事業者・上司・同僚の方へ

支援する方へ

コンテンツ一覧

第3回:四日市社会保険病院(三重県四日市市)

読了時間の目安:

13

四日市社会保険病院
(三重県四日市市)

 名古屋駅から近鉄電車に乗って約40分。左手に田園風景を眺めながら、その奥には伊勢湾沿いに連なる工業地帯が見える。四日市市は中京工業地帯の代表的な都市だ。四日市社会保険病院の前身である羽津病院は明治30年に設立された。その後、厚生労働省に移管された後、昭和22年6月に、全国社会保険病院の第1号病院として再発足した。社会保険病院は、全国に51施設ある(平成24年10月現在)。長年、四日市市の地域医療を担ってきた。職員数は、系列の介護老人保健施設なども含めると約700名の中規模病院である。今回は、健康づくり推進室副室長の位田弥生さん、臨床心理士の古村香里さんお二人を中心にお話を伺った。

「健康づくり推進室」を開設して

 位田さんは、病院職員として長年勤務されている。一方、古村さんは約7年前から、臨床心理士として活動に関わっている。

 「メンタルヘルス対策のきっかけになったのは、2006年に厚生労働省より”労働者の心の健康の保持増進のための指針”が出され、松本院長が、『国も言っているのだから、我々もチームで取り組んでいこう』と2007年にメンタルヘルスサポートチーム(以下、MST)を作ったことが挙げられます。MSTでは、産業医、看護師、臨床心理士、事務職員がチームとなって対応しています。」

 「しかしながら、たまたまパワハラ的な問題から離職が重なったり、医師の中には多忙で疲弊感からうつ状態になって体調を崩してしまう者がいたりといった事例を経験し、松本院長は、メンタルヘルスだけの問題ではないと考え、”職場でのお互いのお節介”が必要だと考えました。また、当時の3ヶ年中期計画のアクションプランでは第1番目に”ES(職員満足度)向上”を掲げていました。先述のMSTにおいては、従来、専任スタッフがおらず、責任者や規定の文書が不明確なため、機能しきれない部分も確かにありました。多忙な産業医をフォローする体制にするためにも、職員の健康管理業務全体を一元化して、専任の職員を配置するために、2011年に”健康づくり推進室”を立ち上げました。」

 病院の職員に対して、いわゆる「健康管理室」を設置している中規模病院は珍しく、他の社会保険病院ではここまでの対策を行っているところは非常に珍しいだろうとのことであった。

 「これまでは、職員の健康診断や予防接種等を行う”健康管理センター”、健診後のフォローや面談を行う”産業医”、労使の間で話し合う”衛生委員会”、そして、メンタルヘルス問題を扱う”MST”と4つの組織がバラバラの動きをしていました。そのために、責任の所在がはっきりせず、無駄や漏れがあったのではないかと思います。また、結局は健康診断の業務が中心となっていたため、メンタルヘルス対策は片手間になっていたとも思います。そして、『皆、目の前の仕事に追われてしまっている』、『段取りが分からなかった』、『きちんとやろうとすると、思ったよりも仕事量が多かった』といったこともあり、”健康づくり推進室”として、1つの部署にまとめることにしました。現在、副院長を室長に、産業医、臨床心理士、保健師、そして専任の事務職員を配置しています。

「職場復帰支援プログラム」にまとめておくことで困らない

 「”健康づくり推進室”が2011年7月に本稼働してから最初に行った業務は、メンタルヘルス不調が原因で休職する職員を対象にした”職場復帰支援プログラム”の制定でした。メンタルヘルス不調からの復帰は、今まで曖昧な形で行われていたこともありました。そのため、多くの困難事例に直面し、担当者として悩む場面が多くありました。また現場に視点を向けてみると、復帰後の同僚達には、微妙な精神的負担があったように思われます。しかしながら、プログラムとして明文化し、職員に周知することで、周辺スタッフの負担を軽減することができました。また部下の心の健康に気を配ることを所属長の責務とする病院の姿勢を明確に打ち出したこともあって、すっきりとした対応が可能になったと思います。」

