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第7回:株式会社ダイキアクシス(愛媛県松山市)

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株式会社ダイキアクシス
(愛媛県松山市)

 株式会社ダイキアクシスは、愛媛県松山市に本社を持つ従業員規模約500名の企業である。1958年に創業したダイキ株式会社からの会社分割により2005年に設立した。汚水をきれいに処理して河川に流す水処理技術をメインに、住宅機器、環境機器の販売、施工を行う「環境開発型企業」と呼ばれている。従業員の内、約300名が営業職で、それ以外は、生産、技術、設計に携わっている。本社関連の事業場としては約200名が勤務している。メンタルヘルスサポートの対象は、子会社を含めたグループ全体で約650名である。
 今回は、総務部部長の加山伸介さん(写真左)、総務人事課の中巻理恵さん(写真右)。そして、事業場外支援機関として、メンタルヘルス対策に関わったメンタルヘルス対策支援センターの東野真紀子さんの3人にお話を伺った。

職場のメンタルヘルス対策に取り組むきっかけと担当者の熱意

 加山部長 「正直言いますとね。最初は私もメンタルヘルス問題に関しては、理解がある方ではありませんでした。精神疾患は自分の努力次第でなんとかなるんじゃないかと考えていました。でも、熱心な中巻さんと一緒に、メンタルヘルス不調者との面談を重ね、それは違うのだと気づいたんです。」

実際に取り組んだからこそ気づくことも多いだろう。中巻さんからも語っていただいた。

 中巻さん 「メンタルヘルス対策支援センターの東野さんが、積極的に通って支援していただいたことはとても大きかったです。職場復帰支援プログラムを作成する中で、愛媛産業保健推進連絡事務所の研修に参加したり、書籍やホームページで調べたりして、いろいろと学び、手探りで作り上げてきました。分からない時には、東野さんにすぐ相談して、教えてもらいました。当時支援していた休業者をなんとかしたいとの思いから、短期間で集中して取り組むことができました。」

職場のメンタルヘルス対策に取り組むきっかけについて、詳しく伺ってみた。

 中巻さん 「2011年夏に東野さんが突然当社に訪問したことから始まりました。」

 東野さん 「松山労働基準監督署が職場のメンタルヘルス対策の実施状況を調査する目的で、2011年に”メンタルヘルス自主点検票”を管内の労働者数50人以上の事業場(617事業場)に配布し、自主点検を実施しました。その中でメンタルヘルス対策支援センターについても案内していただいていて、支援センター利用の希望の有無も尋ねてくださっていました。その後、支援を希望した事業場を監督署から紹介していただき、順番に事業場を訪問していく中で、ダイキアクシスを訪問したという流れです。」

(参考リンク) 厚生労働省松山労働基準監督署「メンタルヘルス対策自主点検結果について」(2011年9月)

 加山部長 「最初来られた時は、『こういうのあるんやなぁ』くらいの感じでした。その後、先程の休業者の件がこれにあたるのではないかと思い、真剣に考え始めました。これまでにもメンタルヘルス不調で辞めていく従業員はいましたが、いつまでもメンタルヘルスの対策を何も取らないわけにはいかないですし。」

「また、なんといっても、中巻さんの押しが強かった。本当、最近は減りましたけど、何度議論したことか。中巻さんは、正義で話してくる。『人があっての会社でしょ』はもちろん分かっているが、私の視点では、『会社があっての従業員やろ』とも思っている。会社ってそうではないでしょ、経営があるんですから。それはそれで落としどころを見つけないといけない。でも、中巻さんの言っていることも正しい。だから、反論しても私が負けるから悔しくて、悔しくて。」

 中巻さん 「あの頃は、会社の事情とか、経営のこととか考えず、学んだことをそのまま加山部長にストレートに伝えていました。今思えば幼かったなと思っています。」

担当者の熱心さが職場のメンタルヘルス対策を急速に進展させている企業は多く見受けられる。中巻さんの純粋な熱意が加山部長を動かし一緒に取り組んでいく原動力となったのであろう。

