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[事例1-8] 食品製造作業中に左手首を切断し急性ストレス反応と外傷後ストレス障害をきたした事例

概要

 43歳、女性

 平成X年春頃、食品の製造作業中、機械に左手を巻き込まれ、左手首を切断したものです。受傷(左手切断)時点では呆然として錯乱状態を呈し、救急受診して整形外科的な手当と精神科を受診し、急性ストレス反応と診断されました。1か月過ぎてからも、手を巻き込まれた状況が頭に浮かび打ち消すことができなくなりました。その後、うつ気分、希死感、外出恐柿、対人恐怖症状を認め「うつ状態」へと移行しました。すなわち急性ストレス反応(ASR)→外傷後ストレス障害(PTSD)→うつ状態と状態の変遷が認められました。主治医は「発症の時期から考えて外傷に伴う精神的ショックとの関連が疑われる」と述べ、「病名:外傷後ストレス障書、受傷後抑うつを含む精神症状」と判断されました。「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」に例示された具体的出来事に当てはめて考えれば「大きな病気やケガをした」に該当し、平均的な心理的負荷の強度は「強」となります。被災状況、後遺障害の程度、社会復帰の困難性等を評価すれば、心理的負荷の強度は総合評価して「強」と判断され、労災認定されました。

ポイント

1 急性ストレス反応(ASR)

ICD-10による主要症状:

  1. (1) 極度な精神的又は身体的ストレスに暴露されていること。
  2. (2) ストレスの暴露から1時間以内に発症すること。
  3. (3) 症状は48時間以内に鎮静化すること。

判断の留意点:

 例外的に強いストレス因の衝撃と発症との間に、即座で明らかな時間的関連がなければなりません。強度のストレスへの暴露から極めて急速(1時間以内)に症状が発生することが多く、数日(48時間以内)のうち症状が鎮静化することが多いのです。しかし、DSM-IV(アメリカ精神医学会による)のASD(急性ストレス障害)では数時間から数日以内に発症し、1か月以内に症状は鎮静化すると記載されており、一般的にASR(急性ストレス反応)、ASD(急性ストレス障害)は1か月以内に症状が消失すると考えるのが臨床的には妥当と考えられます。

2 外傷後ストレス障害(PTSD)

ICD-10による主要症状:

  1. (1) 自ら生死にかかわる事件に遭遇したり、他人の瀕死の状態や死を目撃した体験などの破局的ストレス状況に暴露された事実があること。
  2. (2) 途中覚醒など神経が高ぶった状態が続く。
  3. (3) 被害当時の記憶が無意識のうちによみがえる。
  4. (4) 被害を忘れようとして感情が麻痺する。そのため回避の行動を取る。
  5. (5) 外傷的出来事から1か月後の発症、6か月以内の発症
  6. (6) 症状の持続期間は1か月以上、3か月以上の持続は慢性
  7. (7) 脳器質性精神障害が認められないこと。

判断の留意点:

 自己の生死に関わるような心的外傷体験、その外傷体験がいやおうなく記憶に想起されること(侵入的想起)、当然そのような再体験を避けようとする刺激回避と感情反応の鈍麻、常に神経が休まらない覚醒亢進症状が必須とされています。自然災害や戦争、誘拐、監禁、性的虐待などで被害を受けたりすると、人間は心に耐え難い強烈なショックを受けます。これを心的外傷(トラウマ)と呼び、それによるストレスが心身に引き起こすさまざまな障害がPTSD(外傷後ストレス障害)です。日本では阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件などでこの疾病が知られるようになりました。この疾病を防止するためには背景となる社会への対処も不可欠ですが、患者に対してはまず、早期に発見、診断して、専門家によるカウンセリングなど、心のケアを受けさせることが重要です。トラウマ=精神的外傷とは単なる誘因ではなく、人の心に強い衝撃を与え、その心の働きに不可逆的な変化を引き起こすような体験を指します。PTSDの症状の期間は、患者の半数が3か月以内に完全に回復すると報告されています。

 問題となるのは、身体外傷ではない心的外傷体験をどのように把握するかという点でしょう。ICD-10の「破局的・脅威的」、DSM-IVの「危うく死ぬ」、「重傷を負うかもしれない体験」に忠実に従うならば、叱責、嫌がらせ等の身体外傷を伴わない体験に関しては、PTSDの診断基準に該当しないことはいうまでもなく、PTSD診断で重要なことは、「強烈で凄まじい外傷体験に起因した病態」であり、ストレスの事実認定を明らかにすることが基本と考えられます。