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[事例1-21] 躁うつ病による入院加療があったが、職場配慮により復職できた事例

概要

 身体的な病気のみならずメンタルヘルスの問題でも、事業の安全性の確保のために当人の業務内容を含め職場との情報交換が重要です。一方で、当人のプライバシーの保護にも配慮が必要です。躁うつ病による入院加療がありましたが、精神科主治医や職場との密接な連係と職場配慮により、復職できた事例です。

症例: 45歳、男性
業種: 運輸業
職種: 専門管理職
家族・生活歴:

 妻、一男二女の5人家族。社宅住まいでしたが、長男の進学を機会に首都圏にマンションを購入し、家族は転居。本人は某地へ単身赴任。

 大学卒業後入社。飲酒は24歳から毎日。ビール2本あるいは酒3合程度の晩酌。

症状の経過:

 2年半前に某地に異動となりました。9か月程は順調に勤務していましたが、抑うつ感出現とともに仕事上のトラブルの事後処理の件で責任を感じ不眠が出現しました。 約半年後、出社不安、希死念慮も出現し、実家近くの神経科を受診し、うつ状態の診断で入院を勧められましたが、外来で内服治療を続けました。

 翌月より、軽躁状態となり、多弁、自信過剰、乱買、干渉、不眠などが出現し、早朝や休日の勝手な出勤もみられました。この間、向精神薬や抗うつ薬の投与を受けていましたが、主治医が遠方でもあり、本人がもう治ったからと内服を中断しました。躁状態での多量飲酒もあり頻回に休むようになりましたが、長期の休業に至らなかったため、健康管理・人事上の問題にならずに経過していました。その後、家族の事故負傷にも無頓着に休暇をとり、多方面に旅行、引き続き帰省中に躁状態となり、興奮、多弁、暴言、落ち着きなく、不眠などの症状があり、家族と親類に抑制されて救急当番の精神科病院に入院しました。入院約1か月で精神状態は落ち着きをみせ、家族の希望で実家近くの病院に転院し、9か月間入院加療。以後、軽躁、軽うつ状態を繰り返しながら、薬物療法にて次第に寛解状態となりました。

 7か月前に退院し上京。自宅静養となり、大学病院精神科外来への月2回の通院加療により精神状態は安定し、本人より主治医の就労可能の診断書が職場に提出され、産業医との職場復帰のための面談となりました。その時点で、抗躁薬を中心とした薬物療法は継続されていました。

ポイント

職場の課題:

 運行管理業務を担当しており、運行の安全性にも直接関与する部署です。技術上の諸問題について現場で一次処理(クレーム処理を含む)を担当する業務でした。業務知識はあるが、守備範囲が広く、不連続、不規則な業務処理であり、多くの関連部署との調整が必要とされる業務です。 職制はよくフォローしていましたが、本人が真面目でおとなしく感情をけっして表に出すタイプではなく、常に冷静に対応していたように見えていました。また、完璧主義的なところあるいは自分で抱え込んで、あまり上司や同僚に相談しないところがあり、諸問題についてうまく処理できずに独りで悩むところもありました。

 入院中に「双極性感情障害」の診断書ならびに産業医への診療情報提供書が提出されて欠勤開始となり、自宅静養中に休職発令となりました。病状からは、比較的に専門知識が生かせて調整業務がない職場への復帰が望まれましたが、職制からはまず現職復帰をさせて回復状況を確認してから異動の取扱いについて対応したいとの意向でした。

対処:

 発病後、休業にともなう主治医診断書の提出があり、主治医と産業医の連係が紹介状、病状書などにより行われました。また、産業医から上京後の受診の紹介が行われました。

 薬物療法にて良好な状態になりましたが、内因性精神障害であり、事業の安全性に直接関与する業務には不適任と考えられました。また、向精神薬との相互作用から禁酒が必要であり、自動車の運転も望ましくないと考えられました。しかしながら、主治医診断書もあり、通院・内服を続けながらいわゆるデスクワークへの就労は可能と認められました。そこで、月2回の主治医による外来加療の継続と月1回の精神科社医の経過観察を条件に、元の職場へ復帰しました。さらに、シフト勤務をなくし、業務内容も純技術的で運行の安全性に関わらないものに限定するような職場配慮がなされました。その後、数か月順調に勤務を続け、 定期人事異動として、運行に直接関与しない部署に異動となりました。その後、主治医での外来加療を継続しつつ、就業を継続しています。

考察:

 双極性精神障害の場合、うつ状態による職務能力の低下のみならず、躁状態での周囲を巻き込んだ問題行動が後の職場復帰に障害となることがよくあります。

 運輸業の場合、とくに安全性に関わる問題ですので、感情障害となると職場復帰には本人の病状のみならず業務内容にも注意が必要で、職場復帰への敷居が高いと言えます。本例では、発症の契機は業務上の多忙や家族関係にありましたが、内因性の双極性感情障害であり、再発の可能性、薬剤の影響、病状の変化を考えると、安全性に関わる業務は制限されざるを得ません。患者のプライバシー保護に配慮しつつ、運行の安全にも配慮する高度の注意が必要でした。

 本例の場合は、発症早期を除けば、職場との情報交換および精神科主治医との連係を有効に行うことができ、業務配慮、職場配慮が職場復帰を可能にしたものと考えられました。