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[事例1-1] 出退勤に問題があった電機通信メーカー開発部門勤務者の覚醒機能低下の事例

概要

年齢: 32歳
性別: 男性
職業: 電機通信メーカー開発部門勤務
経過:

 Kは、某国立工専を卒業した後に電機通信メーカーに就職し、開発部門に所属していました。

 入社して7年目に入った頃より、会社を休むようになりました。しかし2週間ほどすると出社し、仕事をきちんとこなしました。寝付けず、朝になり寝てしまい10時頃に目が覚めるので連絡もできない、食欲がない、などという症状からうつ病を疑いました。入院して別人のようになり、行動の面でも健常者とまったく変わらなくなりました。うつ病者が抱える「生きているのが死ぬほど辛い」というメランコリックな苦痛は窺えませんでしたし、K自身も述べませんでした。

対処方法:

 2か月で退院し、再出勤しましたが6か月たってから同じような勤怠がみられ、それを2年ほど繰り返しました。当初はカウンセラーがアパートまで迎えにいったりしていましたが効果がありませんでした。しかしカウンセラーの対応に感謝していること、それを素直に述べられないということを後になって治療者に語りました。

 コンピューターのソフトのカスタマイズを道義上どうかとは思われましたがKに依頼したところ、1日で見事に応えてくれました。それに対して心底から感謝の意を述べたら、私でも役に立つのですね、といいました。それに対して、自分の能力を見極められないほど自分自身に対する評価の仕方が歪んでいるのではないか、甘えたくても甘えられないで無理を重ねると自分が見えなくなり、自分自身をも大切にしなくなりはしないだろうかと、疑問を投げかけました。その後になって、「私は素直でなかった。評価など誰もしてくれなかった。先生が心底から感謝してくれたというのがわかってから自分の生き方を考え直したいと思うようになった」と述べ、「会社にこだわることをやめ、知人に依頼して牧場で働くことになった」とカウンセラーを通して伝え、ほどなくしてから牧場で働くために退社しました。1年ほどして結婚し、二児の父親となり働き続けています。カウンセラーへの報告も平成21年に至っても欠かしません。

成育史から窺える課題:

 成育史をたどると、父親と口をきいたこともないということと、母親の逆鱗に触れ坂から突きとばされたことが忘れられないでいることがわかりました。人に甘えることに抵抗があるといいながら勤怠に関して職場の上司をも悩ませていることに気づかないのは甘えではないかと指摘しましたが、首をかしげるばかりでした。理解出来なかったと言いえましょう。

ポイント

症例の検討と考察:

 症例Kは、相手が自分を受け入れてくれないのではないかという疑問をめぐる課題をK自身が解決できていないという点では、土居健郎氏がいうナルチスムス的防衛を中核とした防衛が関わっていると言えましょう。ナルチスムス的防衛というのはわかりやすく言いますと、認めてもらえないという思い込みにより傷ついた自分をより安定した状態にしようとし、無理を重ねることで不安定な自分を守ろうとすることです。しかしこのような生き方には無理があり、やがて交感神経活動力の低下が訪れ、覚醒機能の低下につながっていきます。不眠というより覚醒に至る際に関わりのある交感神経活動の興奮がもたらされないと言ったほうが適切でしょう。Kが自分自身を受け入れてくれる場所として牧場を選んだのは、会社では受け入れてくれないがどこかに自分を受け入れてくれる場所があるのではないだろうかという願望に由来しており、絶望感に裏打ちされていると言えましょう。Kが唯一信頼しえたカウンセラーには今でも絶えることなく近況報告がつづられてきます。Kが安心して生業に励んでいることを伝えているのであり、K自身が感謝の気持ちを表していると捉えると、カウンセラーの対応によってK自身が無理なく生きることができるようになったとも言えるでしょう。

まとめ:

 勤怠に関わる課題はうつ病と診断することには無理があり、治療という領域を超えている面が多々あります。産業医や職場の関係者だけでは解決できません。異論はあるでしょうが勤怠に関わる事例が生じたときには職場の上司が速やかに人事部に支援を求め、カウンセラーも加わり、関心を抱いていることを、誠意をもって伝えるという一貫した対応をとり続けることで信頼関係を築くことができるということを、この症例を通して述べました。