• HOME
  • 事例紹介
  • [事例1-24] 深夜勤務で弁当の製造に従事する女性労働者のメンタルヘルス不調の事例

事業者・上司・同僚の方へ

支援する方へ

コンテンツ一覧

[事例1-24] 深夜勤務で弁当の製造に従事する女性労働者のメンタルヘルス不調の事例

概要

症例: 女性 年齢 27歳 職種 夜勤労働者
経過と問題点:

 彼女は6歳、5歳、3歳の子供と暮らしていました。2年前の4月から半年間弁当工場で夜勤をしていました。採用時の契約時間は午後10時から翌朝5時まで、休憩時間は午前3時から4時、勤務は週5日、土、日、祝祭日は休んでよいということで、時給は1000円でした。お弁当とサンドイッチを作るライン作業で、ほとんどが鉄道関係に出荷されていました。現場は、ほぼ30人が働いていて、この方は、調整ラインに属し、箱に詰められたお弁当にパラフィンをかけ、箸を入れる仕事を担当していました。お弁当の最初の出荷時間は午前3時、休憩は約束と違って多くの日で取れず、取れても15分から30分程度であったと語ります。忙しい日は無い日もあったといいます。彼女は勤務しない、土、日、祝祭日はもっと忙しいと聞いています、とも語っていました。働き始めての1週間は、特に疲労がひどく、もうぐちゃぐちゃだったと回想し、すぐにでも辞めたいと何度も考えたといいます。3人の幼児がいるし、夫の会社は不景気で給料も安い上、遅配状態、借金と生活のためにはどうしても自分がこの位働かねばならないし、何よりも昼間の仕事は不都合だったと言います。

 仕事から帰った彼女の生活は、午前6時に帰宅後、朝食の用意をして幼稚園児2人を送りに行き9時半頃帰宅。入れ替わりに夫は出勤。3歳の子供の相手をしながら午前に掃除と洗濯。昼食後に子供と一緒に仮眠、午後2時半になると、その子供を連れてもう2人を迎えに行く。その後、子供は室内で遊ばせておいて、また少し仮眠を取る。5時半頃より夕食の用意、夕食、3人を風呂に入れる。午後7時から1時間程仮眠を取り、夫と交代に出勤するという生活をおくっています。とてもつらい日々ではあったが、食べていく必要に迫られるし、育児を考えると夜働くのが最善と頑張ったといいます。一緒に働いていたのは、半分が20歳前後の独身女性、昼寝れるためか、この人たちは結構元気であるが、あまり一所懸命ではない。残りが30歳から50歳位の主婦兼任で同じような境遇、目的で働いているようで黙々と、という感じで働いていたと言います。中には、昼も会社勤めの人や自営の人もいたと言います。そこで働いた半年でも人の入れ替わりは結構あり、1日で辞めていく人もいるので、また新しい人が加わる、といった感じであったようです。彼女は、いつも身体が疲れているようになり、昼も子供が走り回る側で自然に眠ってしまっている日も多くなる中、仕事中は緊張して何とかもたせるという日々が続いているのです。

 こうした中、精神的にまいる事態が起きてくるようになっていきます。上司の仕事のさせ方、接し方に対しての不満がつのっていきます。ある日急に終了時間を4時といったかとおもうと、今日は忙しいから残れといったりする、仕事が無いときは工場にいるなとか暇な時は早く帰れと命令する、急に真っ暗な深夜に帰れといわれても無理であり彼女は混乱してしまいます。当然収入も不規則になり、生活の見通しも立ち難くなるので、苛々する日々を送るようになります。上司の態度は益々横暴、横柄になり、体調が悪く、休暇を願い出たり、先の件で意見を言おうものなら「いつでもクビに出来るんだ」と高圧的な態度を取ったというのです。忙しい日であっても現場に入って手伝うこともなく、上の階でゴロゴロと休んでいるので怒りがこみ上げてしまうと語ります。こうした状況に対し同僚は何も言わないで従っていたそうです。益々、精神的にまいっていくことになり、結局退社することになりました。

ポイント1(事例の背景)

