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No.5 身体症状に着目したストレス反応

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No.5:身体症状に着目したストレス反応

1.はじめに

 職場で働く人は、仕事自体やその関係で生じる多様なストレッサーにさらされている。それは、良いものであれば、モチベーションを高めたり、働きがいを感じて、自己の成長や職場以外の家庭の雰囲気や社会活動を良好にすると考えられる。その一方で、業務上の心理的負荷を感じるようなものは、様々な不快な症状を生み、メンタルヘルス不調から進行すれば種々の疾患発症にも繫がる。

 ここでは、特に身体のストレス反応となって現れるものをどのように捉え、2015年12月1日から実施が義務付けられたストレスチェック制度とも関連づけて検討した。なお、精神疾患の名称は、基本的にはDSM-5の日本語翻訳版1)に基づき記載した。

2.今、なぜストレス反応として身体症状に着目することが重要なのか。-ストレスチェック制度導入を見据えて-

 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の実施にあたって、指針やマニュアル2)が発表された。法に基づくストレスチェック制度は、①仕事のストレス要因、②心身のストレス反応、③周囲のサポートの3領域を含むことが必要とされ、特に一次予防重視の方向性が示された。ストレスによっておこる心身の反応は、職業性ストレス簡易調査票57項目を使う場合、「活気」(3項目)、「イライラ感」(3項目)、「疲労感」(3項目)、「不安感」(3項目)、「抑うつ感」(6項目)、「身体愁訴」(11項目)が挙げられている。当初案よりも、身体のストレス反応の項目が増えている。それは、うつ病のスクリーニングからメンタルヘルス不調を未然に防ぐという一次予防を目的とするこの制度の基本的な考え方の変化による。つまり、精神症状を含め幅広い症状、あるいは初期段階で発生しやすい身体症状も把握することにあろう。

 ところで、不安と抑うつは精神症状としてよくみられる症状であるが、”身体化(somatization)”もしばしば注目される指標とされてきた(DSM-5では、身体化は使われず”身体症状(somatic symptom)”を用いている)。実際、「不安だ」、「憂うつだ」という訴えよりも、「疲れた」、「だるい」、「眠れない」、「食欲がない」など身体的不定愁訴がうつ病の初期症状であったり、原発事故の被曝者では不安や抑うつよりも身体化の症状が表出しやすいとされる3,4)。しかし、こうした症状が出たからといってすぐに異常とすることは過剰診断に繫がりやすい。たとえば、不安は「明確な対象のない恐れの感情」で、これがさまざまな形で表現されるのである。恐怖は、不安と異なり、状況や対象が明確である。いずれにせよ、我々が、危険を回避するため日常的に自己防衛行動を取るのは、不安や恐怖があるからで、外的環境に適応するために必要な反応といえる。同時に、不安や恐怖を感じると、自律神経系が興奮し、動悸、息苦しさ、血圧上昇、発汗、口渇、肩こりなど種々の身体症状や不快感が現れる。これは、危険を回避して自己を守るために、危機的な状況の中での正常な反応と言えるものである。この防衛規制を過度に使用すると、適応的な反応が、何らかの原因で過剰となったり誤作動を起こす。

 抑うつは、健康な人でも半健康状態に陥ると、憂うつな気分や好きなことも楽しめない状態となる。抑うつが病的レベルまで悪化したものを一般にうつ病と呼んでいるが、医学的には、その程度は軽症から中等症、重症まで幅広い。重症化、難治化させないためには、気づきと正しい見立てが必要である。プライマリ・ケア施設におけるうつ病の罹患率は4.2~6.9%と高いにもかかわらず、30~50%が見逃されているという。これは軽症のものが増えていること、いわゆる仮面うつ病のように、不眠、食欲減退、頭痛(頭重)、めまい、腰痛、易疲労感などの身体症状しか訴えない患者がいること、プライマリ・ケアに関わる医師がうつ病を疑わせるような精神症状をよくみていないことなどによる。多様な症状に早く適切に気づくことは、自殺防止の観点からも大切である。

 最近、女性労働者の”活用”から”活躍”へと更なる展開が期待され、「202030」(社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待するという政府が掲げた目標)など法政策面での支援も強調されている5,6)。女性は疫学的にみて男性よりもうつ病など精神疾患の発病率が高い。その背景に女性ホルモンの影響がみられ、月経、出産、更年期前後に心身の不定愁訴が多い。それに加え、出産、育児、家事、介護などを女性が担うとする固定的な性役割分業のため、働く女性は仕事や家庭での葛藤からメンタルヘルス不調を来しやすい7)。女性の活躍は、母性保護のための職場環境改善、セクハラ・パワハラ防止といった一次予防が関係する場合も多く、今後、重要な課題となってくるだろう。

