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[事例1-20] システム開発プロジェクトに関わり出社困難になった事例

概要

症例: 34歳、男性、システムエンジニア、過去勤務に問題なし
家族歴・生活歴: 2人兄弟の長男。両親、弟とともに自宅にて同居、飲酒(-)、喫煙(-)
既往歴: 特になし
症例の経緯:

 男性は、理工系大学院を卒業後、大手情報通信企業の関連会社に入社し、社歴は8年目。入社以来、プログラマーやハードウェア環境整備などの仕事に取り組み、社歴の後半はほとんどを客先での情報システムの立ち上げ担当として過ごしてきました。性格は与えられた仕事をひとりで黙々と遂行していくタイプで、全体的には気弱でおとなしいのですが、同僚の進捗が遅れていれば手伝ってあげたり、人から尋ねられると熱心に教えてあげるといった人当たりのいい面もあります。一方で専門領域における技術の習得には妥協しない性格で、弱音を吐くのはいやで努力をすることが大切と固く信じており、とにかく能力のある者が勝つとの信念を持っていました。実際の職務能力や過去の業績は評価も高く、本人もその評価に満足していました。そんななか、他社主導のある遅れぎみの開発プロジェクトに急遽本人がその技術力を請われて加わることになりました。過去、プロジェクトタイプの業務には何度が加わった経験があったので、今回も与えられた仕事に精力的に取り組んで自分の成果を出したいと考えていました。

 現場はプロジェクトの大幅な遅れのため全員があわただしく動いており、特に責任者はいらだっているのか会議では激しい口調となることも多く、職場はとげとげしい雰囲気でした。また本人の仕事は、基幹的技術が自分の本来の分野ではなかったため当初ギャップがありましたが、この技術不足は努力して追いつこうとひたすら自宅での勉強を欠かしませんでした。現場では分からない技術点があっても、プライドもあって周囲に尋ねることはせず、とにかく自分で技能のギャップを埋めようと努力をしました。しかしなかなか期待通りにそれは埋まらず、少しずつ納期に強いプレッシャーを感じるようになり、ギャップ克服の努力はしていましたが、業務上の失敗をしてしまうことが起き、そのたびに現場上司から強い叱責を受けることになりました。今まで自分が経験したことのないような強い言い回しで叱責されたこともあり、徐々に自分の職務能力に自信を失くし萎縮してしまう傾向となりました。プロジェクトに来て2か月目くらいからは、仕事への自信をまったく失ってしまい、自分にこの仕事は合わないのではないか、と思うようになり、家に帰っても上司の顔が思い浮かび、自責感と恐怖感とでイライラが落ち着かず、床についても朝の4~5時まで眠れないことがたびたびとなりました。職場に迷惑をかけている気がするようになり、職場にいるだけで動悸が起こり、体もだるく今まで経験したことのないような疲労感も感じるようになりました。食欲もなくなり、便秘がひどく、腹痛も発症。出向元の上司に相談しようとは思いましたが、甘えているということになるので自分としてはしたくありませんでした。同職場にて3か月を過ぎるころには気分が完全に抑うつ的となり、不眠傾向もさらに悪化。朝方には会社に行かないといけないとは思うけれども、体が重くて動かない。無理して出社しようと、駅で降りてもプロジェクト室にどうしても向かう気になれず、駅のベンチで何時間もうずくまるようになり、駅のホームに立っていっそ電車に飛び込んだほうが楽ではないかと考えることもありました。

職場の対処
(出向元の上司)
 3か月が過ぎるころ、ときどき欠勤があるとの連絡をすでに受けていた出向元上司は心配し、さっそく本人と面接をしました。本人は会うなり、「仕事をやめたい、仕事意欲もまるでなくなった、会社にいくのが怖い」等と言い、すべて後ろ向きの発言を繰り返します。このとき元上司も、本人のあまりの自信喪失ぶり、無欲的、体力の低下、表情の鈍化に驚き、さっそくプロジェクト担当の責任者と調整をし、まずは本人を当初のプロジェクトからはずして比較的業務管理の厳しくない職務に変えて様子を見ることにしました。しかし、1か月たってもその後の本人の体調や表情に改善は見られず、本人も何ら精神的抑圧感がなくならないと訴えたため、元上司は、これ以上の対応は専門的なアドバイスが必要であると考え、本人を説得し社内の健康管理室にいっしょに来室しました。
産業医の対処  産業医は、本人はすでにうつ病レベルにあり、不眠、食欲不振、抑うつ思考、感情鈍磨、意欲の減退、集中力の低下、等があると本人と元上司に伝えました。産業医は、さっそく精神科の受診を指示するとともに、まずは自宅にて療養することを指示しました。産業医の説明に本人も素直に納得し、面接にて少しやわらいだ気持ちとなったようでした。専門医による診断名は「うつ状態」。自宅療養、投薬治療が必要との診断でした。産業医は上司と連絡をとり、向後約3か月間の自宅療養と通院治療の手続きとすることを伝え、さらに療養期間中は1か月に一度の産業医との面接を指示しました。産業医は、本人が安心して療養に専念できるように元上司から直接本人に対して、「今は十分な療養を取る必要があること」、また「療養はゆっくりと安心して過ごし、治療に専念すること、仕事は心配しなくても大丈夫であること」を伝えてもらうことをお願いしました。同時に産業医はプロジェクトの責任者にも、本人が長期に休む必要のある状況であることを伝え、職場での人の手当ての対処も進行させるよう指示しました。

産業医面談の経過と復職

1か月面談:まったく回復せず、「自分は負け犬」と嘆く。

2か月面談:落ち着きが出始め、療養前のパニック状況を自分なりに冷静に分析できるようになる。しかしまだ、「今はやる気もエネルギーもまったく出てこない」とのこと。

3か月面談:人から言われるままに仕事をやってきたが、時には「NO」と言うことも必要ではなかったかと思う、と言う。自己評価では、回復はまだ3割程度、との感想。産業医判断もまだ職場復帰には十分でないと判断。主治医も復職には反対。療養期間の延長を職場に連絡。

4か月面談:元上司の同席にて面談。復職に向けてのおおよその段取りについても話し合う。

5か月面談:主治医は復職可能の判断。次回の産業医面談までに元上司と相談し復職先や職務内容を決めてくるように本人に指示。

6か月面談:主治医より「復職可の診断書」提出あり。すでに上司との間にて本人を迎える職場体制(取組業務の設定等)が整えられていた。産業医は当面は「残業禁止1か月」の制限を行い復職の経過を見ることにした。

復職時の確認ポイント

 このように職場復帰プログラムにおいては、(1) しっかり(安心して)休ませる、(2) 主治医と連携をとる(診断書発行の時期を調整する)、(3) 産業医の立場からも労働者の健康回復を確認する(就業意欲を含めて)、(4) 本人および上司と調整し復帰後の職務を設定する、(5) 上司による職場での配慮機能を明示する、というポイントが大切です。