メンタルヘルス対策支援センターを積極的に活用した取り組み

東野さんが初めて訪問した時点に話を戻そう。

 加山部長 「メンタルヘルス対策に関して、相談したいのだけれども、メンタルヘルス対策支援センターに何を相談したらいいのか分からないし、どこまで、何をやってくれるのかが分からない。お金がいるの?とか。一方的に教科書的なことしか言わないで帰っていくのではないかと危惧していました。だから、最初はあてにしていませんでした。ただ、東野さんから詳細な説明があった後、『私が無料でラインケア研修の講師をしますよ』とのお話しだったので、『ならば1回お願いします』と、ラインケア研修をお願いしました。」

 中巻さん 「ラインケア研修を行った際に、東野さんにお願いして研修で使用していた研修資料のデータを頂戴しました。すごく助かりました。それを当社でアレンジしたりして、さらに作りこんでいきました。また講師をしていただいた際も、それを録音して、何度も聴きました。それらを当社なりのセリフの言い回しにしていくことで、当社としての財産がどんどんたまっていきました。その後、セルフケア研修も東野さんに講演していただき、同じように当社でアレンジしていきました。それからは、私たち自身が講師となって、社内のラインケア研修、セルフケア研修を行っています。このような経験を通じて、私自身も勉強になっています。」

 東野さん 「メンタルヘルス対策支援センターでは、各県で事業場を訪問しメンタルヘルス対策を支援している促進員のために、様々な情報や教育研修に利用出来る資料などが本部より送られてきます。そういったものの中から、事業場に合わせて自分なりにアレンジしたものを使って講義しました。その後、私が提供した資料に、中巻さんが調べた情報を加えたり、現場視点でまとめ直したりすることで、どんどん資料が充実していきました。私が講義させていただいた企業で、講義後に担当の方がメンタルヘルス対策について知識を深められて、社内で講師をされたり体制作りに積極的に関わっておられたりという例は他にもありまして、大変嬉しく思っています。企業で実際の実務をされている方が、企業の実情を踏まえたうえで、対策や教育に関わっていくことは、私が一般的な視点でメンタルヘルスについてお話ししていくよりも、ずっとずっと実効性の高いものだと思うからです。」

このように、メンタルヘルス対策支援センター事業では、事業場内メンタルヘルス推進担当者が自社で教育・研修できるように、研修資料データを無償で提供している。一般的には資料を利用する場合、著作権や使用権が発生する場合もあるので、制作者の許可が必要であることを注意したい。

 加山部長 「これまでのようにメンタルヘルスに関してまったく研修をしていなかったのと、1回でも研修をしているのとでは格段に違います。今後は、中巻さんに地方の事業場も全国廻ってもらって、メンタルヘルス研修を行ってもらうことも計画しています。

厚生労働省の委託事業である「メンタルヘルス対策支援センター」では、全国47都道府県にて無料で支援を行っている。取り組みのきっかけとして、支援センターを積極的に活用されることを願っている。

経営者への研修と「メンタルヘルス推進支援室」の設立

次に、2012年9月に設立し、加山さんと中巻さんが所属している「メンタルヘルス推進支援室」の設立経緯について話を伺った。

 加山部長 「2012年9月、取締役による経営会議にて、私が講師となって職場のメンタルヘルス対策に関する役員向け研修を実施しました。それまでは、目の前のメンタルヘルス不調者を復職させないといけない、といった場当たり的な対応が中心でした。でも組織として会社として行うとなると、役割分担、組織づくりが必要となってくる。対策の基本方針などは、”こころの耳”のEラーニングを参考にしました。この研修にて『”メンタルヘルス推進支援室”が必要ですよ』と社長に伝え、納得の上、設立し活動することになりました。」

「ただし、組織として別個にあるわけではありません。呼称としての”メンタルヘルス推進支援室”です。従業員同士の話の中で、『どこに相談したらいいの』といった時に、『支援室に相談したらいいんじゃないの』と普通に話してくれることを望んでいます。『人事じゃないの』、『総務じゃないの』ではなくて、柔らかいイメージにしたかったんで。また、何をやっているところかも分かりやすいと思います。よって、支援室として面談するときは、人事の話はしないようにしています。人事的な判断をその場で下すようになると、誰も相談に来なくなるからです。」

