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[事例1-8] パワーハラスメント-人前での上司による罵倒・叱責-でうつ病になった事例

概要

症例:  Aさん、1955年生、男性、独身、一人暮らし。36歳の時研究技術職として中途採用されました。
既往歴、健康診断結果:

 学生時代から肩凝りがひどく、ストレスが強くなると肩こりもひどくなることを繰り返していました。また昔から不眠で悩んでいて、寝酒を飲む習慣があり、健康診断で毎年肝機能異常が認められました。

経過:

 採用当初配属された部署の上司のBさんとうまが合わず、たびたび人前で仕事のことを叱られ、そのことが強いストレス源となって、何度も会社を辞めようと思ったそうです。2年後に人事異動にともなってBさんから離れました。ところが、バブル景気後、組織の効率化が進められ、46歳の時再びBさんの下へ配転されました。仕事の負担が大きい上に、Bさんからは、ほんの少しのミスや意見の食い違いを、人前で繰り返し叱責罵倒されました。飲酒量も増え、肝機能はこれまで以上に悪化し、食欲がなくなって体重が大幅に減少してしまいました。出していた配転希望がかなえられないという事態が明白となったことで状態が急激に悪化し、某大学病院の総合診療科を受診してうつ病と診断されました。抗うつ薬、精神安定剤、睡眠導入剤による内服治療が開始され、同時に会社を休むように診断書が出ました。

 産業医として、労務担当部長のCさんから状況を訊いたところ、普段からBさんはAさんに対してかなりきつい口調で指示命令を行っていて、小さなミスを必要以上の大声で怒鳴って注意をする。それも同僚の前で行う。度を超えていると感じ、Bさんに何度も助言・指導を行ったが、修正されなかったということでした。上司Bさんとの面談も実施しましたが、Bさん自身にもストレスがかなり溜まっているようでした。Aさんのことに触れると、仕事の進め方や取引先への対応のまずさなど、Aさんへの不満を述べられました。

 以上から、BさんによるAさんへのパワハラと判断しました。ただし、Bさんの置かれている状況も理解でき、一方的にBさんが悪いのではなく、相性の問題もあるとした上で、労務担当部長Cさんへ配置転換の必要性を伝えました。 Aさんは、3か月間休んだ後、別の部署へと復職しました。不眠、食欲不振などの症状は改善して体重は元に戻り、肩凝りも消失しました。アルコールを完全に絶って肝機能も正常化しました。

ポイント

  1. 1 企業としての予防と事例対応

    (1) 予防:企業にとって生産性の向上、組織としての健全性の確保、法令コンプライアンスなどの点で、パワハラ対策は重要です。なかでも予防が重要で、これには教育が効果的です。同時に問題を早い段階で解決につなげるシステムづくりが大切です。教育には管理監督者教育と、一般社員教育とがあります。管理監督者教育ではパワハラとはどういったもので、それを犯すことが会社にとっていかに不利益となるかを教育します。一般社員へは、問題が小さいうちに対処できるようにパワハラを受けた場合の対処方法を教育します。ただし、一般社員にとって問題を公にすると職場にいづらくなるという不安は、特に立場が弱いだけに強く、そうではないことを保障することが必要です。気軽に相談できる窓口や、直接上層部へ訴えることのできるホットラインの設置が望まれます。

    (2) 事例対応:実際に問題が発生した場合、被害者本人だけではなく同じ職場の同僚、加害者(上司)など、関係者から状況調査を行わなければなりません。パワハラの場合、その立場や受け取り方に差があることが問題となります。よって慎重な判定、処理が重要です。業務命令の妥当性、合理性と、その命令によって労働者に与える不利益が著しく耐え難いものとなっているかどうかなど、客観的に判定して適切に処理します。

  2. 2 パワハラの被害を受けている場合の対応

     まずは勇気を持って自分の意思を加害者である上司に伝えます。それで解決できなければ、相談窓口へ相談しましょう。黙って我慢するより相談窓口へ申し出ることは、会社や職場の環境をよくするためになると考えてください。一般的な相談窓口が信用できないようなら、社内にあるホットラインを利用して直接上部へ訴えましょう。社内にそのような機能が備わっていない場合には、外部へ相談しましょう。具体的には、各都道府県労働局等の総合労働相談コーナーに相談することができます。匿名でも受け付けてくれます。さらに弁護士へ相談する方法もあります。肝心なことは、泣き寝入りして辛い状況を我慢して病気になったり、会社を辞める破目に陥ったりするのではなく、積極的に可能な方法を模索することです。また、パワハラは、職権を背景に常軌を逸した執拗ないじめ、あるいは嫌がらせですので、業務上耐えられる限度を超えていたことを証拠立てる必要性があります。よって、いつ誰にどのようなことをされたかを記録しておきましょう。証人がいれば尚更いいでしょう。我慢せずに一歩を踏み出す勇気が大切です。