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[事例1-23] 英語中心のコミュニケーションを求められ、不適応をおこした事例

1 概要

 日本にも多くの外資系企業が存在していますが、ビジネスのグローバル化の中で日本法人と本国の本社との関係が変化しています。それまでは、日本法人など各国の子会社が一つの会社としてのまとまりを持ち、国内事情に合わせて比較的独立した経営を行うケースが多かったようです。しかし昨今、国ごとの事情に合わせた経営から、事業部ごとの経営戦略による運営が強化されるようになり、本社の事業部と各国の子会社の関係事業との縦のつながりが強化されるようになりました。そのような中で、中年従業員(52歳男性)に発生した職場不適応による適応障害の事例です。

 本人は、外資系企業のキャリアが長いものの、英語に対する自信は持っておらず、むしろ劣等感を感じていました。しかし、ここ数年を除くと、入社以降ほとんどの期間を支店所属の営業職として勤務したため、英語を使った業務は電子メールや文書など文字を介するものに限られており、このままでも特別問題はないと割り切っていました。しかし2年前の業務統廃合で、企業全体の合理化が行われ、営業システムの運営を担当するスタッフとして情報システム部門に移ることになりました。慣れない仕事でもあり、そのころより業務に対する不安感は強まっていましたが、英語でのコミュニケーションをあまり必要としなかったため、何とか業務をこなすことができていました。1年前より、全世界の関連企業の業務統合システムを導入することになり、情報システム部門のほか、営業、製造、物流等の各部門からなるプロジェクトチームが結成されました。営業部門からの派遣として、本人が配属となりました。新しい直属の上司は日本人でしたが、プロジェクト全体のリーダーは外国人であり、チームにも多くの外国人社員が所属していました。また過去に他国でのシステム導入に経験がある外国人コンサルタント多数が関与しており、ミーティングなど、このプロジェクトチームで交わされる会話や文書はほとんど英語で行われていました。

 配属直後より強い不安感があり、早朝覚醒が出現しました。その後、何とか業務をこなしてきましたが、数か月前からは抑うつ感が出現してきており、仕事の能率も低下し、現実からら逃げ出したい気持ちを強く持つようになりました。

 新しい職場には、本音で相談することができる同僚・上司はいなかったため、以前の営業職時代に上司であった管理職が相談にのっていました。また本人はすでに現在の上司にも調子が悪いことを相談していましたが、英語そのものが苦痛であることは正確に伝えていませんでした。上司はプロジェクトのスケジュール上、すぐに人を入れ替えることができないため、できるだけ業務を軽減するように配慮するという返事でした。本人は業務の現状を考えると、この対応でも仕方がないと納得していましたが、不安感や抑うつ感の解消には繋がりませんでした。元上司であったその管理職は現状を見かねて、産業医に相談をしてきました。

2  ポイント

  1. (1) 職場の課題

     現在のプロジェクトが中盤に差し掛かっていることもあり、容易に人間を入れ替えることはできませんでした。また今回導入する業務統合システムは、世界全体で取り組んでいることもあり、すでに他国での経験を有する外国人社員、コンサルタントを利用する必要性があり、日本語で作業ができる環境を作ることは容易ではありませんでした。

  2. (2) 対処

     産業医は元上司に、「自分が産業医に話をして相談にのってもらいたい」と依頼したことを、本人に伝えるように話をしました。その上で本人に連絡して、面接を行いました。

     面接では、まず現在の症状を聴取したところ、軽症の抑うつ状態を認めたため、原因と考えられる症状発生以降の職場・家庭でのできごとについて詳しく尋ねました。最初はシステムの統合の業務が多忙であることや通勤時間が長いことなどの問題点を語っていましたが、カウンセリングの継続で、結局は英語でのコミュニケーションの問題が、不適応の最大の原因であることが明らかになりました。つまり現在の上司には、正しい問題点が伝えられていなかったことになります。

     本人の問題対応の要望を聞いたところ、英語に対する劣等感については十分に上司には話していませんでしたが、このままの状況から早く逃れたいとの意志が強い状況でした。まず軽症うつの疑いのもと専門医を紹介し、明確な診断の上、継続的な抗うつ剤などの処方を受けることになりました。

     診断が確定した時点で、産業医は本人の同意を得たうえで上司と面談の場を作り、可能な今後の対応策を話し合いました。すぐには現在のプロジェクトをはずすことが困難であったため、業務量全体をコントロールするとともに、英語でのコミュニケーションが比較的少なくなるように配慮することになりました。本人の現在の職場での不適応感はなくなっていましたが、治療を受けながら、以前よりも幾分安心した状態で業務を継続しています。またプロジェクトが終了後、営業関係で英語使用の少ない業務への配置転換が検討されることになりました。

  3. (3) 対処の評価・考察

     本例のように、配属と業務能力の不適合によってメンタルヘルス上の問題が発生した場合、産業医に早期に本人からの相談が寄せられることは多くありません。むしろ同僚や上司に相談されることが多いため、彼らを介して産業医に相談が寄せられることがあります。したがって、適切な対応方法の理解のために、日ごろからの管理監督者教育を行っておくことが非常に重要です。

     特に外資系企業では、英語によるコミュニケーション能力が通常の業務能力のうち、かなりの重要な要素になります。したがって、英語でのコミュニケーションに対して不適応が発生したことは、今後の配属のチャンスを狭めることになります。しかし年齢や本人の認識を考えると、本ケースではその点を明確にして、配置転換を図ることが必要であると判断されました。

     特定の問題への不適応であり、早期の配置転換によって症状のかなりの部分が軽快する可能性があります。しかし多くの場合、配置転換には時間が必要であるため、専門医による診断と治療を受けさせる必要があったケースです。