事業者・上司・同僚の方へ

支援する方へ

コンテンツ一覧

第1回:株式会社ヒカリ(愛媛県東温市)

読了時間の目安:

9

株式会社ヒカリ
(愛媛県東温市)

 株式会社ヒカリは、1961年に愛媛県松山市での創業以来、半世紀にわたって、松山の地場産業として発展してきた。現在の従業員は約300名。9割以上が男性である。製造業での生産設備としての産業機械を長年製造してきた。産業機械は100%受注生産(オーダーメイド)であり、顧客である企業からの「わがままな」要望に応えて、約2~6ヵ月の短期間での納品を行うこととなる。そのため工程管理も厳しく、特に上流工程である「設計部門」では、過重労働、高ストレス状態が続き、メンタルヘルス不調者が多く発生していた。

これまでの取り組み

 総務部長の福原眞司さんは、職場のメンタルヘルス担当として長年関わっている。

 「安全衛生担当は他にいるが、安全衛生委員会の事務局であったり、特別教育などの法定講習の講師であったりで、メンタルヘルスの担当者というわけではないですね。”事業場内メンタルヘルス推進担当者”は私に付いている仕事です。」

 メンタルヘルス対策の歴史は、2000年までさかのぼる。地元の愛媛産業保健推進センター主催の全4回にわたる「傾聴訓練」に社長自ら希望して参加した。このことは、メンタルヘルスの重要性を誰よりも早く感じていた表れであろう。翌年、愛媛労働局より「メンタルヘルス指針推進モデル事業場」に選定され、外部からの支援専門家として関わったシニア産業カウンセラーの廣瀬一郎さんと共に、メンタルヘルス対策の活動計画立案、並びに活動を実施してきた。2002年1月に社内報にて全社的に取り組むことを発表してから、セルフケア研修、管理職向けの傾聴訓練、全従業員へのストレスチェックと結果に対する個人・組織へのフォロー、「よろず相談室」の開設などを行ってきた。(※)

※詳細は2004年「実践心の健康づくり 職場のメンタルヘルス対策事例集」(中央労働災害防止協会)にて紹介(P.119~P.125)

ネットワーク化された勤怠管理で社員の状況を毎日確認

 「現在メンタルヘルス不調者の発生は、設計部門が8割を占めています。仕事ができる能力の高い特定の社員に仕事が集まる傾向があり、ある不調者が『360度からプレッシャーがある職場』と言っていたように、上司、同僚、部下、営業部、そして顧客と四方八方からの要望に対応しないといけません。」

 福原さんにとって、毎朝の日課となっていることがある。

 「勤怠管理がネットワーク化されているので、毎朝自分のパソコンで、過去にメンタルヘルス不調になったことのある約25名の勤怠状況を確認しています。基本的には職場の上司にフォローはまかせているのですが、遅刻が多かったり、欠勤が続いていたりする場合は、上司に確認したり、必要に応じて本人に直接確認したりしています。」

職場復帰支援の難しさ

 「復職は何を持って成功とするか。必ずしも元の職場に戻すことがいいことなのか。いつも分からない…」

 復職に関しての具体的な質問に対して、福原さんからの最初の言葉である。これこそ職場における復職支援の難しさを物語っているのではないだろうか。

 「手引きで言う第5ステップ”職場復帰後のフォローアップ”はとても大事です。業務の質と量を配慮するために、どこまで何を与えていいのか、ダメなのかを上司との間で事前に決めています。これまでにも、復職者に対して職場のいろいろな同僚が、『急ぎの仕事だから』とついつい復職者に直接頼んでしまい、再休職させてしまったことがありましたので、復職後の仕事の指示は上司からに一本化しました。このように過去の経験から学び、改善していくことは多いですね。」

 「復職の際は、いきなり通常勤務に戻すのではなく、午前出勤(3.5時間)から6時間出勤、その後、通常出勤(8時間)と段階を追って元に戻すことを心掛けています。ただし、開始時間については、通常の始業時間に合わせます。復職時から始業時間を守っていくことも大切です。労働時間が短い分、どうしても給料が減ってしまうことになりますが、そこで無理をさせてしまうことは良くありません。本人に給料が支払われるのは、”労働提供の義務”を果たしたからということを、徐々に認識してもらうためでもあるのです。」

