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第14回 森 晃爾さん

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第14回 森 晃爾さん
産業医科大学 副学長
メンタルヘルス・ポータルサイト委員会委員

今どきのメンタルヘルス、これからのチャレンジ

 私が事業場における産業保健の実践を始めた1980年代後半には、テクノストレスといった言葉が使われたように、特定の領域において職場のメンタルヘルスが課題として取り上げられていました。また特定の専門家が集まってメンタルヘルス対策についての議論を行なっていました。その当時は、メンタルヘルス対策はその分野の専門家が行なうものといった認識であったし、「私はメンタルヘルスには対応しません。」と宣言しても、産業医として十分に勤まっていました。その後、メンタルヘルス不調者の増加や自殺者数の上げ止まりなどを背景に社会問題になるにつれ、さまざまな取り組みが行なわれてきました。その中には、研究成果をもとに作成されたツール、国の指針や支援体制などの整備、メンタルヘルスサービス機関の増加などが含まれます。産業医の育成においてもメンタルヘルスに関する様々な研修会が開催されています。産業保健専門職の仕事の内容は、専門職側の専門や興味によって決定するものではなく、職場に存在するリスクやニーズに基づいて設計されるべきものである以上、どのような業種においても、当然のことながらメンタルヘルス対策の実施は、非常に優先順位の高い業務になりました。もはや「私はメンタルヘルスには対応しません。」という産業医が宣言をすることは、その事業場の産業医としての仕事を失いかねない発言と考えておくべきでしょう。

 一方、メンタルヘルス対策の内容については、早期対応を目的とした相談窓口の設置や管理職研修、職場復帰の手順や支援プログラムなど、二次予防および三次予防に相当する対策が多くの企業で行なわれ、大きな成果を上げてきました。もちろん、個別にはさまざまな困難が生じるケースが存在するのは既知のとおりであります。しかし、これらの対策を立てているにもかかわらず、メンタルヘルス不調者の数が減らず、経営者が「メンタルヘルス対策に予算も人もつぎ込んでいるのに、なぜ数が減らない。」と担当者を叱咤したところで、一次予防の対策を立てていないのであれば、当たり前のことであります。しかし、メンタルヘルス不調の一次予防は本当に可能なのでしょうか?もちろん、ストレスを減らすなど、有効性が確認されているプログラムがあるのは知っています。しかし、昨今の企業は激しい競争と変化にさらされています。そのようなプログラムが提供されても、働く人を取り巻く環境の変化の影響がより大きければ、成果を上げることはできません。また、少なくともストレスを減らすことが生産性を低下させるようなことがあれば、そのプログラムは認められないでしょう。このようなときこそ、ILO/WHOの労働衛生の定義に1995年に追加された内容の一部である「企業の生産性を高めることになるような作業組織、労働文化の発展」に繋がるプログラムが必要であり、「企業の経営体制、人事方針、教育訓練方針および品質管理に反映」されなければ、どのような一次予防対策も成果は上がらないでしょう。このように考えると、Healthy Company を本気で目指す企業だけが、一次予防を達成できる可能性があるはずです。