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[事例1-13] 職場ストレスと育児ストレスの狭間でうつ病となった事例

概要

 32歳の女性Aさん。家族は夫と子供2人(3歳と5歳)の4人暮らしです。勤務歴、生活歴に特に問題はありません。性格は真面目で責任感が強いのですが、完全主義で融通がきかないところもあります。私立女子大学英文科卒業後、クレジット会社本店の事務職として長年勤務していましたが、事務職の多くが派遣に代えられたため、Aさんは短期間の研修後、営業職へと業務が変わることになりました。やがて、大型ショッピングセンター内の新設ショップの店長に配置転換となり、パートとアルバイトの男女7人の業務をただ一人の正社員として統括することになりました。開設後数か月は、ショップ全体の志気も高くノルマの達成も容易でしたが、まもなく近隣にライバル店が進出したため競争が激しくなり営業成績が急低下しました。そこで、何事も一生懸命に取り組むAさんは、部下のやる気を高め業績を回復させるため、店長として厳しく部下を指導しました。慣れない仕事で周囲に相談できる上司もおらず次第に恒常的な長時間残業となりました。その上、部下からはモビング(mobbing=職場における心理的ハラスメントの一種:集団での嫌がらせ)も受け、いつも時間に追われマネジメント力不足から次第に「疲れた」、「眠れない」と夫に訴えるようになりました。いつのまにか保育園へ通う子供の育児や家事は、ほとんど夫や実家の母親任せとなっていました。家庭での支援があったので仕事は何とか継続出来ていましたが、早く帰宅して、育児だけでも以前のペースに戻したいという気持ちが強く仕事との葛藤に悩む日々が続きました。やがて仕事のミスが増え集中力もなくなり、家事や育児に対する不安や自責感もますます増大しました。趣味の音楽鑑賞も楽しめず、不眠や食欲不振となり、疲れやすく抑うつ気分も強くなっていきました。Aさんのメンタルヘルス不調に、以前から顔見知りの本店上司も気づき、産業医への相談を勧めました。産業医と面談すると、精神科専門医の受診が必要と判断され、近くの精神科医を紹介されました。精神科の主治医から、配置転換やノルマ達成の困難、人間関係のトラブルなど職場ストレスと育児ストレスが心理的負荷となり、それが誘因となったうつ病と診断され、休職加療が必要と言われました。自宅での休養、抗うつ剤による薬物療法、精神療法が行われました。症状は5か月で軽減しましたが、1か月半復職支援プログラム(ショートケアなど)が実施されました。復職に当たっては、主治医による復職可の診断書提出後、上司、人事労務担当者、産業保健スタッフ(産業医、産業看護職など)、精神科相談医などの総合的判断を経て、異動前と同様の本店事務職に配置転換され復職しました。復職後、勤務制限措置として、当面仕事は定時とし残業や出張は禁止され、通院加療が必要とされました。上司や同僚の支援・協力も得られ、仕事-家庭葛藤も解消されました。現在、産業保健スタッフの定期的な面談や産業医と主治医の連携がうまくいき、再燃、再発は認められません。今後、勤務制限措置が段階的に解除され、通常勤務が可能と、本人も産業保健スタッフも考えているところです。

ポイント

 バブル世代の大量採用、”失われた10年”の就職氷河期、そして景気回復、リーマンショック後の雇用不安と、大卒女性の雇用環境は目まぐるしく変化してきました。この間、改正男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法制定など、女性の社会進出のための基盤づくりも急速に進められました。

 その一方、労働基準法における女子保護規定の撤廃(母性保護を除く)など雇用条件が厳しくなった側面もみられます。このような社会経済や法制度の変革を反映して、自己の適性・能力と仕事との適合性や仕事のやりがいを重視し、専門職・責任ある地位を目指す総合職志向の大卒女性が増加したといわれています。しかし、全体としては、総合職よりも一般職の正社員を目指す大卒女性は依然多く、とりわけ事務職希望が多いのです。ただ定型的業務が中心であった事務職は管理部門のスリム化やIT化の進展で縮小傾向にあり、同時に正規社員から非正規社員(派遣、契約、嘱託、パート・アルバイト等)に急速に置き換えられてきました(図)。組織のIT化や雇用形態の多様化は、個人で仕事をする機会を増加させ、職場でのコミュニケーションの機会が減り、助け合いが少なくなるといった職場ストレス増大の原因にもなっています。それに加え、過重労働やマネジメント力不足など業務起因性の心理的負荷から、心の病は、最近特に30代に集中し年々深刻化していると報告されています。

 働く女性のライフサイクルの視点からは、職場ストレスとともに、結婚、出産、育児ストレスや介護ストレスまでが就業行動やメンタルヘルスに負の影響を及ぼしています。育児期の子供を持つ女性労働者では、業務内容や仕事の進め方の変化、増大する家庭の役割に対処しきれずにメンタルヘルス不調を起こした場合、仕事継続意思が高くても、企業内職種流動性の硬直化から、企業内で対応していくことは現在の雇用環境では限界があり苦慮するケースが増えています。Aさんの場合、会社にメンタルヘルス対策への理解があり、スタッフや制度が整っていたことで、種々の立場からの支援・協力と連携がうまくいき回復につながりました。

図 男女年齢別非正規比率

図 男女年齢別非正規比率

資料出所:総務省「労働力調査」「労働力特別調査」