歌舞伎俳優

中村 隼人

HAYATO NAKAMURA

人にいろいろ相談する割には、自分の中で答えが決まってます(笑)

中村隼人さんからのメッセージ

楽屋でコツコツ練習中

目指すは美文字!

最近、習字にハマっています。きっかけは冠婚葬祭の場で自分の字を書く機会が増えたことです。そのような場でいざ書こうとしたときに、自分の名前や住所をきれいに書けるかというと、なかなかできない。さらに、僕らのような古典芸能を仕事にする者は「字が上手いはず」という先入観を持たれがちなんです。でも実際には、僕は上手くはない。これはまずいと思いまして(笑)。そこでペン字練習帳を始めて、月に1回は先生に習いに行っています。
楽屋で練習することも多いです。歌舞伎の舞台は、例えば出番が昼の部の最初と夜の部の最後だと、最大で4時間くらいの空き時間があります。だからその間、他の役者の方が稽古に励む一方、僕は懸命に字を練習している、なんてことがあります(笑)。
字を書くことへの興味に目覚めたからなのか、芸術としての「書」にも惹かれています。基本的に日本の芸術は「余白の美」が大切で、書道にもこれがあてはまります。つまり、「間」を持たせることが大事。一方で、歌舞伎はその逆。間を持たせるのではなく、「間を無くす」ことで逆に間が活きるという考えです。同じ日本の古典なのに、「間」に対する考えが書道と歌舞伎では違うということに気づいたんです。そんな発見もまた面白いと感じています。もちろん、外で字を書いて綺麗だと言われると、単純に嬉しくなります(笑)。

自宅でのお楽しみ

男の手料理を極める

料理を作るのが好きです。作ることの楽しさは同時に、気分転換にもなっています。家に帰ったらまずプシュッとコーラやビールの缶を開けて、飲みながら料理をします。
料理には作ったり食べたりする喜びだけじゃなくて、知る喜びもあって。この前、ボンゴレ・パスタを作ったのですが、アサリの砂抜きの裏技を知ることができました。普通は砂抜きに1時間くらいかかりますが、それが6分くらいで取れる方法。ポイントはアサリを50度のお湯に入れること。そうするとアサリが生きるために呼吸をいっぱいするから、砂を吐き出しやすくなるみたいです。本やネットで自分が納得するまで調べて、できなかったことをクリアしていけるところも料理の醍醐味ですね。
料理を作ることには、もう一つちゃんとした理由があります!もちろん単純に食べること自体が好きということもあるのですが(笑)、実は歌舞伎とも深く関係しています。舞台に臨む時、ある程度体重があることが大切なんです。以前出演したスーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」はハードで、2か月でおよそ8㎏も体重が落ちました。体重が落ちることが分かっているので、増やしてから望むようにしないとバランスがとれないのです。それに、長期間にわたる舞台の場合も、体重がある方が風邪もひかないし、最後まで乗り切ることができるんです。ね、だからただの食いしん坊じゃないんですよ(笑)

特別なプレッシャー

人間国宝の舞台

今年9月、特別なプレッシャーを感じる舞台に出演しました。人間国宝の中村吉右衛門さん主演の公演。その中で「10分間、一人きりで踊る」という部分がありました。10分踊るだけで何がそんなにプレッシャーなんだろうって思いますよね?想像してみて下さい。見ている人は、人間国宝を見に来たお客さんで、目の肥えた70~80歳の評論家レベルの方々。しかもそれが1000人です!慣れ親しんだ自分の公演やファンイベントとは、客層が違う。僕にとってアウェーともいえる状況です。
もちろんお客さんは、人間国宝と僕の芝居を見比べることなどないかもしれません。「だから大丈夫か」という思いも頭をよぎります。でも、役者がそんな気持ちでお客さんの前に立ったら、その気持ちも絶対に客席まで伝わってしまう。それは絶対にあってはならないことなのです。中村吉右衛門さんのように偉大な方の舞台に立つ時や大きな役を務める時は、プレッシャーとの戦いです。でもそこで大切なことは「出るからにはやりきる!」と腹をくくることだと思います。

