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第2回:アヴァシス株式会社(長野県上田市)

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アヴァシス株式会社
(長野県上田市)

 信州の山間に位置する長野県上田市。JR 長野新幹線上田駅から車で 15 分。大きな鳥居を抜けた上田リサーチパークの中に、アヴァシス株式会社の本社があった。工業団地と呼ぶには静かであり、緑や自然が多く、鳥のさえずりや風の音が聞こえてくる立地である。
 創業は 1980 年。主な事業は、組込みソフトウェア開発や業務アプリケーション開発などであり、いわゆる IT 企業である。従業員数は約 390 名。約 3 割の従業員は客先での業務であるが、それ以外のほとんどの従業員は、本社、並びに県内の 2 つの事業所で働いている。最近は、毎年約 10 名の新卒を採用しているが、地元からの採用が多く、中には学生時代に初めて長野県に住み始め、この地を気に入り、そのまま就職した者もいるとのことであった。

90 年代中頃から始めたメンタルヘルス対策

 「基本的には個人ではなくチームで仕事をする方向に変えてきています。その方が全体的なパフォーマンスが上がると考えるからです。」

 とかく IT 企業ではパソコンの前でしがみついて、個人単位で仕事をするものだ、と考えがちであるが、代表取締役社長の小笠原俊彦さんからは、何度も組織単位であるチームで働くことの重要性を伝えられた。

「1990 年代中頃、IT 業界が社会全体で成長していく中、従業員が 100 人から 200 人へと急激に増えた時期に、人に関するトラブルが増加しました。先代の社長は、人間関係が生み出す問題点を身に染みて感じ、メンタルヘルス対策を会社としてしっかり見ていかないといけないと、この頃から外部 EAP として、シニア産業カウンセラーによる研修や全員カウンセリングを実施しました。その後、小規模(4~5 人)での研修や個別面談などを行いました。管理職向けのラインケア研修は現在も年に 1 回開催しています。」

「かなり早い段階からの取り組みです、先代社長には先見の明があったのだと思います。」

 小笠原さんの話しの通り、当時はまだ他の中小企業にはメンタルヘルス対策への関心はなかったものと思われる。約 20 年かけてつくられてきたからこそ、今日のカタチが見られ、メンタルヘルスケアに関するある程度の基盤はできあがってきた。

 「基盤ができたこともあり、管理職に言われて、部下が面談に来たり、管理職から部下の面談を依頼されたりといったことが一般的に行われています。カウンセリングによる気づきは、本人に変化を与え、結果的には会社の生産性向上につながっていると思われます。また、カウンセリング以外の長時間労働面談や環境変化時の面談を通じて、”今現場ではどうなっているか”を捉えることで、環境変化のポイントをつかむことができます。このように組織や従業員の現状を感じ取り、組織改善、個人対応していくために、今年の 4 月に総務部門から健康管理グループを分離して、社長直轄にしました。」

 大企業では総務部門と健康管理部門とを分離している企業が多くみられるが、中堅企業においては珍しい。「危機管理」の点から、本人にも会社にもリスクがないようにすることを考えた上でもある。カウンセリングに関しては、2003 年から、復職支援的なカウンセリングが始まり、2005 年から産業看護師・産業カウンセラーの小澤美智子さんが加わることで、重点的に立ち上がってきた。2012 年、予防面に目を向け、常勤従業員の柳澤裕子さん、玉田紀子さんも加わり、現在 3 人体制で健康管理グループを運営している。

職場復帰支援はしっかりとした文書とチームで対応

 職場復帰支援の取り組みに関しては、小澤さんを中心にお話をしていただいた。

 「これまで延べ 70 名以上の職場復帰支援に関わってきました。うまく復帰できて、現在でも業務ができている従業員がそれなりの人数います。退職した人もいますが、本人も納得した上で自らの意思で退職し次のステップを歩んでいますし、新たなチャレンジとして転職していった人もいる。それでも、これまで問題がさらに深刻化するような状況になっていないことが、一つの成果でしょうかね。」

 職場復帰の成果について質問したところ、小澤さんからの言葉は的を射た答えであった。とかく、数値的な成果を求めがちだが、何もトラブルが起きていないことこそが、成果と言えるだろう。

 「困難事例に対しては、みんなで話をし、試行錯誤をしながら方策を考えてきました。健康管理グループだけで考えるのではなく、本人、本人の職場の上司、総務人事とそれぞれ連携して進めていくことが大事です。」ときっぱり。

