[事例1-2] ギャンブル依存症の夫に対し妻が精神科医の指導を受けて支援に成功した事例

概要

 妻(29歳)はどうにもなりませんでした。頭の中は真っ白、家事には手がつかず、何をするにも上の空で、放心状態でした。それは先日、夫(32歳)から400万円の借金があることを打ち明けられたからです。

 夫は泣きながら、「もう二度とやらない。何とかしてくれ」と妻に頭を下げたのですが、妻は「また同じことを言っている」と心で思っていました。借金の原因はギャンブル(パチンコ、麻雀、競馬など)でした。今回が初めてではありません。3回目です。初回は250万円、2回目は300万円でした。家の預金は底を突き、生命保険や学資保険は既に解約しているので、親に肩代わりを依頼しなければなりませんでした。

 振り返ってみると、妻はどうしてこの夫と結婚したのかはっきりしませんでした。好きでもなかったのに、彼の友人であった夫のアパートへ出入りしているうちに、子供ができ、籍を入れたのです。

 夫は感情表現が少なく、他人に対しても挨拶も満足にできませんでした。帰宅しても妻に優しい言葉をかけることもなく、ビールを飲んで、テレビゲームで遊び、一人でサッサと寝てしまうのです。家を空けることもしばしばありました。給料を入れないことも少なくなかったので、足りない分は妻のパート代で家計を補いまし。パチンコをしていれば機嫌が良かった。妻はもっと話したい、相談したいと思っていましが、夫は関わりをもってくれませんてした。

 子供に対しても無関心でした。名前を決める際には「何でもいいよ」と妻に任せ、子供が泣いていても、自分はゲームにかじりつき「泣かせておけばそのうち泣き止む」と嘯き、膝に乗ってくると煩わしい顔をしました。

車のローンも滞り、年末調整の書類を書こうとはしませんでした。妻は当たり前に生きる喜びを感じたかったのです。

 夫は400万円の返済の目途がつくと、喉元過ぎれば暑さを忘れたかのように、再びギャンブルを始めました。家に帰ることは滅多になくなり、雀荘や車の中で寝泊りして、言い訳程度に会社へ行きました。妻は通院を提案しましたが、夫は「止めようと思えばいつでも止められる。通院の必要はない。」との返事でした。

 妻は行き詰まり、追い込まれ、私のクリニックへ相談に来ました。私は以下のことを伝えました。夫の診断は"ギャンブル依存症"の疑いがあること。夫は治療に消極的であるから、まず妻が出来ることから始めましょう、と。

 妻にはギャンブル依存症についての理解を深めさせるために、セミナーへの出席や書籍の購入を勧めました。さらにギャマノン(ギャンブル依存症の家族会)への参加を求めました。本人への対応法としては、借金の返済などの尻拭いを止めて、本人に現実を直視させることが重要であるとアドバイスしました。

 妻は早速取り組みを始めました。なかでもギャマノンへ出ることによって、妻は落ち着きを取り戻し、夫のギャンブルによって一喜一憂することが減ってきました。

 夫は借金に追われ、首が回らなくなった時、妻の助言を受け入れてGA(ギャンブル依存症の自助グループ)へ出席を始め、ギャンブルを止めようとしています。

ポイント

 ギャンブル依存症は、本人が治療動機を持つことは少ない。むしろ困難に陥った家族が救いを求めることがしばしばあります。そこで家族を支援し、健康性を高めることによって、家族内の葛藤は薄らぎ、本人が自分の問題を振り返るチャンスが生じ、治療の動機付けの形成につながるのです。 本人中心主義から離れて、家族を援助の対象として捉える視点が極めて重要です。

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