「随時、イントラネットを通じて”メンタルヘルス推進支援室”から情報を発信していることで、相談してもきっと受け入れてくれる、力になるんだと従業員は思ってくれているようです。先日も、上司を通じて部下のメンタルヘルス不調に関する連絡がありました。支援室からの支援によって、クリニックにつなげ、休職に入りました。その後、職場と地域を変えて、今は元気にやっています。休むのが早かったので、休職日数も2~3か月と比較的短くすんだのだと思います。新しい職場の上長がものすごく面倒見の良い方で、『まかせとけ、ちゃんと見てやる』と受け入れてくれました。その後、他の事業場でも同じことがありましたが、それぞれの事業場においてこのようなキーマンがいれば、地方の営業所でも安心なんですけどね。今の課題は、支援室の担当が3名しかいないので、全国をカバーできていない点だと思います。」

経営者への説明資料に、「こころの耳」を利用していただいたことはとても嬉しく思う。営利目的でなければ、「こころの耳」のコンテンツを多くの方に広く利用していただきたい。

休職者の視点で分かりやすくまとめた職場復帰支援プログラム

次に、職場復帰支援に関してお話を伺った。

 加山部長 「東野さんが来られた後、当時対応していた休業者への説明用に、”職場復帰支援プログラム”を1シートにまとめました。私がもし休業者の立場にいたら、何が気になるかな、といった視点でまとめました。『あなたはいつまで休めますよ』、『傷病手当金はいつまで出ますよ』といったものはやっぱり心配ですよね。ならば、当社の規定にあてはめて、個人別に作れるようにしておこうと。休職可能な期限を最初に明確に伝えておいて、だから、今は、これに取り組みましょうということが、分かりやすいように自分たちで作りました。」

1シートには、「休職期間も加えた休業期間」、「傷病手当金受給期間」 、「手引きに記載されたステップの目安」などが、簡単にまとめられている。文章形式よりもグラフ形式の方が誰が見ても分かりやすい。その他にも、「職場復帰における支援」に関連したものだけでも、13種類ものファイルを作成されている。これらは、表計算ソフトで作られているため、1シート目に休職者の基本情報(氏名、入社年月日など)を入力したら、すべてのシートに反映されるようにシステム化されているそうだ。書面を用意することは大変だと思われるが、最初に苦労して準備しておくことで、後々は手間が省かれるものだと思われる。

 中巻さん 「”職場復帰及び就業措置に関する情報提供書”も、ある主治医から、『こういった項目も付け加えた方が良いよ』とのアドバイスを受けて、付け加えました。このように多くのファイルは、休職者本人や医師から意見を聴きながら、日々バージョンアップしています。」

 加山部長 「休業者に渡すのが、こちらの冊子”休職される皆様に~安心してお過ごし頂くために~”です。冊子を通じて休業者にも内容を伝えていますが、家族の方にも渡すようにいつもしています。家族の元に届くことで、『精神疾患による休職は特別なことではないんだな』と理解して頂くことで、ご家族は肩の荷が下りると思うんですよ。『うちの会社にこういうものが準備されていた』とホッとすると思います。実際に、復職した方の奥さんから『本当に良い会社に入ったね。恩返ししないといけないね』と言っていただけた時は、私たちも制作して良かったと思いました。実際に会社にまで御礼の挨拶に来られた方もいました。嬉しかったですね。」

休職期間中、家族のサポートがあれば、本人は治療だけに専念すればいい。図解されているこの冊子は、要点をしぼりながらも、しっかりとポイントを抑えているので、とても分かりやすい。

 加山部長 「休職者本人との面談の際に、復帰の可否を判断するための”職場復帰の意識調査”を本人と会社側とで行っています。質問項目は、『業務による疲労を翌日までに十分回復できる体力があると思いますか』といった9つの項目に関して、それぞれの視点でチェックしてもらいます。質問項目は同じです。本人もチェック、会社側もチェック。そこで差が大きく出た場合には、本人も認識が違っていたとの気づきに繋がります。復帰時期を見誤らないためにも役立っています。」