秘密の稽古場

一人ドライブでリセット

一人ドライブも気分転換の一つです。稽古が終わって、家に帰る前にちょっと寄り道していくこともあります。窓を全開にして走ると、とても気持ちがいいんです。そこで感じることができる匂いも好きです。特に冬が来る前の9月末から10月末の街の匂いはなんともいえませんね。その時期は、よくドライブに行きます。
歌舞伎を忘れるためにドライブへ行くと言いながら、車の中で歌舞伎のDVDを流すこともあります。運転しながら、DVDで流している演目のセリフを言うんです。仕事を引きずってしまってリフレッシュできないのでは?と思うかもしれませんが、実はこれも歌舞伎特有のリフレッシュ方法。僕らの業界の不思議なところで、歌舞伎のことで悩んでいる時、他の演目に入り込むことで、今の演目のことを忘れて、気分転換できるんです。あと、この世界ではある日突然「この役をやってください!」と声がかかることがあります。そのための準備でもあります。先月も、自分がずっと憧れていた役が舞い込んできたんですよ!あの時は本当に「車の中で練習しておいて良かった!」と思いましたね(笑)

部屋の汚れは心の乱れ

疲れている時こそ掃除を

部屋の掃除がリフレッシュになります。時間がある時は極力掃除をして、部屋を綺麗にすることを心掛けています。やはり綺麗な家に帰ってくると気持ちがいいし、逆に汚い家だと憂鬱になります。面白いのは、仕事で疲れてイライラしている時は大体部屋も汚れていることが多い。部屋が気持ちを表しているんじゃないかと思います。
常に綺麗にしていたい気持ちはあるのですが、どうしてもスケジュールがタイトな時は、部屋も荒れてしまいがちです。たとえば、歌舞伎の稽古は一演目につき4日間しかなくて、その期間で集中的に追い込む。そうすると、精神的にも体力的にも、掃除をする余裕が無くなってしまうことがあります。基本的に歌舞伎の稽古が始まると、初日までは飲みにも行かないし、ご飯にも行かない、そのくらいハードなんです。
ただ、疲れていても、自分を奮い立たせて掃除をやろう!という時があります。洗濯機を回して洗濯が終わるまでに掃除して、お皿洗ってと、家をどんどん綺麗にしていく。疲れていても、結果的に気分転換になる。当たり前のことですが、綺麗な方が気分もよく、心が整い仕事にも集中できる事がわかりました。

大事にしたい仲間たち

相談は打ち明けた時点で解決!

信頼している友人の一人に俳優の神木隆之介くんがいます。彼とは高校時代からの付き合いです。今は、お互い同じ世界にいるけどジャンルは違う。そのせいか凄く話しやすいので、よく相談にのってもらいます。
ただ僕の場合、人に相談したがる割には自分の中で答えが決まっていることが多い。相談相手から、自分の答えと違う意見が来ると、「そうかなー」って返すことも。じゃあ、最初から相談するなって話ですよね(笑)。でも、僕の中では悩みを打ち明けた!ということ自体が大事なんです。聞いてもらって楽になるという感覚に近い。逆に神木くんから相談を受けることもありますが、あいつも自分の中で答えが出ているのに相談してくるタイプ。僕らは同類ですね(笑)。
歌舞伎界では、先輩の市川猿之助さんに可愛がってもらっています。身近なので演技のこと、役柄などで教えを請うことが多い。尊敬できる先輩です。
他にもお世話になっている人は本当に多くて、友人や先輩、スタッフ、その他身の回りの方々…と数え切れないほど。僕は性格上、皆から好かれたい人間なんですが、それを叶えるのは、なかなか難しいことですよね。だからまずは、シンプルなことですが自分の近くにいるスタッフと親友を一番大切にすることに決めています。

PROFILE

歌舞伎俳優

中村 隼人HAYATO NAKAMURA

1993年、二代目中村錦之助の長男として誕生。2002年2月に歌舞伎座『菅原伝授手習鑑 寺子屋』の松王丸一子小太郎で初代中村隼人として初舞台を踏む。以降、数々のドラマやCM等にも出演。大人気漫画を歌舞伎にしたスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』ではサンジ、イナヅマ役を演じ、新しい歌舞伎の可能性を見せた。さらに料理トーク番組「メンズキッチン2」のMCに抜擢されるなど、活躍の場を広げている。

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