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第5回:株式会社ワールド(兵庫県神戸市)

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株式会社ワールド
(兵庫県神戸市)

 株式会社ワールドは、婦人・紳士・子供服等の多くのブランドを全国約2,700店舗で展開している大手アパレルメーカーである。百貨店やショッピングセンター、駅ビル、ファッションビルなどで見かける店舗のブランド名は知っていても、それらを株式会社ワールドが手掛けていることを知っている方は少ないのではないだろうか。1959年にニットの卸売業として神戸に創業、業界の常識を覆えすユニークなビジネスを展開し、日本を代表するアパレルメーカーとして急成長を遂げた。

1993年からは小売業に進出し、企画から製造、販売までを手がけるSPA業態を確立。現在では売上の約9割以上を小売業が占めている。直営店で顧客との直接的な接点を持ち、商品の企画開発から、商品生産、店頭販売までを自社グループで行う事業を中心に、ワールドでは約2,200名、グループ全体では約13,000名の社員が勤めている。今回は、アパレル業界における職場復帰支援の取り組みについて、人事部労務課の中田章浩さんにお話を伺った。

ラグビー部から人事部へ

「遠いところまでご苦労さんです。」

がっしりとした体格の割に、人なつっこい笑顔で話をされる中田さん。有名なブランド衣料品を販売している、おしゃれな企業のイメージとは少しかけ離れた第一印象を持ってしまった。

 「”社員の心を一つに”という趣旨でラグビーが創部されることになり、1984年に入社しました。当時は、ラグビーが一番ではなく仕事一番という考え方のもと、営業担当として取引先を回りながら、仕事とラグビーの両立を目指し頑張ってきました。そして、最後はラグビー部の部長まで勤めさせてもらいました。その後、2002年に人事部労務課への異動となってから、今日までこの仕事をしています。今もご覧のとおりの体型ですので、この会社の服は、ほとんどサイズが合わないんですよ。」

産業医への相談による安全衛生体制の構築

 「人事部労務課に異動したころ、人事部のトップから『安全衛生体制をしっかりして欲しい』との話があり、その推進を労務課が担当することになりました。取り組み始めた2002年は、社会的には過労自殺事件もあって、過重労働対策や健康診断の重要性が言われるようになっていました。また、我々の業界においても国内外での競争が激化する中、それに対応すべく、当社が実力評価制度を開始した時期でもあります。今後、仕事上で無理をして健康を害したり、メンタルヘルス不調者が増えたりするのではないかということも予想されました。

過去に、安全衛生に関連した大きな問題が発生していなかったため、現状把握も不十分であり、当時はまだ積極的に取り組めてはいませんでした。それらを踏まえて、”①安全衛生委員会の機能的運営による管理監督者の安全衛生に関する意識向上”、”②職場巡視の充実と職場環境改善指導”、”③雇入時健康診断、定期健康診断、事後措置(就労配慮)の更なる充実”、といった対応策に加えて、”④健康不調者対応(復職支援・就労配慮)の整備と運用”を盛り込み、安全衛生管理体制構築を推進してきました。」

「メンタルヘルス不調者が発生したときの対応として、まずは対応手順やマニュアル等”職場復帰支援プログラム”を整備しました。このプログラムを整備するにあたっては、当時の統括産業医に助言指導をいただきながら進めてまいりました。今思えば、この時に得た情報や資料は、とても役に立っています。人事部、本人の所属部署の上司、産業医、主治医とが連携し、これらに基づき運用することとしました。そして、運用に際しては、記録として保存することを徹底しました。」

産業医の中には、嘱託のため複数の事業場に関与していたり、他の事業場での経験があったり、また、他の産業医とのネットワークや多くの情報や書式例を持っている医師もいる。そのため、取り組みの最初の段階で産業医に相談することは重要である。

関係文書の整備と保管の徹底

 「職場復帰支援は2003年4月から運用し始めました。その際、新たに”就労判定委員会”を設置しました。就労判定委員会では、人事部長、産業医、労務課メンバー等が参加しています。労務課から個々に経緯を報告し、それらを受け、全員で検討し責任者(当社では人事部長)が安全配慮の観点から会社として判断しています。複数名で検討することで、判断のぶれが最小化されていると思います。また、”就労判定”としているのは、メンタルヘルス不調者の復職時のみならず、交通事故後やがん等、同疾患以外の理由で1年以上休職した場合、或いはそれ以外にも職場復帰支援を導入した方がよいと判断したケースにも実施しているからです。委員会での結果は、文書に記載し保管しています。」

委員会の結果以外にも、「健康不調者・休職者確認シート」や「経過確認書」、「就業に関する主治医の意見書」、「就業に関する産業医の意見書」など各種フォーマットの文書を用意し、運用に際して、記載、保管することが徹底されている。こうした関係文書の整備や管理は、安全配慮義務の履行の観点からも重要である。

