事業者・上司・同僚の方へ

支援する方へ

コンテンツ一覧

第10回:株式会社構造計画研究所(東京都中野区)

読了時間の目安:

13

株式会社構造計画研究所
(東京都中野区)

 株式会社構造計画研究所は、1959年に設立された。社員数は、548名(2013年7月現在)。本所所在地である東京都中野区周辺で約450名、熊本県菊池郡の研究所で約60名、それ以外は、支社や営業所となる。メンタルヘルス担当者は、本所地区が2名、熊本地区が1名となっている。

 工学的な知識を基盤としたコンサルティングやシステムソリューションを提供している。 システム開発、構造設計、専門コンサルティング等の技術者が7割を占め、他は営業が2割、管理が1割となっている。技術系の業種のため、男女比は3:1と男性が多い。
 今回は、本所地区でメンタルヘルス担当をしている、総務部総務室室長の酒向雄介さん、総務室の小島有香子さんにお話を伺った。

総務部員が自ら各部門会議に出向き説明

最初にこれまでのメンタルヘルス対策、職場復帰支援の取り組みの歴史について、お話を伺った。

「当社のメンタルヘルス対策は、2003年から始まりました。当時は、メンタルヘルス不調者本人も上司も、不調であることを話題にしづらく、表に出さない傾向があったかと思います。よって、会社を休む場合も、他の理由を届け出て休んでいることもありました。会社の方もメンタルヘルス不調は個人の問題だと捉えている感があったのかもしれません。」

「2003年にメンタルヘルス不調からの復職対応が必要な事例がありました。そのため、外部EAP機関等が行っている無料セミナーをいくつか受けて学んで、自分たちで用紙3枚分にまとめた復職プロセスのガイドラインを作成しました。復職に際しては、条件付き出社をしながら、負荷を軽減して、徐々に身体を馴らしていくというものでして、現在と基本は同じです。しかしながら、再休職率は高いままでした。当時のガイドラインでは、復帰の判断があいまいだったことがあります。よって、本人が『もう良くなったから、出社する』となれば、そのまま復職を可能にしてしまっていることもありました。運用面での失敗と言えるでしょうね。」

「職場復帰の判断」を明確にすることが職場復帰成功の鍵になるものと思われる。

「2007年に総務部に新しい部長が就任して、メンタルヘルス対策に本腰を入れて対応することとなりました。部長はお客様と対峙する現場の出身でしたので、当社の職場環境もよく分かっていました。そこで、3つの重点施策を掲げました。”①担当者の選任”では、総務部2名がメンタルヘルス担当者として兼任することとしました。現在は私たち2名です。ただ、総務部として他の業務もありますので、メンタルヘルス関連の業務は2人合わせて2割程度の時間としています。”②労務担当者の育成”では、私たち2人が産業カウンセラー資格を取りましたし、大阪商工会議所が運用するメンタルヘルスマネジメント検定も部長以下5名で受検しました。”③EAP連携強化”では、これまで契約していた外部EAP機関を見直して、休復職のプロセスにおいても面談などを通じて、積極的に関与するEAP業者に変更しました。、2000年以降、会社業績の変動や制度の変更など重なり、元気のない社員が多く感じられました。だからこそ、メンタルヘルス問題は、個人だけの問題にできず、会社、組織やマネジメントの課題でもあると認識しました。個人と総務と所属部門の連携が必要です。」

「メンタルヘルス対策の強化方針として、予防と早期対応の重要性を伝えるために、”総務部が目指すのは会社のお母さん”を掲げました。会社の制度をつくって運営を指示していく経営企画部が”お父さん”ならば、総務部は社員から相談してもらえる、頼られる存在、そして会社と社員の架け橋という点から”お母さん”と表現しました。」

「メンタルヘルス問題は個人だけの問題にできず、会社や組織やマネジメントの課題でもある」と社員皆で認識することが大切である。

「特徴的な活動内容として2点紹介いたします。1つ目は、”部門会議訪問による福利厚生の利用促進”です。総務部長の思いとして、『総務部は、社員へのサービス部門なんだから、社員が幸せな職業生活を送れるように、自ら社内で営業していかなければならない』との考えがありました。そこで、総務部が社員を招集して、話をする場をつくるといった集合研修を行うのではなく、私たちが自ら出向き、各部門で定期的に行われる部門会議にて、15分程時間をもらって、メンタルヘルスに関する相談窓口の案内など、福利厚生の利用促進を説明することにしました。説明の後に質問の時間を取るのですが、たいていは予定よりも多く時間はかかってしまいます。それだけ問題を抱えていたことの表れでしょう。」