 「2010 年 4 月に就業規則に付随する”傷病休業規程”を策定しました。目的は、休職を繰り返すのを予防するためです。規程がない時は、1 か月後に再度休んでしまっている例もありました。文書化は、公平に対応し、共通の問題意識としてもってもらうためでもあります。労使の関係も良いので確認して作成しました。また、いつまで休めるかは、本人が最も気にしているところです。休業前や休業中にいつまで休みが取れるか、傷病手当金がどうなっているか、制度としての休める期間をしっかりと説明します。休み方もいくつかの選択肢として紹介することで、本人に選んで連絡してもらうようにしています。休職中会社からの情報は、健康管理グループからの情報のみに一本化し、復職に際しては必要に応じて、本人に代わって職場に説明することもあります。」

 職場風土の良い中堅企業だからこそ、規程も順序良く作ることができる利点がある。

 「復職の判定に際しては、病院が発行する証明書類が必要です。本人に復帰の意思があり、主治医も口頭で了承していれば、まず健康管理グループまで来てもらって面談をして、業務遂行に問題がなさそうであれば証明書類をもらってくるように本人にお願いしています。」

 会社まで来ることができるかどうか復帰の最低条件も確認できるこのアイデアには、中堅企業ならではの視点があると思われる。

 「復帰に際しては、原則元の部署で、職場復帰プログラムを実施します。職場復帰プログラムは試し出社期間、就業時間の制限期間、1 か月の見守り期間で構成されます。職場は比較的理解を示し、配慮もしてくれます。 しかしながら、3 年前のリーマンショック以降、工数管理が厳しい現場では『通常勤務ができるようになってから戻ってほしい』という要望もちらほら出てきました。そのような場合は、総務部付けにして試し出勤を行う場合もありました。」

 「試し出勤は、基本は本人からの希望で行いますが、大概は主治医から『段階的にすすめてください。』と指導されるので、ほぼすべてにおいて実施しています。職場復帰プログラムの作成にあたっては、主治医の意見と、本人の意向を入れながら、作成しています。」

 小笠原さんは、最後に職場復帰に対する会社の考えを話された。

 「試し出勤でも復帰できるのには時間がかかります。制度面でも給与を含めて作りこまないと、不公平感から周りとの関係もうまくいかなくなってしまいます。『戻れないのはあなたの責任でしょ』と、排除するのは、『誰でも病気になる可能性があるのですよ』という我々の考えからふさわしくありません。ただ、公平感は作らないといけないので、いろいろな面からバックアップしています。雇用責任ですね。休職者だって、一緒にやってきた仲間でしょう。復職者の得意分野、良い部分を活かせるような組み合わせ、環境づくりができれば、職場復帰もスムーズに行くと考えています。」

「社員が働きがいを実感できる会社」を目指して

 「5 つの経営方針の 2 番目に(「優れたシステム会社」とは)”社員が働きがいを実感できる会社”と示しています。ソフトウェアは目に見えないものだから、生産性を上げると言ってもなかなか難しい。メンタルヘルスは生産性と密接に関わるのではないか、と考えています。当社のような知識集約型の仕事で生産性を上げるには、メンタル面に配慮した”働き方”が重要です。チームで仕事をする場合、声掛け、思いやりが大事であり、結果として全体のパフォーマンスを上げることに繋がると思います。社員がワクワクしているような状態でなかったら、良いサービスはできません。」

 「社員が働きがいを実感できる会社」を目指し、メンタルヘルス対策、職場復帰支援を推進することが、結果として生産性を上げることにつながる、ということを経営者である小笠原さんは力強く語ってくれた。経営者の理解があるからこそ、健康管理グループの 3人も積極的に活動できると思われる。

 「我々の業界では、さらなる単価の安いところを求めて、アジア各国に製造を依頼する流れがある。しかしながら、結局やり直し仕事が増えたり、二度手間三度手間になってしまったりして、余計に費用がかかっている。日本人としてやるべきことは、もっと先を見越して、本来の知識集約型の仕事のやり方、素晴らしい仕事のやり方で、素晴らしい結果を出すこと。日本人の良さが出るのは、チームで仕事をやるとき、絆の中で声をかけること、仲間を思いやること、そういう中で仕事をすすめ、会社全体でパフォーマンスを上げていく。一人でできることは限られていますから。IT 業界は、そもそも日本人に根付いているものを活かすことのできる領域だと思います。ドラッカーは知識集約型の仕事は将来ドラスティックに変わっていくと予言していました。まだまだそこまでは行っていないが、いつかはなるでしょう。日本がまず真っ先になれば。そして、我が社が先導できるような存在になるといいな、と考えています。」

 職場復帰支援の根底にあるのは、快適な職場環境にあり、「日本人らしい働き方」が生産性を上げることに繋がるという話に、日本の製造業もまだまだ捨てたものではない、という思いが強く心に残った。

【ポイント】

  • ①職場復帰支援は関係者みんなで話をしてチームで対応する。
  • ②休業補償と休職期間の制度を、休職前に本人と共有しておく。
  • ③職場復帰支援がうまくいくために、公平性のある職場のメンタルヘルス対策をしっかり行い、組織風土を良くしておくことが大切である。