 本事例で紹介した労働・生活内容は、「夜勤労働者」全般に結構関係していると考えられます。まず、こうした厳しい勤務を選択するにはそれなりに理由があり、並大抵のことでは辞められない事情下にあるので、会社側の身勝手な対応にも堂々とした態度では臨めないことになります。いわば、買い手市場でもあり、厳しいだけに先に述べたように、職員は入れ替わり立ち替わりで、意思の疎通は当然計りにくいのです。しかも、こうした弁当製造職場は、帽子にマスク装着が普通であり、相手の顔色、表情はつかみにくいし話自体も聞き取り難いし、唾が飛ぶと注意を受けることにもなります。昼の職場であれば、ゆっくりお茶でも飲みながら世間話から同じ境遇のものが相通じて仲良くなることも有り得るのですが、夜勤では皆疲れているし、休憩も不規則だし、仕事が終われば即家路に向かわねばならないのでより難しいのです。それだけに神経もすり減るし、精神的にもまいる条件が整っています。深夜に働く正規職員も少ないのと任されているため、この事例のようにかなりいい加減だったり、横暴でもそれを是正する他の職員の眼が無ければ、長期間温存されることにもつながります。彼女の精神面の障害もそうした状況下で起き、結局心ならずも退職することでしか解決できなかったのです。

ポイント2(主治医の援助)

 彼女は、退職後しばらくして次の職場に就職します。やはり深夜帯の仕事でありお弁当屋さんです。何か月後にまた悩みを抱えることになり、知り合いに紹介されて診療所を受診することになります。初診時の様子はおどおどし、顔色も悪く疲れた様子でした。血圧もかなり高い状態でした。話を聞くと本来仮眠を取るはずの昼間の睡眠もうまくいかないといいます。その理由を聞くと、同僚からいじめられているのだといいます。この職場での労働条件には不満はなく、上司とのトラブルは無いようでした。理由は違いますが、2か所も続いての困難で、もうだめなのだと何度も言う状況が続きました。

 我々は、まず全身の健康状態を把握することにし、その結果若干の高脂血症と肝機能障害はありましたが、栄養状態は悪くありませんでした。高血圧の治療を開始し、受診毎に出来るだけお話を聞くこととしました。外来が混んでいるときは産業看護職の応援を依頼し、ゆっくりお話してもらうことにしました。彼女の悩み・訴えは、皆が自分を悪く言っている、邪魔物にしているということでありましたし、一人それを仕切っているボスもいるというものでした。出来るだけ何故そういうことを考えるのかを聞くことにしていましたが、いつも彼女の想像のようで具体的な根拠は出されませんでした。そうした頃、職場である人の財布が無くなるという事件がおき、彼女は職場の「ボス」が、自分が犯人であると言いふらしているという話を出しました。従来よりも具体的な話なので、むしろこの機会に事態をはっきりしようと考え、事を運ぶことにしました。この職場では、前の職場と異なり、彼女と比較的話をしてくれる以前からいる同僚がいることを聞かされ、その人に診療所に来てもらいました。その人に、彼女から聞いていた前の職場のことと今の職場のことを一通り伝えたところ、うすうす事態を感じていた同僚は彼女のいう「ボス」に話をしてくれることを約束してくれました。その後、無くなった財布は無事出てきて彼女の疑いがまず晴れ、さらに彼女のいう「ボス」が彼女に正面切って声を掛けてくれ、いじめようともしていないし、うわさも流していないことを話してくれたそうです。その後、彼女は、晴れ晴れとした気分が生まれ、どんどん元気を回復していきました。

ポイント3(教訓)

 前の職場での事態は正に夜勤を巡る困難の具体例であり、特に子育て中で経済的理由で就業する女性にはもっともっと暖かく強固な支援体制が必要といえます。夜勤帯の労務管理も問題でした。後の職場では、前の職場での経験も影響し被害妄想もあったようでしたが、そうしたことも実際に起きうる状況にもあるわけですから、この予防策も考慮する必要があります。本事例では、あせらず話を聞いてあげることを起点に、職場の同僚に援助を求めることも大きいことが示されました。職場での積極的な取り組み、そこへの産業保健・医療の関わり方が問われた事例でした。