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[事例1-31] 死に場所を探してさまよった会社役員の遁走の事例

概要

 45歳、男性、会社役員

 本人は、年齢45歳で、職位は工場長かつ専務です。本人は常務として勤務していましたが、社長のワンマン経営のため専務以下で社長不信任案を提出、ある年の3月の株主総会で勝利し、専務が新社長となり、本人は専務に昇格しました。7月に入り突然、新社長から本人に何の相談もなく、前社長が復帰することが告げられ、本人は相当なショックを受け、辞表を提出しましたが受理されず、逆に本人が管轄する新工場立ち上げの責任を追求され、新工場稼働のために本人は眠らずに働き、結局72時間の徹夜作業となりました。仕事が終わり、更衣室で着替えたところまでは記憶にありますが、その後数時間の記憶がなくなってしまいました。この時は赤ちゃん言葉で「僕ちゃんは‥‥だよ。パピプペポ‥‥」と喋り、同僚が止める間もなく、本人は車で会社を飛び出し、数時間後に高速道路のインターチェンジ付近で意識がないところをパトロール隊に発見されました。タイヤが破裂していたため、修理工場まで運んでもらい、その後、近くの岸壁まで行き、車ごと海にダイビングしようと実行に移す直前、子供の声を聞くため自宅に電話をかけたところ、家族に説得されて間一髪のところで自殺を思いとどまりました。精神科には3~4時間の空白、すなわち健忘を主訴に8月初めに家族と来院しました。

ポイント

対応の留意点:

  1.  記憶障害としての健忘の精査(脳波、CT等)
  2.  発症状況となった心的因子の整理
  3.  本人に対するストレスフルな状況を避ける。
  4.  職場における人間関係の整理
  5.  本人の性格傾向の分析
  6.  家族とともに本人を支援

診断と治療の留意点:

 職場や家庭から突然いなくなり目的がはっきりしないまま旅行したり、さまようことを「遁走」といいますが、脳に異常がなければ心因性精神疾患で出現することが考えられ、極度のストレス状況下で起こることもあり、その間の記憶がない「健忘」を残すことがあります。この症例の場合、新社長から裏切られたという情動的心的葛藤に加え、72時間の徹夜作業で疲労困憊した状況の中で発症、しかも希死念慮があるため、十分心身の疲労を取るための休息がまず第一です。そのために入院中は本人の病状を不安定にさせる新社長の面会を禁止しました。本人が今後、会社の中で、あるいは自分の人生をどのようにしたいのか、気持ちの整理をさせることが肝要です。この事例は疲弊消耗状態から解離症状(一段階低いレベルの人格に退行し、健忘を残した)を呈したまま遁走し、その後、うつ状態(うつ病)へと状態が移行した事例です。