3.職場ストレスモデルにおける身体症状の理解-第一次予防から第三次予防までのポイント

 身体症状を適切に評価するためには、ストレスプロセスの中で捉えることがメンタルヘルス対策上欠かせない。ストレス研究の先達たちは鋭い洞察によって仮説を立て果敢に科学的解明を試み、臨床に繋がる知見を積み上げてきた。そうした成果のひとつである米国労働安全保健研究所(NIOSH)職業性ストレスモデルを元に作成したストレスモデルを【図1】に示す8)。業務による心理的負荷については、精神障害の労災認定の出来事を参考にした9)。このモデル中、身体症状をキャッチできるポイントはⅠ~Ⅲである。Ⅱではストレス反応として、Ⅲでは診断要件として身体症状がよくみられる。ストレス要因による疾病は、業務以外の出来事で発病する場合や、個人要因、生活習慣、緩衝要因などによって修飾され、同強度の業務上の心理的負荷を受けても、個々人によって表出される症状の程度は異なってくる10,11,12)。一方、環境由来のストレスと個体側の脆弱性との関係によって精神的破綻が生じるかどうかが決定されるという考え方、「ストレス-脆弱性」理論も何らかのストレス因(環境因)と個人因(素因)の相互作用により発症するという理解が受け入れられている。人間は脆弱性(vulnerability)とほぼ反対の意味で使われるレジリエンス(回復力、resilience)を同時に持つことが知られ、こうした力の活用が試みられている。

 Ⅰの生活習慣は、不眠や肥満のように症状として捉えられることもあるが、一次予防の視点からみれば不良な生活習慣として位置づけ、より良い生活習慣へと改善する好機という見方もできる。

【図1】 職場ストレスと身体反応プロセス

4.不良な生活習慣とストレス反応としての身体症状との評価と対策の異同-具体例として睡眠障害(不眠)からみた評価と対策

 不眠は、一般に睡眠量の不足または質の低下による主観的症状とされ、①入眠困難、②睡眠維持困難(中途覚醒)、③早期覚醒、④熟眠感の欠如の1つ、または2つ以上がみられる。DSM-5の「睡眠-覚醒障害群(Sleep-Wake Disorders)」に不眠障害(Insomnia Disorder)があり、米国睡眠医学会が作成した睡眠障害国際分類第2版(International Classification of Sleep Disorders 2nd: ICSD-Ⅱ)の不眠症分類では、11種の不眠症に細分されている。1カ月以上続くと慢性の不眠症となる。

 不眠で意欲や注意力、集中力は減退し、疲れやすく、気分や気力も低下する。睡眠は、人間にとってホメオスタシスの維持に欠かせないもので、ストレスを軽減するメカニズムとして重要である。慢性的な不眠はストレス系を活性化したり、コントロールができないことがあるのかもしれない。不眠症は、うつ病や不安障害、統合失調症など精神疾患を悪化させるリスク要因となる13)。また心的外傷(トラウマ)を経験し、急性ストレス障害(ASD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を生じた患者の多くは不眠を訴える。喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、胃腸炎、偏頭痛などの心身症は、不眠症患者が健康的な睡眠をとれる人の2倍も多いと報告されている。短時間睡眠の不眠は、高血圧のリスク増大と関連していることが明らかにされてきた。また頭痛、下痢、便秘、動悸、息切れ、疲労などの非特異的身体症状も不眠症患者に多くみられる。

  単極性のうつ病では、入眠困難、睡眠維持困難(中途覚醒)、早朝覚醒、熟眠感の欠如などの不眠が90%以上でみられる。Chang14)らによるジョンホプキンス大学医学部男子卒業生1,053人を対象に最長34年間追跡調査を行った研究では、学生時代に不眠のあった卒業生は、不眠のなかった卒業生と比較してうつ病発症率が約2倍もあったことが示された。また、富士市では不眠を手がかりに中高年男性の自殺防止の取り組み”富士モデル”として、うつに気づき、専門医受診につなげるキャンペーンを展開し成功している。

 近年、不眠症に認知行動療法(cognitive behavioral therapy: CBT)は、睡眠薬と同等以上の有効性があることが知られ、不眠治療として標準化され欧米で普及している15)。CBTは奥が深いが、睡眠に対する認知を正すことで睡眠薬投与を減量できることから日本でもその選択が広がっている。