「活動内容のもう1つ目は、”健康診断時の健康相談コーナーの設置”です。当社の35歳以下の社員に対する健康診断では、健保組合の健診チームに当社に来てもらって、健康診断を実施しています。対象者は約200名ですかね。4,5年前、その健保組合から、健診後の保健師の面談サービスが無くなることを伝えられました。正直困ったのですが、ならば、私たち総務部担当者が”健康相談コーナー”をつくって対応しようということになりました。健康診断終了後に、ちょっとしたお菓子やパンが食べられるスペースをつくり、そこでの雑談を通じて、私たちの顔を売ることにしました。中には、真面目な相談が始まる場合もありましたので、そういった場合は、後日時間をとって、面談することとしました。今年で4年目になりますが、『なんかあったらこの人たちに相談していいんだな』と多くの人に感じてもらっているようです。」

「このような地道な活動が、総務部と社員の間に信頼を芽生えさせたのかもしれませんね。相談件数は増加しました。本人からの相談は多いのですが、上司や同僚からも『あの人が心配だ』と、相談されることが増えたと感じます。様々なラインから情報が来るようになり、早期発見が可能となり、休職まで至らず、有給休暇の範囲内で復帰、または復帰が早くなるケースが多くなっていると思います。」

「健康診断時の健康相談コーナーの設置」にてお菓子を準備するといったアイデアは、小島さんが考えられたそうだ。困難な時ほど、関係者同士語り合うことで、良いアイデアが生まれる。ピンチをチャンスにした結果、事業場内メンタルヘルス担当者としての2人の顔を売ることに繋がり、結果、相談件数増加に繋がったものと思われる。

労務リスクに対応するために専門の外部社会保険労務士と契約

次に現在の「職場復帰支援プログラム」の特徴についてお話しを伺った。

「2007年に再度まとめ直した”メンタルヘルス不調の復職プロセス”においては、ポイントは5つあります。1つ目は、”休職中から本人の状況が把握できる仕組みづくり”として、休職の段階から外部EAP機関の担当カウンセラーが定期的な面談を通じて寄り添い支援しています。職場復帰においては、外部EAP機関のカウンセラーによる支援が重要な役割を果たしています。2つ目は、”主治医の先生への適切な状況説明”です。診察時、本人が主治医に説明する際に、会社の職場環境や業務内容を伝えるための説明文書を事前に一緒にまとめています。3つ目は、”復帰前後の注意点を関係者で協議し共有”することとしています。休職期間が長かった社員には、復帰前に2~4週間のリワーク出社を行い、通勤や作業のトレーニングを行います。2週間で遅刻が2回以上の場合は、再度、リワーク出社の前段階である自主トレーニングの段階に戻る条件としています。4つ目は、”会社として上司に再発防止のために考慮して欲しい条件を具体的に提示する”ことです。復帰後の上司によるアフターフォローは重要です。それを具体的に提示しないと伝わっていないものと思います。5つ目は、”会社として、本人に仕事をする上でクリアして欲しい条件を具体的に提示する”ことです。先程の上司と同様に、本人にも乗り越えていただきたい条件は具体的でないと伝わらないと思います。」

契約している外部EAP機関を上手に活用できている様子が伝わってきた。休職中からの支援を通じて変化を知ることができるからこそ、円滑な職場復帰支援に繋がるものと思われる。
次に職場復帰支援に付随する規程類に関してお話を伺った。

「メンタルヘルス対応においては、会社側にとって、メンタルヘルス問題特有の労務リスクが顕在化してきました。社内規程の見直しに際し、専門家に相談したかったのですが、外部EAP機関は労務分野の専門家という訳ではありませんし、既に契約している社会保険労務士は、保険や年金の手続き関係のみでした。そこで、労務関係のメンタルヘルスセミナーにて講演されていた社会保険労務士で産業カウンセラーでもある方に、自らお願いして、月1回来社していただき、社内規程や労働基準法に関して実務に即した課題を相談することにしました。」

