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[事例1-4] 風邪、消化器症状を伴い、治療しても良くならないパーソナリティ障害の事例

概要

年齢: 34歳
性別: 男性
職種: コンピュータソフトウェアの開発
業種: 商品開発部門の中間管理職
勤務状況: 部下の希望と、上司の意見の板ばさみになっているようです。
疾患名: 不安性(回避性)パーソナリティ障害F60.6(ICD‐10)の傾向
家族歴: 二人兄弟の長男、父親は脳梗塞。既婚、子供は2人います。
生活歴:  大学卒業後、就職した会社で商品情報管理に3年間従事していますが、父親の体調不良を機会に郷里に帰って商品販売会社の同様な業務に携わりました。しかし2年間で退職し、現在の会社に途中入社しました。
症状・問題行動:  風邪、吐気、下痢などの症状を理由に仕事を休みがちになりました。自分の能力不足を責めると同時に、上司への反感が大きいと思われました。口数が少なく落ち込んでいることは傍目にも明らかに見受けられました。
既往歴:  これまで入院に至るような大病は経験していません。上記症状が出現し、何か所かの医療機関を受診しましたが、症状すべてを説明するような身体的原因は見つかりませんでした。
経過:

 上司の指示により産業医と面談を行いました。

 「最近、疲れやすくなり、風邪もひきやすい。頭が重く、頭の後ろから肩にかけての凝りがひどい。吐気や食欲不振もしばしばある」などの多彩な身体の症状と「苛々しやすい。注意力や集中力が低下している。やる気が出ない。寝付きにくいし、真夜中や朝早すぎる時刻に目がさめやすい。そして、一度目がさめたら、もう一度寝付くことがなかなか出来ない」などの精神的な症状を訴えました。

 さらに産業医との面談を重ねると身体症状のほかに、業務関係のことで自分を責める発言が出るとともに、上司への不満を訴え始めました。

 産業医の勧めにより、専門医の治療を受けることになりました。受診した心療内科では「不安抑うつ状態(過剰適応型)」と診断され、抗うつ薬と抗不安薬が処方されました。しかし、薬物治療にもかかわらず、その後も、身体・精神症状は改善せず、上司への不満も強くなる一方でした。勤務地を一時変更しましたが、改善はみられず、症状が増悪傾向を示したため、病欠として治療に専念してもらうことになりました。

 その後、病欠は休職に切り替えられました。外来主治医から入院を勧められたことが納得できず転医しました。この頃から産業医との面談で、酒乱だった父への少年期からの鬱屈(うっくつ)した思いについて話すようになりました。休職の期間は、自宅で好きなことをしながらゆっくりと過ごせたこともあって、症状は徐々に改善し、職場に復帰することになりました。

 復帰当初は久しぶりの仕事に張り切っていましたが、上司への反感が再び勢いを盛り返し、疲れ易くなり、他の症状も再発し始めました。結局、再休職となりました。

 産業医との面談で、前の会社を退職することになった理由も、上司との対立だったことが判明し、上司への反感は、自分の父親への反感を振り替えたもの(投影)ではないかと示唆されましたが、本人は納得できないようでした。

 今回は、二度目の休職でもあり、これ以上、症状が続いて業務に復帰できないことは、退職につながることを本人も十分理解しており、休職期間が終わりに近付くにつれて、あせり、不安でいらいらすることが多くなりました。

 本人の苦悩を見兼ねた知人の勧めで内観法(心理療法の一種)の道場に行き、「酒乱の父による虐待から目上の人への恐怖心・反感が生じ、父親を無意識に上司に重ねていた」ことを心底から理解する「転機」が得られました。

 この頃から、家族と自分の関係も柔らかく自然なものへと変化して行き、それまで本人の顔を窺ってばかりいた子供たちも、ある時は体をぶつけて甘え、ある時は反抗するというふうに、自然な親子関係に変わっていきました。会社復帰後の上司との関係も状況に応じた距離を保ちながらうまくいくようになっています。

家族のサポート状況: 包容力のある妻は、本人の変化を忍耐強く待っていました。

ポイント

職場の課題と対処:

  • 上司が産業医への相談を指示したこと。
  • 産業医と度重なる面談を行ったこと。
  • 産業医との面談の結果判明した上司への不満を、その上司へ伝達し、上司の対応についての検討をしたこと(本人同意による)。
  • 上司による本人へのマネジメントの見直しや、今後の適切な対応を模索したこと。
  • 産業医より専門医への受診を促したこと。
  • 専門医受診後も症状の改善がみられなかった本人の業務的・人的環境の変更をはかったこと。再出発の可能性を探る試みとしての勤務地を一時変更したこと。
  • 身体症状の持続と抑うつ症状の増悪傾向に対し、病欠と治療専念を勧めたこと。
  • 休職期間中も産業医による面談を継続したこと。

対処の評価・考察:

 上司との関係をうまく結べない症例では、その人の親子関係を考えてみることで問題解決の糸口が見つかることがあります。職場でのメンタルヘルス(精神保健)の観点からいえば、職場で見られる精神的健康のゆらぎを、病気としての精神障害としてのみとらえるのは不適当な場合も多いようです。精神症状を3つの軸-本人の生育歴も含めた社会性の発達、職場の人事管理・業務管理的環境、精神疾患-の相互関係から見直してみることが大切です。