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鉄建建設株式会社(東京都千代田区)

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鉄建建設株式会社
(東京都千代田区)

細谷さん  鉄建建設株式会社は、1944年2月に設立。鉄道分野を含めた、土木事業と建築事業による社会基盤インフラの整備を主な業務とする総合建設業である。
 従業員数は、1,810名(2020年3月現在)。全国に12の支店と8つの営業所がある。
 今回は、安全推進室安全品質環境部長の細谷浩昭さんからお話を伺った。

建設業の作業現場においては、日常的な安全確認業務と一緒に、簡単にできるメンタルヘルス対策活動を合わせて行う

職場のメンタルヘルス対策活動およびストレスチェック制度の実施、職場環境改善の取り組みに関してお話を伺った。

(「心の健康づくり」推進表明) 「建設業は全体的にメンタルヘルス対策が遅れていると感じています。作業員の方は、建設現場だけで見ると日中の働く工事時間は決まっているので、残業もあまりありません。ただ、当社はゼネコン(総合建設業)ですので、社員は現場の管理を終えた後、夕方から図面を書いたり、様々な書類を作ったりといった作業が深夜まで続き、長時間労働になることもあります。また、工期の厳しいものは、その分の調整作業も必要になります。そのあたりで、過重労働やメンタルヘルスの問題を抱えています。」

「そこで、厚生労働省の“労働者の心の健康の増進のための指針(メンタルヘルス指針)”に基づき、当社も“心の健康づくり計画”を策定しようと、2011年1月から経営会議で実施方法や検討項目などを報告し、準備をはじめました。そして、2011年5月に当時の社長が心の健康づくりへの取り組み姿勢を表明し、本格的にメンタルヘルス対策を始めました。」

「計画を策定するにあたっては、まず、私自ら、中央労働災害防止協会が実施している“事業場内メンタルヘルス推進担当者養成研修”を受講し、職場のメンタルヘルス対策について学びました。また、東京産業保健総合支援センターに、“心の健康づくり計画”の策定の相談に行きました。2011年当時、建設業で心の健康づくり計画を策定している会社は、ほとんどありませんでした。そこで、東京産業保健総合支援センターのメンタルヘルス対策促進員の支援を受けて、建設業にあった形で文言や内容を修正し、“心の健康づくり計画”を策定しました。計画の中では、本社、支店、箇所長(管理監督者)、社員について、それぞれの責任と役割を定めています。また、本支店においては、メンタルヘルス推進担当者を選任しました。」

(「こころの耳電話相談」案内ポスター) 「メンタルヘルスに関する教育については、まず、箇所長(管理監督者)を対象にしたラインによるケアが大事だと考え、当社の特性にあった研修スライドを作成し、私自ら講師として2011年から1年かけて全国の本支店で実施しました。当時はまだ 『メンタルヘルスって何?』といった感じでしたので、会社にもメンタルヘルス不調となりうる要因があることを知ってもらうように心がけました。研修の最初に“職業性ストレス簡易調査票”をチェックして、自身のストレスに気づいた上で、管理監督者の役割の他、積極的傾聴法やセルフケアについても説明しました。」

「周知・啓発活動としては、毎年、労働衛生週間に合わせて、職場のメンタルヘルスに関する既成の小冊子をまとめて購入の上、社員全員に配布しています。会社で見てもらうのもよいのですが、自宅に持ち帰ってもらい、家族の方々と共に心と体の健康づくりを意識してもらいたいという思いがあります。また、メンタルヘルスの外部相談窓口として、健康保険組合の電話相談窓口を紹介しています。協力会社の作業員も利用できる相談窓口としては、当社独自に“こころの耳電話相談”の案内ポスターを作成し、各作業現場で貼ってもらうようにしています。」

(ストレス対処法啓発ポスター) 「さらに、ストレス対処法の啓発ポスターを作る際には、社員の間でより強く意識してほしいとの思いから、オリジナルのキャラクターを作ろうという意見が出ました。5つくらいのキャラクター案の中から、ミツバチが選ばれました。優しいイメージと共に、ミツバチの勤勉なイメージが当社の社風に合っているという意見がありました。さらに、ヘルメットを被ったり外したりすることで、仕事のオンとオフの切り替えを表現しています。その後、社員や協力会社から名称を募集して、“てっくん”に決まりました。当初はあくまで安全環境本部だけのポスターに使われる非公認キャラでしたが、メンタルヘルス対策などの地道な活動を通じて、今では当社の企業ロゴを付けた公認キャラとなりました。最近では、“てっくん”のぬいぐるみや着ぐるみも制作し、子どもを対象とした現場見学会にも使用して人気が出てきています。」

