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[事例1-12] 中年期の出向者で胃潰瘍を伴ううつ病となった事例

症例:男性・38歳

 中年期は、図1に示したように、職場では課長などの役職に就いていることが多く、単身赴任や出向も増加しています。また、リストラの対象になりやすく不安定な立場でもあります。家庭でも、マイホーム取得や子供が受験期であり、かつ年老いた親の介護の問題もあります。また、体力的にも身体的予備能力が低下しており、生活習慣病の罹患が多くなります。このようなことから、中年期は非常にストレスが強い年代といえるでしょう。ここでは、出向がうつ病の誘因になった事例を紹介し、解説を加えます。

図1. 中年期の特微

事例

1 38歳の男性

 高校卒業後、販売会社に就職。妻と2人の子供がいます。性格は几帳面で、気配りをする人です。かつ、人から頼まれたら”NOとは言えない”タイプ。すなわち、このような性格はテーレンバッハが提唱したうつ病になりやすい「メランコリー好発型」の性格と言えます。

 4年前に彼が係長をしていたB製品販売部が、リストラをしている会社の方針で、分社化となり40人(20人が出向、後は採用した)で、独立した企業となったのです。部長が社長、本人は営業部次長となり努力をしました。営業は「数字がすべてである。実績を作っておかないと」と、頑張ったのです。酒とカラオケが唯一の気分転換法です。営業なので、「顧客のペースに合わせなければいけない。我慢も要る」と述べ、食事はほとんど外食でした。この頃から、胃痛が発生。嘔吐もあるので内科を受診し、胃透視などから胃潰瘍と診断されました。クスリと生活を規則ただしくすることにより、症状は軽快しました。

 昨年10月頃から不況も反映し、売上高が低下しました。残業や休日出勤など、必死に建て直しをはかるが回復しないのです。「うまくいかない。何とかしなければ。分社で独立採算性だから、ボーナスに大きく響く」と悩みが深くなりました。ストレスを発散させるために、酒量は増加していきました。12月、会議中に全身倦怠感と胃痛が激しく退席。内科医から潰瘍の再発で、微量だが出血があると診断されました。

図2. 事例の発病の原因と仕組み

2 事例の発病の原因と仕組み

 事例の発症の原因と仕組みを図2に示しました。分社化による新会社の設立、本社からの出向がストレスになり、さらに業績の低下に伴うストレスが重なり、体の弱い部分(胃酸分泌が多く、胃液の酸度が高い体質である)が選択されて、潰瘍になったケースです。

 再発の原因を検討してみますと、潰瘍という身体疾患が前景に出ていますが、「うつ病」という素顔が、潰瘍にマスクされわからなくなるので「仮面うつ病」と診断しました。本当はうつ病です。

 心理的原因に反応したうつ病、すなわち「心因性うつ病」と言えます。治療は家族や職場関係者には、「うつ病という病気であり、励ましは悪化させるだけだから、しないでほしい。心身の休養が何よりのクスリであるし、最近は良いクスリができた」と、説明されました。また、うつ病は「死にたいと思う、自殺を実行する」病気の代表的なものですから、「さりげなく自殺に注意してほしい。治りかけが、最も多い」と、助言が行われました。次に、職場ストレスから離し、休ませる目的で診断書が出されました。うつ病は、抗うつ剤が良く効く病気ですから、それを中心にした治療を行い、軽快傾向が見られました。3か月で症状が軽快し、1か月のリハビリテーションを行い、復職をしました。クスリは、1年間は「再発防止のために、維持量であるから、服用を続けるように」と、説明されました。

4つのケアからの対応

1 セルフケア

 うつ病の早期発見の手がかりとして「朝刊シンドローム」からの気づきを:笠原名古屋大学名誉教授が提唱しました。日本人は新聞や活字が好きです。毎日40 分以上、新聞を読んでいるというデータもあります。ところが、うつ病になると社会の出来事や変化に興味がなくなり、書いてあることを理解するのが億劫になり、新聞を読まなくなります。朝刊シンドロームとは、新聞を読むことを習慣としていた人が出す、ストレス関連疾患や過剰ストレス状態の早期発見のサインです。うつ病のサインとも言えます。自分でも、家族にもわかりやすい行動上のサインですから、気をつける必要があります。うつ病は、午前中は抑うつ気分が強く、夕方は軽くなるので、夕刊は読める場合が多い。「朝刊シンドローム」と言われるゆえんです。

2 ラインケア

 うつ病は早期発見ができ、かつ、早期に対応すれば治りやすい病気です。さらには、頻度が高く自殺の可能性が考えられる病気であるので、健康教育でそのことを管理監督者に理解させることがポイントになります。また、管理監督者に、うつ病などのストレス関連疾患には、「励ます、ガンバレ」は有害であることを周知する必要があります。

3 産業保健スタッフによるケア

 産業保健スタッフへの相談ルートには、本人が自発的に来られる場合と、上司や職場関係者からの相談という2つの大まかな流れがあります。通常、まず産業看護職や心理職(臨床心理士や産業カウンセラーなど)による対応がなされますが、最終的には産業医による面談となります。症状が強ければ精神科医への紹介、受診勧奨が望ましいところです。その場合には、本人の同意を得た上で、本人をとりまく社会的変動や職場事情を説明した主治医宛の手紙を持たせ、連携するのが良いでしょう。逆に主治医のほうから診療情報提供書の形で、臨床から見た留意事項等の意見をもらうことも有用です。

4 事業場外資源活用によるケア

 産業保健推進センターや地域産業保健センター(事業場規模50人未満が対象)では、相談窓口の開設ほか、原則無料で産業保健サービスを提供しています。また、保健所や精神福祉センターなどでも、メンタルヘルス関連の相談等を行っており、必要に応じての利用が勧められます。

また、近年EAP(Employee Assistance Program =従業員支援プログラム)機関も増え、企業との契約により、従業員対象の電話相談やメール相談ほかのメンタルヘルス支援サービスの提供を行っています。

 さらに、開業している精神科医は3,500人います。産業医や産業看護職などは、外部医療機関(1. 地理的条件や時間的条件:女性は子育ての関係で、この条件は大きい。2. 専門性:うつ病に強いクリニックを2つ以上知っておく。医者との相性もある)情報を日常から把握し、社員に正確な情報を伝え、対象医療機関に適切な紹介状を書くことが望ましいといえます。