 一方、不適切な睡眠を正しい”睡眠衛生”に変容させる非特異的な手法も睡眠障害の治療に役立つ。最近では、『睡眠保健指導(sleep health treatment: SHT)』が脳と心の健康のために必要であると提唱され、これに関連して厚生労働省は「健康づくりのための睡眠指針2014-睡眠12箇条-」【表1】をエビデンスに基づき作成している。夜型生活などの不適切な生活習慣から不眠になる人が成人の5人に1人以上と増えている16)。不眠防止を切り口に、うつ病の発症防止・早期治療、自殺防止、生活習慣病の発症防止・悪化予防に有用であるという報告は多い。適切な薬物療法と、認知行動療法や睡眠保健指導(SHT)による正しい知識と実践を誰もが身につけるよう、一次予防としてスリープ・リテラシーを心身の健康教育の一貫として推進していくことは有用である。

【表1】 健康づくりのための睡眠指針2014〜睡眠12箇条〜

5.心身症と精神疾患-DSM-5における位置付けと留意点-

 DSM-Ⅳ-TRでは「身体疾患に影響を与えている心理的要因」は、「臨床的関与の対象となることのある他の状態」の診断カテゴリーに含まれていたが、DSM-5では、「身体症状症および関連症群」、「他の医学的疾患に影響する心理的要因」の診断カテゴリーへ移された1)。心身症は、日本心身医学会の定義(1991)によると、「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神疾患に伴う身体症状は除外する」とある。特に心身症では、身体と心理の双方向の相互作用で生じる病態を特徴としている。

 DSM-5の診断カテゴリーのうち「他の医学的疾患に影響する心理的要因」は、心理的または行動的要因が身体に一方的に作用し身体的不調を生じていることに焦点化できる。このカテゴリーの重点は『医学的疾患』の悪化にあり、多様な心理的要因が医学的に好ましくない影響を及ぼす例として、「高血圧の治療においてアドヒアランスが安定しない(軽度)、喘息を悪化させる不安(中等度)のほか、心臓発作の症状を無視する(最重度)」などの記述がある。また「影響を受ける医学的疾患には、糖尿病やがん、冠動脈疾患のような病態生理が明らかなもの、片頭痛、過敏性腸症候群、繊維筋痛症のような機能性症候群のほか、痛みや倦怠感、めまいなど「特発性の医学症状」が例として挙げられている。

 「身体症状症および関連症群」は、以前は「身体表現性障害」を用いていたが、曖昧であったり、下位診断相互に多くの重複がみられたこと、精神医療よりも身体医療の場を受診するにもかかわらず精神科領域以外の医療者にとって使いこなすことが困難であったため障害数を減らす変更がなされた17)。これまで医学的に説明不能な症状を持つことが過度に強調されていたが、「身体症状症および関連症群」では、診断された医学的疾患があってもよい。その他の下位分類には、「身体症状症」「病気不安症」「変換症/転換性障害(機能性神経症状娼症)」「作為症/虚偽性障害」などが整えられた。DSM-Ⅳ-TRで心気症とされた大半はDSM-5では身体症状症と診断されるが、精神的訴えにとらわれているものは、少数となったが病気不安症の診断が適用される。身体症状症群では、基準B(身体症状、またはそれに伴う健康への懸念に関連した過度な思考、感情、または行動の顕在化)を満たしていることが重要で、心身症の過敏性腸症候群や線維筋痛症の多くの人はこの基準Bを満たさないだろうと解説されている。

6.その他の身体症状を呈する関連病態の鑑別

 不安障害は、不安(anxiety)による著しい苦痛や不快な機能障害や説明のつかない生理学的症状(動悸や呼吸困難、血圧上昇、発汗など)を伴い、不安が阻止された時に恐怖(fear)が出現することがある。不安障害には、広場恐怖症、社会恐怖症、全般性不安障害、パニック障害、強迫性障害、急性ストレス障害(ASD)[ICDでは急性ストレス反応(ASR)]/心的外傷後ストレス障害(PTSD)18)および適応障害、解離症群/解離性障害群、身体症状症群および関連症群(身体症状症、病気不安症、変換症/転換性障害、作為症/虚偽性障害、他の医学的疾患に影響する心理的要因ほか)などがある。類似の症状を示す身体症状症、変換症/転換性障害、作為症/虚偽性障害、詐病との鑑別ポイントを【表2】に示す1,19)