「法に基づくストレスチェックの実施は、本社の総務部門が中心となって、社内のイントラネットを利用し、全社員がパソコン上で受検しています。個人結果は、その場で本人が確認できます。また、高ストレス者に関しては、本支店の実施事務従事者がとりまとめた上で、実施者である産業医に確認してもらい、必要に応じて面談を行っています。また、部門ごとに集団分析結果をとりまとめた上で、毎年経営会議で報告し、検討しています。」

(建災防方式健康KYポスター)「職場環境改善活動として最近実施し始めたのが、“建災防方式健康KY”です。健康KYとは、建設現場における日々のKY(危険予知)活動の中で、睡眠、食欲、体調に関する3つの問いかけを職長から各作業員に毎日繰り返し行い、日々の体調の変化を把握する取り組みです。高ストレスやうつ、睡眠不足が不安全行動につながる。そして不安全行動が、工事事故、労働災害につながるということを知ってもらいたいという思いがあります。このポスターも各作業現場で貼ってもらうようにしています。」

「また、名古屋支店では独自に“心のパトロール”を2008年から実施しています。月に4回ほど行う管理監督者の安全パトロールの際に、支店の管理部門の社員2,3名も同行し、現場社員に対して最近の様子や日常の業務、健康状態などの他、キャリア形成的な視点として、今後の希望や夢などを聞きます。その上で、必要に応じて会社側も考慮するといった双方向のコミュニケーション活動を行っています。遵守活動の一環として、安全面だけではなく、個人の健康面も見ることにしています。“心のパトロール”では、実際にどのように何を聞いていくか等を記載したガイドシートを活用しています。また、終了後は報告書を作成し、回答の必要なものは支店掲示板などにてフィードバックしています。」

「その他、会社全体としては、2014年度より年4回、各回約12現場に経営幹部が出向き、全国の作業現場の安全パトロールに合わせ、現場社員との“意見交換会”を実施しています。本社と現場とのコミュニケーションの活性化を図るとともに、直接現場に行って、全員いる中でも話しやすい場を作った上で、本人の今後の希望、会社に対する要望、不平不満も含めて、意見を聞いています。意見交換会後の懇親会で個別に意見を聞くこともあります。」

「意見交換会の中で社員から出てきた意見項目は、まずできるところから問題解決していこうという考えから、意見をまとめ、経営会議で報告、検討しています。その上で、要望に対する回答や対応策について、社内のイントラネット上でフィードバックしています。」

「例えば、独身者の帰省旅費の費用負担は、この意見交換会の中から出てきた制度です。『盆暮れに実家に帰りたいが、帰省費用を出してもらえませんか』という意見が社員から出てきて、経営幹部で検討した結果、夏季と年末年始の年2回、帰省する際、会社側から交通費を支給することにしました。これまでは、既婚の単身赴任者の帰省交通費は支給していましたが、独身者にも対象を広げることにしました。社員の意見要望を踏まえて、少しでも前向きに働いてもらえるようにと取り組んでいます。」

「さらに、最近では、下請けの協力会社の方々との意見交換会も始め、できるところから改善しています。例えば、建設現場ではいまだに、和式便座の簡易トイレが多いのですが、今後は洋式便座の水洗トイレを基本とするように切り替えています。また、女性専用の更衣室やトイレ、シャワールームを設置するといったことも増やしています。」

「ゼネコンの立場としては、現場で実際に作業する協力会社の方々も合わせて、皆が働きやすい環境を提供することが大事です。仕事量など仕事そのものでは変えられない部分もありますが、そこでストレスを感じたとしても、衛生面など作業環境を変えていくことで、気持ちよく働けるようになると、ストレスも軽減されていくのではないかと考えています。」

「このように様々な機会を通じて、職長から作業員への声かけが日常的に多く行われることを願っています。声かけの中で状況確認と合わせて意見を聞いた上で、できるところから対応していくことが大事です。職長からコミュニケーションを取ることで、作業員たちから相談も来るようになるし、こう変えたらいいんじゃないかといった意見も出てくることにつながります。さらに、協力会社の作業員の方々も他のゼネコン会社の下で働くことがありますので、他のゼネコンと比較されても当社の現場で働きたいと選んでもらえるようになりたいと努力しています。」

【ポイント】

  • ①まずは「心の健康づくり計画」を策定し、それぞれの責任と役割を定め、事業者が積極的に推進する旨を表明する。ノウハウの情報が少なければ、産業保健総合支援センターや一般公開されている研修などの社会資源の活用も有効である。
  • ②自社の社員だけではなく、協力会社の社員に対してもメンタルヘルスの相談窓口を紹介し間口を広げ、現場の意見を聴く機会にて情報を収集し、職場環境改善につなげる。
  • ③建設業においては、日常的な安全確認業務と一緒に、「健康KY」や「心のパトロール」などメンタルヘルス対策活動を合わせて行う。

【取材協力】鉄建建設株式会社
(2020年6月掲載)