 ここで少し意地悪な質問をしてみた。「手間や負担が掛かることを考えて職場復帰支援プログラムを作成していない事業場もあるが、プログラムは本当に必要なのでしょうか。」

 「職場復帰支援について、これまで対応の難しさに苦慮してきたことから、今回改めて文書にまとめました。多少の手間が掛かっても文書にしておくことで、その後迷うことはありません。よって、いまさらなくなることは考えられませんね。プログラムを作成するのは難しいと言っている他の企業は、文書として作成していないために、個別事案に追われてしまい、結局は根本的な解決や支援につながりにくいのではないでしょうか。プログラムを作成したことにより、現場の職員からも『復職の流れが分かりやすくなった』という声があがっています。」

 実際の「職場復帰支援プログラム」の文書を見せていただいた。プログラムの中で、人事労務担当者、所属長、産業医、産業保健スタッフを、職場復帰支援を担当する「復職支援担当者」として任命し、それぞれの役割を明確に示してある。6枚にわたるものだが、手引きに定める5つのステップごとに手順がまとめられているので、とても分かりやすい。

「当院が工夫した項目としては、下記のものが挙げられます。」

【第1ステップ 病気休業開始および休業中のケア】
「日頃から部下を支援することを所属長の職務としました。」
【第2ステップ 主治医による職場復帰可能の判断】
「主治医の復職診断書だけでは復職できず、復職診断書に基づき産業医が精査・実態確認を行うことを明確化しました。当病院の産業医は内科医ですが、メンタルヘルスに関する相談も増えてきているので、現場での必要に迫られて、産業医自らメンタルヘルスに関する講習会にも積極的に参加し、学んでいるようです。」
【第3ステップ 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成】
「復職判定会議の位置づけを明確にし、そこで復職支援プランを作成することとしました。また、休職者が復職判定会議での決定内容に不満な場合は、衛生委員会にて話し合う流れとしています。また、リワークプログラムの利用を推奨しながらも、利用に際しては、事前に休職者に十分な説明を行うこととしました。」
【第4ステップ 最終的な職場復帰の決定】
「病院長が最終的な職場復帰を決定することを明確化しました。」
【第5ステップ 職場復帰後のフォローアップ】
「所属長の役割を明確化し、過度な負担がかからないようにしました。また、フォローアップ終了の時期もはっきりと示すようにしています。」

 「文書があることで、事後の検証が行いやすいです。ただ文書にまとまっているからといって、『こういうふうに決まっていますから、この通りにしてください』と押し切ることがないように、心掛けています。事後の検証を行い、必要箇所は今後も随時修正していきます。」

 文書化することで、その文書に沿った対応ができる。その流れに問題があったり実態に即していなかったりする場合は、文書を変更し改善していけば良いと考える。最初から完璧な”職場復帰支援プログラム”は、無いのだから。

 「休職者には、休職に入る際、これら”職場復帰支援プログラム”の文書の中から本人に関わる必要事項のみ抜粋し、分かりやすくA4用紙1枚にまとめたものを渡しています。段階ごとに必要な条件が分かりやすくなっています。」

 プログラムを策定した事業場に見られるのが、策定することそのものが目的となってしまっているものである。作成したことだけで満足してしまい、効果的な運用にまで手が回っていないケースもある。四日市社会保険病院での「休職者本人にA4用紙1枚で示す」行動は、不調者本人の視点となり考え出されたものだろう。職員の側に立った支援のあり方を、目に見える形で示そうとしている姿勢が伝わってきた。

 「休職者本人にしてみれば、いろいろな担当者からいろいろなことを言われ、あっちこっちへとなってしまうと、自分は大切にされていないのではないかと考えてしまう。結果、ずるずると休みだけが長くなってしまう。また、所属長としても何をしなければならないのか、どこまで行えばよいのかが分からなくて困ってしまう。文書としていることで、自分の範囲が分かるので、結果として自分が関わるべき必要な領域に時間をかけることができるのではないでしょうか。」