 「運用していく中で、いくつか問題点も現れてきました。職場復帰支援では、通勤練習だけで仕事は行わない”慣らし通勤”、復帰後、徐々に復職準備度を上げていく”リハビリ勤務”と段階を設けて進めていく場合がありますが、これらの復職の判断基準が、”通勤、在社が可能なレベル”と漠然としていたため、早い段階で復職してしまうケースがあり、結果としてリハビリ勤務期間が長くなってしまっていることがありました。そうした点を統括産業医に相談したところ、『会社は仕事をするところであって、リハビリをするところではない』と指摘され、2007年に見直すことにしました。具体的には、職場復帰の規程を統一させるために、統括産業医の見解に基づき、当社独自の”復職定義書”としてまとめたり、プログラムの各段階でのレベルを設定して、会社・本人双方で進捗状況を確認したりするようにしました。また、2006年に兵庫障害者職業センターを初めて利用してからは、外部のリワーク施設を積極的に活用するようにしています。リワーク施設を利用することで、これに参加した社員と話をすると、セルフケア能力が向上したように感じられます。」

東西(東京と神戸)2大拠点で働く約2,200名の社員、全国の多くの店舗(事業場)で働く1万人を超える販売スタッフといった非常に大規模な組織である。分散事業場が多いため、職場復帰の規程を統一させるための「復職定義書」は、この中で自ずと必然性を持って生まれてきたのだろう。

各店舗へのメンタルヘルス対策

実際に、販売等を行う各店舗では、メンタルヘルスにおいてどのような問題があり、また、いかに対応しているのか、内情を聴いてみた。

 「店舗では、当社の販売子会社の社員が販売・接客などの業務を行っています。最前線でお客様応対を行う店頭のメンバーにも、メンタルヘルス不調を訴える社員もいます。そのため、社員が不調を訴えた際に労務課へ連絡を入れるよう指導したり、休んでしまった社員に対しては、その上司と産業医と連携して当社同様の復職支援を行ったりしています。また、健康診断事後の支援として、問診結果、健診結果から、保健師や産業医による電話面談、直接面談を実施しています。その中には健康状態の相談からカウンセリングに近い相談まであります。」

直接、お客様と触れ合う社員たちは、そのブランドの顔であり、ひいては企業全体のイメージにもつながる存在である。彼らのメンタルヘルス対策もまた、グループ全体の根底部分を支える重要な課題であるに違いない。

「言っていいこと、悪いこと、言わなければならないこと」の区別

 「休職に際しては、場合によっては、本人だけではなく、家族とも一緒に話をするようにしています。また、本人と共に主治医に会って相談することもあります。分からない時は、すぐに足を運び、対面で会話することが大切だと思っています。」

「先日、兵庫障害者職業センターが主催する職場復帰とメンタルヘルス対策を考えるフォーラムでパネリストとして話をさせていただき、その内容が新聞で取り上げられました。その中で、『メンタルの不調を訴える社員に、疑うようなことは絶対に言わない。ただ”2回目はない”ということは伝え、休職満了による退職の制度も説明するようにしている』という記事に、社外の方から『冷たい』と言われました。私としては、『復帰した以上は、他の社員と同じですよ』と、はっきりと伝えることは、再休職を防ぐ上で、とても大切だと考えます。休職を繰り返してしまうと、会社もそうですが、本人にとってさらに悲しいことになってしまうからです。

だから、良くなったからと慌てて復帰しないようにする意味で、あえてきつい言葉であると分かった上で、『2回目はないよ、だからじっくりとちゃんと治そう』と伝えることがあります。そういう意味で発言したのですが、そのように受け取られてしまい少し残念な気持ちでした。本人は早く復帰したいという思いが先行しますが、メンタルヘルス不調で休職を繰り返す場合が多いだけに言わなければいけないことは伝えます。」

中田さんの話からは、「愛情」と「指導」をうまく合わせた対応の大切さが感じられた。これらはラグビーを通して培ってきたものかも知れないが、職場復帰に際しても、ある意味で重要な姿勢の一つだと考える。「こういうことはメンタルヘルス不調者に言ってはいけないのではないか」という心のブレーキが過度にかかってしまうと、「本来伝えなければならないこと」まで、躊躇してしまうことがある。職場復帰の成功のためには、休職者への「対応ノウハウ」に頼るだけではなく、心からの「思いやり」を軸とした関わり方が重要となってくる部分もあるだろう。

産業医と主治医、会社保健師等との連携、就労判定委員会や復職定義書の運用、そして、外部リワーク施設の活用など、株式会社ワールドにおける復職支援からは、休職者本人を中心とした多面的な仕組み作りが感じられた。そして、企業としての”ぶれない体制”を作り上げていく上で、支えとなっているものは、真摯に従業員と向き合おうとする姿勢なのかも知れない。

【ポイント】

  • ①職場復帰支援体制整備の最初の段階から産業医に相談することで、必要な情報や資料を得られる。
  • ②地域障害者職業センターなどのリワークプログラムの利用も検討する。
  • ③休職者に対して伝えなければならないことはきちんと伝える