業医は労働安全衛生法に基づき常時50人以上の労働者を使用する事業場において選任する事業者の義務があります。