 「”職場復帰支援プログラム”の策定に際しては、三重産業保健推進センター内にある”メンタルヘルス対策支援センター”の安保明子促進員にひな形を頂戴し、当院になじむ形でアレンジしました。また、リワーク施設に際しては、こちらも安保促進員の紹介にて、”三重障害者職業センター”に見学に行った上で、復職支援ツールの1つとして、活用させていただいています。」

メンタルヘルス対策支援センターの活用

 これらの話を伺って、プログラムの策定を直接支援した安保促進員に、実際にお会いしてみたくなり、急遽、三重産業保健推進センターに伺うこととした。促進員の業務は事業場を直接訪問しての支援が中心であるため、促進員が事務所にいることはあまりないのだが、たまたま月に1回の相談対応日のため、お会いしてお話を伺うことができた。
保健師である安保さんは、三重県職員として、精神保健福祉センターや県の自殺対策、健康づくり担当等で勤務し、2009年よりメンタルヘルス対策促進員として活動している。

 「四日市社会保険病院の位田さんたちは、私が仕組みを教えたり、雛型を渡したりすると自分たちでどんどん作りあげて進めていました。本当に困っていたのだろうと思います。他の病院からも支援要請が来ることもありますが、特にメンタルヘルス対策の難しさに直面している病院は多いのではないでしょうか。」

 安保さんが促進員になってからの3年間、その中で感じてきた多くの訪問事業場における「変化」についても伺ってみた。

 「促進員になったばかりの3年前は、事業場側もまだまだ『うつ病って何?』、『メンタルヘルスって何?』というレベルでした。しかしながら、最近ではメンタルヘルス不調者が増えてきて、身近に接することが多い問題として捉え、”職場の問題として真摯に取り組むべきもの”と事業場側の考え方も変わってきたように思います。そのため、教育研修も自社の課題に沿った内容が求められ、上司と部下のコミュニケーションの問題や、職場環境の把握・改善につながるような研修が求められることが多くなりました。そこで私が説明しているのは、”誰かが誰かを見ているような仕組みづくり”です。この点は、職場復帰支援に関しても重要な視点だと思います。」

みんなでつくる健康職場-職員を笑顔に

 話を「四日市社会保険病院」に戻そう。最後に、院長である松本好市医師と、室長である渥美伸一郎医師からお話を伺った。

 「全国51の社会保険病院の”健康管理医(産業医)”に対する全体会合にて、2011年11月に”職員を笑顔に!健康づくり推進室開設に向けて”と題して講演を行いました。当時は、”健康づくり推進室”を開設してまだ間もなかったのですが、目新しい試みとして、多くの方に注目していただけました。」

 「病院という厳しい職場環境において、職員の意欲が維持されるためにも、”自分が力を発揮できている”という感覚。”状況を打開できる”という感覚。このような自己効力感、”やったー感”が大切だと考えます。報酬面で十分に報いることの難しい今、”職員を大切にする”ということが金銭以上の価値を生むのではないかと。医療機関ならではの職員を大切にする方策、それが、「健康づくり推進室」だと考えます。」

 院長は日頃から「ES(職員満足度)の向上」を掲げており、職員が働きやすい職場を目指している。

 「職員を大切に思っているだけではダメです。目に見えて”大切にされている”と感じてもらってこそ、職員満足度や、やる気がUPし、結果的に収入もUPすると考えます。」

 四日市社会保険病院の職場復帰支援プログラムを読んでいると、職員を大切にしていこうとする姿勢が見えてくる。トップや担当者がこのようなマインドで取り組むことは、職場のメンタルヘルス対策を築いていく上で、何よりも重要な礎となるにちがいない。職場復帰支援を皮切りに大きな一歩を踏み出した”健康づくり推進室”の取り組みが、さらなる成果につながっていくことを期待している。

【ポイント】

  • ①産業保健に関わるさまざまな機能を1つの部署にまとめる。
  • ②「職場復帰支援プログラム」の文面の中から休職者本人にとって必要な文面のみをA4一枚にまとめた上で、休職前に手渡しておく。
  • ③従業員が「目に見えて大切にされている」と感じてもらえるように、事業者は心掛ける。