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第16回 山田 剛彦さん

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第16回 山田 剛彦さん
株式会社保健文化社 企画編集担当
メンタルヘルス・ポータルサイト委員会作業部会委員

普通の職業人にできること

 私は文学部の学生でした。国文学、特に中世文学を中心に、暢気で好き勝手な議論をしている学生でした。そんな学生に精神や心理といった概念が入り込んできたのは、やはり文学を通じてでした。いろいろな文学作品を「読む」ことは、歴史学や民俗学、文化人類学、美術史、思想・哲学などを幅広く柔軟に取り入れ、それらをよく噛み砕いて吟味し、自らの言葉で論じるもの・・・と教えられた(ような気がします)。そんな中に、精神分析関係の本も少なからず入っていました。あくまでも文学作品を「読む」ための道具でしたが。

  学校を出て、わずかな高校教員時代を経て、編集の仕事につきました。最初は主に文学、歴史、思想、日本美術関係の本を作っていました。いつでしたか、精神的な疾患を患う方の記事をきっかけに、その方のご家族が書いた本を読みました。書名も著者ももう忘れてしまいましたが、「こころの耳」に登載されている克服体験記をさらに延々と長くし、かつ未だ克服にいたっていないという非常に「重い」事例でした。このとき、自身の中の選書のポイントが、より日々の生活に根ざした実際的なものにスイッチしていったのを覚えています。

 これをきっかけに関係する本をずいぶん色々と読みました。先の事例は、不潔恐怖を軸にさまざま要素が合わさり、日常生活にも種々深刻な影響を与えるほどのものでした。なかでもそのご家族の精神的・物理的負担たるや、間違いなくもっとも苦しいであろうご本人に勝るとも劣らないようにも感じました。いつしか、医学系の出版に携わりたいという気持ちを抱きはじめました。

 縁あって産業保健関係の編集の仕事に携わることができました。先の事例は、不調を来たしたのが本人でなくとも、身近にそうした方を抱えるだけで、日々の生活の糧たる仕事(の継続や、仕事の質の維持)にも大きく影響し得る、ということを物語っています。大変なことです。折しもひきこもりや不登校のお子さんをもつ親御さんの苦悩をいろいろな場面で見聞きします。産業保健の扱う領域は年々拡大しているように思えますが、こうした働く人が背景に抱える就労阻害要因やストレス要因まで視野に入れ、対策を打っていかなければならないことは、「出来事」とストレスとの関係に着目した調査・研究などからも明らかです。

 ただ、これはなにも産業医や精神科医をはじめ専門職のみに課された課題ではないでしょう。日常普通に職業生活をおくる私たちにも、できることはあるはずです。その基本は、ありふれた当たり前の言い方ですが、まずもって「人の身になって考える」ということかもしれません。人の身に起こった出来事に自身を重ね合わせて考えてみる。そして「何か自分にできることは」と。そうした基本感情をベースに、専門家の指示や指導を仰ぎつつ、自分なりの立場で関わっていくことが大事なのではないでしょうか。状況に応じて立場は変わるでしょう。職場の上司として、同僚、部下として、そして家族、友人として。根拠のない要らぬ偏見を取り払うことはもとより、何も大上段に構える必要はないのでしょうね、本来は。