社会保険労務士の業務内容は、保険や年金の手続きといったことに目を向けがちではあるが、就業規則などの規程類の策定他、労務管理の支援が主である。会社側が必要とする役割ごとに、複数の社会保険労務士と契約することも一手である。

「傷病休業規程において、従来は身体の病気やケガを想定して作成されていたため、運用面において、いろいろな不都合が生じていました。そこで、新たに契約した社会保険労務士のアドバイスのもと、メンタルヘルス不調による休職を想定し、現状に見合った規程に改訂することにしました。具体的な項目は、”休職開始のルール”、”復職のルール”、”休職期間の設定”、”休職期間の通算ルール”などがあります。」

「例えば、”休職開始のルール”においては、”改訂前”の文章では本人が医師の診断書を提出し申請したら自動で休職開始との意味合いが強く、実務上使い勝手が悪かったです。本人が休みたいから休むのではないと。あくまで、会社にとって休ませる必要があるから休職を発令するのだと認識してもらうために、”改定後”は、”会社の指示”であることなどを明示しました。」

【改訂前】
・業務外の傷病(通勤途上災害による傷病を含む)により勤務不能の場合は、傷病休業とする。
(運用上医師の診断書提出を義務付けていたが規程に明記していなかった)

【改訂後】
・業務外の傷病(通勤途上災害による傷病を含む)により勤務不能の場合は、会社の指示により傷病休業を命ずる。
会社は、社員が休業する必要性を判断するために、社員に対し会社指定の医師への検診を命ずることがある。社員は正当な理由なくこれを拒んではならない。

規程類には会社の思いが込められている。社員を大切にしたいという思いがあるからこそ、会社の指示のもとに傷病休業や指定の医師への検診があるということを明示しておく必要があると思われる。

「私たちは2人でメンタルヘルス対策を担当していますが、他にもたくさんの仕事を抱えていて、メンタルヘルス対策に割ける時間はそれぞれの業務時間の2割程度にすぎません。しかしながら、月1回来社し健康相談を実施している”産業医”、対応が困難ケースを中心に相談に乗っていただく”社会保険労務士”、社員や家族の対面相談と電話・メールでの相談を行う”外部EAP機関のカウンセラー”、そして、私たち二人が相談対応したものに人材育成的な観点から助言をしてくれる大学の教育学の先生に”スーパーバイザー”をお願いしているといったように、多くの外部機関の支援があって、当社のメンタルヘルス対策は運営されています。」

人と組織を元気にすることが本当の仕事

最後に、今後の取り組みに関してお話を伺った。

「今後は、メンタルヘルス不調になった段階での対応を中心としたメンタルヘルス対策から、キャリア開発や人間関係・組織全体の活性化による社員活力のベースアップを図っていきたいと考えています。私たち総務部は”人と組織を元気にすることが本当の仕事である”と考え、組織内の良質なコミュニケーションをデザインするために、全社員が集まる社内フォーラムという全社行事でグループワークを実施したり、自社ビルの1階に社員が自由に使えるコミュニケーションスペースを設置するなどしてきました。価値観の多様化により、昔のような以心伝心は不可能です。コミュニケーションは、理念やビジョンを共有するために必要なものであるからこそ、私たちがデザインして示していくことが大切です。」

「コミュニケーションをデザインする」とはさすが、構造計画の専門会社の考え方だと思った。メンタルヘルス対策やキャリア開発の構造の土台となるものが、コミュニケーションであり、今の時代、その場を会社が積極的に用意し、教育並びに推進していく必要があることを改めて認識した。現場視点で様々なアイデアが出てくるのも、これらの副産物だと思われる。





【ポイント】

  • ①復職の際、会社として(1)職場に求めていること(2)本人に求めていること、を明確に伝える。
  • ②外部EAP機関を上手に活用する。
  • ③集合研修ではなく、あえて人事労務部門自ら各部門会議に出向き、メンタルヘルス教育、並びに社内体制について説明する。
  • ④労務管理問題の相談先として、メンタルヘルス分野に詳しい社会保険労務士と契約することも考えてみる。