[事例6-3]認知症の母の介護疲れからうつ病を発症した会社員の事例

1 概 要

年齢・性別:63歳、男性(未婚)
職業・職種:無職(定年前は設計技師)
診断名:うつ病
主訴:不眠、億劫感、集中力低下など

2 経 過

  公務員の家庭に一人っ子として出生。中学1年生の時、自動車事故にて父親が亡くなり、それ以後母親との生活でした。4年制理学系大学を現役で卒業後、設計技師として真面目に勤務していました。51歳時に高血圧を指摘され、53歳時には早期胃がんがみつかり手術をされています。

  54歳時、母親の物忘れが出現し、半年後近医にて認知症と診断されました。当初は在宅にて経過をみていましたが、徘徊もみられはじめた3年後にはヘルパーを依頼しつつ、帰宅時間を早めて介護を行いました。上司に家庭状況を説明し、昇進をあきらめ、転勤がない職場に異動させてもらいました。60歳で退職後も自宅にて介護していましたが、62歳時に母親は亡くなられました。

  葬式も終えたその3か月後より、不眠が出現し、何をするのにも億劫になるとともに、読書をしようとしても集中できない、頭に入らないといった症状が出現しました。近医精神科を受診したところ、うつ病と診断されました。投薬治療が開始されましたが、その後も「自分は母親のような認知症になったのではないか」、「せっかくここまで母のために生きてきて、これからという時に...つらい」と強い不安と焦燥感を認めました。薬物療法も即効性がなく、様子をみてくれるご家族がいないため入院治療を勧め、入院環境という十分な看護と薬物療法を受けられる状況の治療となりました。入院後も将来への不安や認知症ではないかという不安が続きましたが、入院2か月を過ぎた頃から症状は安定し、入院3か月後に退院となりました。入院中に行われた認知症の画像的および心理テストによる精査では認知症は否定されました。

3 ポイント

  元来真面目で、父親を早くに亡くしたことから、母親との関係が強く、仕事上のキャリア形成よりも母親との生活を選んだ症例です。職場での勤務状況は真面目で、上司からの信頼も厚かった方です。

  うつ病を発症する前から、高血圧や早期胃がんの指摘など段階的に心理的なダメージを受けていたところに、母親の病気(認知症)が見つかり、その介護を行っていました。

  退職後もその生活は続きましたが、62歳時に母親が亡くなられ、その長い介護生活にピリオドがうたれた直後よりうつ病を発病したのです。これには母親を失ったという体験と、母親との2人の生活が失われたという2つの喪失体験があります。特に初老期に発病したうつ病は、病気への過度の心配(心気)や焦燥感が強いことが多く、特に認知症がご家族にいらっしゃる場合には、自分も認知症にかかってしまったのではないかという不安をもつ方が多いようです。

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