【表2】身体症状症および関連症郡と詐病と鑑別ポイント

7.おわりに

 身体のストレス反応については多様な疾患概念が混在しているので、精神疾患にとどまらない一般疾患の存在も念頭に置きながら見立てを進めなければ判断を誤りかねない。ストレスによる身体症状の見立ては過剰でも過小であってもならず、早期に柔軟かつ正確な評価を行うことの重要性を指摘した。メンタルヘルス対策については、一次予防から三次予防まで一貫した対応が求められるが、一見症状にみえるものであっても不良な生活習慣の表出である場合もあり、特に一次予防へのアプローチについて概説した20)

執筆者:神戸親和女子大学大学院教授(医学博士・精神科医) 丸山総一郎

1) Amercan Psychiatric Association: Diagnostic and statistical manual of mental health Fifth Edition. Washington. D.C., 2013(高橋三郎・大野裕・染矢俊幸・神庭重信・尾崎紀夫・三村将・村井俊哉訳: DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル, 医学書院, 2014)
2) 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室, ストレスチェック制度に関するマニュアル作成委員会: 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル, 2015
3) 丸山総一郎: 東日本大震災をめぐる精神医学的諸問題-死別悲嘆、トラウマ、放射線被曝のストレス評価再考-. 産業医学レビュー, 24(2), 47-84, 2011
4) 丸山総一郎: 放射線被曝とメンタルヘルス~うつ病を含めて~. Depression Frontier, 9(2), 27-43, 2011
5) 丸山総一郎: 女性労働の歴史的変遷-メンタルヘルス・QWLの視点から. 産業精神保健, 23(特別号)(in press)
6) 丸山総一郎: 女性労働者のストレス問題とメンタルヘルス対策-法政策の歴史的変遷と生物学的視点を含めて-. 産業ストレス研究, 22(3) (in press)
7) Seto M, Maruyama S,、Morimoto K.: Work and family life of chidrearing women workers in Japan: Comparison of non-regular employees with short working hours, non-regular employees with long working hours, and regular employees. J Occupational Health, 48, 183-191, 2006
8) 丸山総一郎(編著): ストレス学ハンドブック, 創元社, 2015
9) 丸山総一郎: 精神障害等の労災認定における課題-ストレス関連障害からの接近. 産業ストレス研究, 18(3), 203-209, 2011
10)丸山総一郎: 職場のメンタルヘルス-メンタルヘルスの評価と尺度. 臨床精神医学, 33(7), 883-893, 2004
11)Maruyama S.: The effects of lifestyle and Type A behavior on the life-stress process. Environ Health and Prev Med, 2, 28-34, 1997
12) Maruyama S.: Effects of long workhours on life-style, stress and quality of life among intermediate Japanese managers. Scand J Work Environ Health, 22, 353-359, 1996
13) Ohayon MM, Roth T.: Place of chronic insomnia in the course of depressive and anxiety disorders. Journal of Psychiatric Research. 37, 9-15, 2003
14) Chang PP, Ford DE, Mead LA,: Insomnia in young men and subsequent depression. The Johns Hopkins Precurors Study. American Journal Epidemiology. 146, 105-114, 1997
15) Taylor DJ, Lichstein KL, Weinstock J, Sanford S, Temple JR.: A pilot study of cognitive-behavioral therapy of insomnia in people with mild depression. Behavior Therapy, 38, 49-57, 2007
16) 粥川祐平. 健康障害の疫学. 精神医学レビュー.24, 84-88, 1997
17) 神庭重信(総編集)・三村将(編):DSM-5を読み解く4, 身体症状症および関連症群, 中山書店, 2014
18) Setou N, Maruyama S, Morimoto K.: Posttraumatic Stress Disorder(PTSD) after Disaster: Issues of screening and early support. JMAJ, 48(7), 353-362, 2005
19) Kaplan, H.I., Sadock, B.J.: Kaplan and Sadock’s synopsis of bpsychiatry: behavioral sciences, clinical psychiatry. 9th ed. Baltimore: Williams & Wilkins. 2003(井上令一・四宮滋子監訳: カプラン臨床精神医学テキスト-DSM-Ⅳ-TR診断基準の臨床への展開(第2版), メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2004 )
20) 丸山総一郎: 産業保健におけるメンタルヘルスリテラシーの現状と課題. 産業ストレス研究, 18(4), 247-255, 2011