職場復帰にまつわる具体的な配慮

 「休職者にとって、お金の問題は特に大きいですね。大企業のように会社の保障制度が十分ではないので、有給期間終了後の無給時には傷病手当金頼みになります。ただし、無給時でも本人負担分の社会保険料は支払わないといけません。これを会社側で負担することは大変です。会社も本人も無理をしないために、休職中の本人負担分の社会保険料は、復帰後返済してもらう旨を事前に伝えるようにしています。休職中に会社が肩代わりした分は、復職後に月1万円程度の月々支払える可能な範囲内で、返済してもらっています。」

 中小企業の中には、休職中の本人負担分の社会保険料を支払うことへの抵抗感から、休職制度そのものにあまり力を入れていない事例も見受けられる。メンタルヘルス対策をしっかりと行い、従業員との信頼関係ができていれば、このような会社も本人も無理をしない方策が生まれてくるのではないだろうか。 

 「復職の際の面談は、顧問契約をしている外部カウンセラーとは別に、私の方でも行っています。その際に必ず、『元の職場への復帰を希望しますか?』と、しっかり確認するようにしています。職場環境や仕事内容、仕事量の多さなどで、メンタルヘルス不調になった場合でも、本人の休職の間に、元の職場が劇的に変わってバラ色になっている訳ではないという事実をしっかりと伝えます。しかしながら、ほとんどの従業員は元の職場に戻りたいと言うのですよね。だからこそ、”職場復帰後のフォローアップ”が大事だと考えます。」

 「特に長期休業者の中には、復職時に建物内に入ることさえ難しい者もいます。そういった従業員の試し出勤対策の一環として、平成23年2月に敷地内の緑地帯を畑として開墾しました。小さな畑ではありますが、20種類以上の作物を栽培しております。従業員にとっては、自らの手で野菜を育てることで、野菜の成長と共に元気になっていくのですよ。これまで2名の従業員が利用しましたが、2名とも職場復帰することができました。ちなみに、収穫した野菜は近所の児童養護施設に贈っています。児童から手書きの感謝のお手紙をいただくと、嬉しいですね。」

 多くの中小企業では、試し出勤をさせたものの、そのための余分な軽作業業務自体がない、という問題がよくあげられるが、会社としても苦肉の策として工場内に畑を作ったとのことである。結果として復職もうまく行き、地域貢献にも繋がった。他の企業でも参考になる点があると思われる。

中小企業だからこそ身近に状況が分かる

 「これまでのメンタルヘルス対策、並びにラインケア研修を通じて、従業員の中でメンタルヘルス不調に対する壁が低くなったと思います。何かあったら気軽にカウンセリングを利用できる組織風土が生まれました。その結果、私や外部窓口に相談するようになり、早い段階での対応が可能になりました。中小企業だからこそ身近に状況が分かるというのも利点です。」

 「最近では、製造業は海外生産にシフトしており、国内の受注環境や納期その他の要求事項はますます厳しくなっています。そのために、社員は様々な面で余裕がない状況が続いています。メンタルヘルス不調者が出れば周りの者に負荷がかかり、またそれらの社員がメンタルヘルス不調に陥りやすくなってしまうという悪循環にもなってしまいます。若手社員のメンタルヘルス不調も今後益々問題になってきます。そうしたことから、人材開発面での制度を変えなければならないと思っています。特に新卒採用後3年目までのフォローは大切です。先代の社長は『引退後はよろず相談をしたい』と言っていました。私もこの”よろず相談室”を通して、今後もメンタルヘルス対策の一翼を担っていければと思っています。」

 中小企業には、金銭面や専門家の人材面で恵まれていない部分は確かにある。しかしながら、福原さんのようにしっかりした「事業場内メンタルヘルス推進担当者」が1人いるだけで、社内での連携、並びに外部資源の活用による職場復帰支援を実現することができる。すべての従業員に目が届き、気づかい、関わることができ、迅速な対応が可能である点、それこそが中小企業ならではの、最大のメリットだと思われる。

【ポイント】

  • ①復帰後の仕事の指示者は一元化する。
  • ②復職時に、復職後も元の職場は元のままであるという現実をしっかりと伝える。
  • ③事業場内メンタルヘルス推進担当者は、休職者に寄り添いながらもルールはルールとして守り、企業も本人にも無理がかからないように進めていくことが大事である。