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[事例1-14] 上司のパワハラ(セクハラ)と夫婦生活の破綻から過敏性腸症候群となった事例

概要

 29歳の女性Bさん、有名私立大学法学部卒業。保険会社の事務系女性社員で、夫は大学の同級生で広告代理店に勤務しています。大学卒業後23歳で結婚、30歳までは子どもを作らず結婚生活を楽しむことで合意していました。数年間は退社後待ち合わせて、食事や買い物など一緒に楽しく過ごす生活が続いていました。しかし、次第にお互いの仕事が多忙となり生活時間のズレが大きくなっていきました。その後夫婦それぞれの会社で主任に昇格、ますます多忙となり行き違いが増え、週末であっても夫婦でゆっくり食事をすることすら少なくなり、Bさんが夫に愚痴をきいてもらうこともほとんどなくなりました。Bさんの上司である課長は、仕事に厳しく高圧的で、度重なる叱責がストレスとなり、叱責を受ける度に腹痛と下痢を繰り返すようになりました。Bさんに対する上司の叱責は、周囲の同僚にとっても酷いイジメ(パワーハラスメント:パワハラ)と感じられるほどでした。それは、Bさんがその上司の食事の誘いを断ったことや、プラベートな付き合いを求めるメールを無視したことから酷くなりました。Bさんはすぐにセクシャルハラスメント(セクハラ)と感じましたが、仕事で困ることが起きることを恐れ誰にも相談できずにいました。薬局で買った下痢止めと胃薬を飲みながら仕事を続けていましたが、このままでは夫婦関係も保てないという思いがつのり退職して子供を作り、家事に専念したいと考えるようになりました。しかし、そのことを主人に話しても、夫は結婚時の約束にこだわり、子供を望まず、冷たい態度すら取るようになりました。優しかった頃の夫の姿を思い出す度に涙が溢れ、夫が信じられない気持ちで一杯になりました。上司に叱責されても会社では誰にも何も言えず、我慢し続けました。イライラしてちょっとしたことで腹が立ち夫との言い争いにも疲れを感じるようになりました。家でお酒を飲み、気を紛らせようとしても下痢をするだけで気晴らしにはなりませんでした。不安とともに、腹痛と下痢症状も強くなったため、会社の保健師に相談し紹介された心療内科を受診しました。そこで過敏性腸症候群との診断を受け、薬物療法と精神療法によって徐々に症状は軽減しました。しかし、夫に対する不満は日々増大し、双方の親も介入し協議離婚となりました。その後Bさんは退職し親が勧めた10歳年上の男性と再婚しました。今は実家近くの役所でパートとして働いています。Bさん自身の収入は大きく減少しましたが、現在の夫に特に不満もなく、投薬治療は継続しているものの、平穏な毎日を過ごせています。

ポイント

 近年、女性の就業構造は、従来見られた若年と中高年が多いM字形をした二峰性から山頂間の谷が少しずつ平坦になってきています。それは、さまざまな法律・制度の整備と職場に進出した若年女性が生涯継続して働くという意識の高まりを示していると考えられます。そのため、女性が責任ある仕事を担う機会も多くなってきました。仕事で重要な役割を担い始める時期に生活ストレスが重なり過剰適応からメンタルヘルス不調に陥る若年女性も増えています。

 職場要因として、長時間労働や緊張を要する労働など”過重労働”、ノルマの増大、上司・同僚・部下・顧客などとの対人関係トラブル、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、パワーハラスメント(パワハラ)などが挙げられます。キーパーソンとなる管理者自らが過大なストレスの原因を作ることは本来あってはならないことです。教育的指導は必要ですが、それがパワハラになっていないか、管理者はいつも検証、留意しておかなければなりません。上司が大きなストレス因になっている場合は、その部下への心理的負荷は多大です。管理者に対するメンタルヘルス教育によってストレスを緩和し対処能力を高めメンタルヘルス不調者の発生防止、管理者のメンタルヘルスへの意識や理解の改善、メンタルヘルス不調者への協力・支援などサポートの充実が重要です。

 特に既婚の若年女性は仕事と家庭の葛藤(ワーク・ライフ・コンフリクト)に直面しやすく、育児期の子供を持つ就労女性ではなおさら葛藤が起きやすく、仕事と家庭の調和(ワーク・ライフ・バランス)が必要となります。就業の継続と心の健康の保持増進のためには、個人のキャリア・プランとライフ・プランの調整が課題ですが、職場でもその支援となるような制度や環境づくりがますます必要な時代になってきました。

 この事例では、保健師の紹介で受診した専門医の早期治療と、婚姻状態の変化による葛藤状態の解消が、心身の健康状態改善に大きな効果があったと考えられます。