次に「試し出勤」に関して、話を伺った。

 加山部長 「復職後は短時間勤務から始めています。本人との面談を通じて、復職者の受け入れ先の上長の意見も聞いて”職場復帰支援プラン”を作成します。復職プランがまとまった際には、主治医にも確認していただいて、意見を書いてもらう欄も付け加えました。ただ、”短時間勤務”にすると給与が減るので、『時間有給休暇を使ってみたら』とも伝えています。本人から『休暇分は無給で良いから短時間で始めてほしい』といった場合がありますが、『どうしてもフルタイムでの復帰をしたい』との意見もあります。そういった場合、支援室では再発防止の観点から、短時間スタートの意味を納得していただいています。また、職場復帰のスタートは、月曜日からだと丸々1週間となり心身的にきついので、週の半ばからスタートし、適切な生活リズムが整っていることが前提なので、朝は始業時間からにするなど、考慮しています。 」

2010年4月施行の改正労働基準法にて、時間単位の有給休暇制度が認められるようになった。「短時間勤務」における給与減少分を補完する観点からも、休職者が利用することも一手だと思えた。

たった2年間でも担当者の努力で体制はつくれる

 加山部長「当社は、社員一人ひとりを大切にする企業ですが、経営者も職場のメンタルヘルス対策に関しては、どうしたらよいか良いか、困惑していたというのが実状です。それが、私たち一担当者からでもたくさんの方へ理解していただきながら、2011年からわずか2年間で体制を作ることができました。今回の取材がきっかけで、『うちの会社でもできるんだ』と多くの企業で、勇気づけになれば幸いです。」

「繰り返しになりますが、この2年間で、なにより私が1番変わりました。ずっと理系でしたので、形に見えない、答えが1つでないものはすごく苦手なんですよ。私自身、メンタルの問題は理解できない。落ち着かない。しかしながら、1つの大きな案件を乗り越えたことが自信につながりました。やってみると、自分が思っていたほど苦手なものではなかったなと。先日も車で3~4時間かかる離れた地方の事業所から休職診断書が総務部に送られてきた際に、朝9時にそれを見た私は、『私、行って面談してきましょうか』という言葉が、思わず口に出ました。このように言った自分に1番びっくりしました。それまでは、人の後ろに隠れて『どうする?どうする?』だったんですけどね(笑)。そして、中巻さんもガラッと大きく変わりました。」

 中巻さん 「これまで一般事務を10年以上してきたのですが、東野さんが来られた後、加山部長から『これやってみないか』と言われたのが、転機でした。私自身、入社後大病を患ったのがきっかけで興味を持ち始めた分野であり、自分の辛かった経験を活かせるのであれば、少しでもお役に立ちたいと思い、真剣に取り組みました。また、病気で1番辛かった時に、仕事の面や通院などをサポートしていただいたのが加山部長や同じ職場のメンバーでしたので、みなさんに恩返ししたいとの思いからでもあります。おかげさまで、今は健康です。自分が健康でないとこの仕事はできないと思っています。」

職場のメンタルヘルス対策において、主担当となる「事業場内メンタルヘルス推進担当者」の役割があらためて重要であることを実感した。担当者の努力と熱意で、体制はつくられていく。そしてメンタルヘルス対策支援センターなどの事業場外資源は積極的に活用することで、費用をかけずに学ぶことができ、それぞれの事業場に適した資料や書面などを形にしていくことができる。
加山さん、中巻さんの笑顔の裏には、この2年間多くの苦労があったと思われる。しかし、それら苦労を乗り越え、一つ一つ積み重ねてきた実績こそが、今日、株式会社ダイキアクシスのメンタルヘルス対策を支えている。お二人の柔らかな笑顔は、そんな自信に裏付けされた安心感の現れではないかと感じた。

【ポイント】

  • ①休業者に渡す冊子は、休業者視点で文章を極力少なくし、図解化するなどして関係者にも分かりやすくまとめる。
  • ②産業保健推進センターの研修に参加したり、メンタルヘルス対策支援センターの専門家に相談したりして事業場外資源を積極的に活用する。
  • ③内部資源(経営者、産業医、人事担当者、配属先所属長、同僚等)や外部資源(メンタルヘルス対策支援センター、リワーク機関、主治医等)と連携しながらサポートしていく。