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[事例1-15] 専門外のシステム開発の仕事が進まず適応障害を起こした事例

概要

 24歳、独身女性Cさん、国立大学大学院工学修士修了。特に家族歴はありませんが、大学生時に過換気症候群と月経前症候群(PMS: Premenstrual syndrome)の受診歴がありました。性格は几帳面で完全主義、神経質なところはありましたが、親にとってはずっと”イイ子”でした。大学院修了後、大手製造業に技術系専門職として就職。大学院時代の研究課題は、土木系構造設計が専門分野でしたが、公共事業の減少から、就職した企業でその部門の撤退が決まりました。撤退がちょうどCさんの入社と重なったため、入社直後より大学や大学院で学んだ専門分野とは直接には関係のない、機械関連システム系の仕事に就く可能性の説明を受けました。人事担当者の積極的な入社勧誘があったことや専門に合った仕事が出来ることを選び就職したので、入社当初より不安と不満がありました。その上、親元を離れ初めての単身の寮生活でした。それでも、気持ちを切り替えて新しい仕事に意欲的に取り組む覚悟でいました。研修で、システム開発の具体的な仕事内容を知りましたが、システムを作ることにはある程度経験があったので何とかなるように思えました。2週間の研修の後、システム開発の仕事に従事することになりました。いざ始めてみると、専門を活かせる仕事ではないことを再認識させられ、乏しい経験や短期研修のスキルだけでは、いくら残業や休日出勤をしても仕事は思うようには進められませんでした。周囲の人もそれぞれ自分の仕事に忙しく、支援・協力が得られるような状況もありませんでした。焦燥感から不眠となり、ひとり寮のベッドで泣き明かすこともありました。上司も無理をしていることはわかっていましたが、能力を評価していたのでそのうち習得できると思い、それ以上気にかけることはありませんでした。やがて、Cさんは気分が落ち込み仕事に集中できず、不安で出社できなくなりました。直ちに上司と保健師の勧めで、会社が契約している外部EAP(Employee Assistance Program; 従業員支援プログラム)機関を通じて精神科クリニックを紹介され、上司と一緒に受診することになりました。症状は、不安と抑うつ感が認められ、その原因についても本人と上司から明確に伝えられました。症状はうつ病の診断基準を満たすほどではありませんでしたが、就職による転居と専門外の業務がストレス因となった適応障害と診断されました。精神科医は、投薬と同時に環境調整を行えば、早期に復職可能と判断しました。しかし、社内事情からCさん本来の専門業務への配置転換は不可能でした。元の職場への復職が原則ですが、その後、人事労務担当者、産業保健スタッフ、上司は本人とも相談の上、Cさんは親の支援が得られる自宅から通勤可能な本社へ異動、広報システムの開発とその管理の業務に従事することになりました。外部EAP機関からは本社近くの精神科クリニックを紹介され、治療の継続も適切に行われました。実家からの通勤で自分のペースを取り戻せたことから、症状は急速に改善し、クリニックの治療は終了。現在2,3か月に1回程度の保健師面談のみによるフォーローアップで、業務上特に問題は起きていません。回復が早く仕事にも順調に適応できているので、近くそれも終結する予定になっています。

ポイント

 メンタルヘルスケアは、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が示す4つのケアが基本になります。これによると、健康の保持増進・発症防止の一次予防、早期発見・早期治療の二次予防、職場復帰・再発防止の三次予防と一貫した対応が重要とされています。若年女性も同様の対応となりますが、そのメンタルヘルス支援には、適切な職業選択のための情報提供やジェンダー問題の理解、キャリア・カウンセリング体制の整備が望まれます。ダイバーシティ・マネジメント(多様性を受け入れ、それを積極的に活性化させる管理)を重要視し、女性が働きやすい雰囲気と仕事を続けやすい環境に関心を示す企業も増えてきました。それにも関わらず、その時々の経済変動や雇用状態の影響を若年女性労働者は受けやすいことも現実です。若年女性の非正規雇用化が急速に進む中、たとえ正規雇用であっても研修内容・研修期間が十分でないまま過重な労働を求められることも増えています。若年女性の少ない職場では、上司や同僚が適切な関わり方に慣れておらず支援・協力を得にくい場合もあるでしょう。本事例のCさんのように能力が高く専門性の高い知識・技能を持った若年女性労働者にとって、それを発揮できない状況に直面した場合、大きな心理的負荷を感じることは当然の反応であるともいえます。一般の職場では専門性の高い職種ほど女性が少なく、若年女性のキャリア・アイデンティティの確立は容易ではありません。組織人格と個人人格の統合は男性以上に大きな課題になります。

 適応障害の発病は、通常ストレス因となる出来事が生じてから1か月以内で、出来事に対する順応が生ずる時期に生じます。個人的な脆弱性がその発病の危険性と症状形成に大きな役割を演じているとされています。症状は、抑うつ気分、不安、心配など多彩です。他の精神障害の診断基準を満たす場合は、その診断名が付くくらい相対的には軽度の症状のため、早期に適切な対応、治療を行えば、回復は早いのです。しかし、症状が持続し、遷延化した場合は、疾病利得がみられることもあり、治療・回復に苦慮する事例が増えています。

 また、この事例のように、男性には理解しづらい女性特有の症状や疾患の既往がある場合はきめ細やかな対応が必要です。Cさんは真面目で几帳面な性格傾向に加え、個人的要因として、過換気症候群の既往と月経前症候群(PMS)の経験が挙げられます。PMSは、排卵から月経開始までの時期に現れ、身体的、精神的症状を訴える症候群です。女性にとって、辛くても職場では男性上司には話しづらいものです。

 メンタルヘルス対策は、個人情報保護への配慮が必要で、今後ますます期待されるのは、本事例でも効果的であった事業場外資源としての外部EAP機関の活用です。外部EAP機関のサービスは、カウンセリング、専門医の紹介、ストレス評価のほか、上司や産業保健スタッフに対するコンサルテーション、メンタルヘルス対策のシステム構築や情報提供など幅広いため、質の高い外部EAP機関のニーズが高まっています。この事例は、明確なストレス因と本人の脆弱性のため「適応障害」を発症したと考えられますが、ストレス因の軽減と家族支援を得るために行った配置転換が奏効しました。

図 労働者と産業精神保健活動に関わる人たちとの連携
図   労働者と産業精神保健活動に関わる人たちとの連携