事業者・上司・同僚の方へ

支援する方へ

コンテンツ一覧

[事例1-5]主治医の診断・治療が馴染まずうまくいかなかった抑うつ状態の事例

1 概 要

年齢・性別:20歳代、女性
職種・職位:スーパーマーケット(正社員)、売場責任者
診断名:抑うつ状態
主訴:午前中の倦怠感、頭痛、吐気

2 症状・勤務状況の経過

  大学卒業後にスーパーマーケットに入社しました。入社試験の成績もよく、3年目で売場責任者となりました。結婚をしてからは、仕事も家事も手を抜かずに頑張っていたとのことです。本人は、まじめで何事にもこつこつ取り組み、人目が気になるタイプだと話しています。

  売場責任者となって4年目に、パート社員退職による人手不足が引き金となり、朝起きた時にひどい頭痛で布団から出られないようになりました。無理に出勤すると、「売場に立っていられない」、「接客が怖い」、「部下から質問を受けても指示ができない」という状態になり、次第に「売場責任者をおろしてほしい」と思うようになりました。次第に眠れない、食べられないといった症状も出て、自宅近くの精神科医院に受診し、「抑うつ状態」との診断書を職場に提出し、約2か月間仕事を休みました。

  復職にあたり、産業医面談を実施することになりました。

3 その後の経過

  主治医のもとで内服治療を続け、産業医からは残業禁止の制限をかけて、売場責任者として復職しました。しかし、直後から再び頭痛や吐気に悩まされるようになったことから、職場では2か月後にスタッフに職位変更し、ストレス緩和を試みました。ところが、その後も徐々に朝方の不調感がひどくなり、結局、「1~2週間の休業が必要」という診断書を提出して何度も休んでしまいました。就労状況が安定せず、症状の悪化を認めたことから、翌年には産業医が2回目の休職を勧め、治療に専念していただきました。

  再休職に至るまでの間に、産業医は本人の同意を得て何度も主治医に書面で病状を照会しましたが、主治医からの返信はありませんでした。そこで、産業医が主治医を訪問したところ、「本人が家にいても手持ち無沙汰だと言うから就労可能である」、「十分な回復前に復職するのもよくあること」、「家にいても気が滅入るだろうから、復職で気分転換をさせたい」等と話すばかりで、診断の根拠について専門的な意見を伺うことはできませんでした。

  約1年の休職後、本人の強い希望もあり、主治医も復職可能としたので、2回目の復職を果たしました。午後勤務や時間短縮勤務も試みましたが、欠勤したり、急に泣き出してしまったりという不安定な就労状況が続きました。本人も職場もたいへん苦労したと思います。

  主治医について本人は、「私が専業主婦になれば治ると言うが、私の仕事を続けたい気持ちをわかってもらえない」等とコメントしていましたが、ある時、「私には薬が必要だとは思うが、今の先生の助言には納得できない。受診日はかえって気分が悪くなる」との訴えがあったことから、別の精神科専門医を紹介することになりました。

  次の主治医は、本人の話をよく聞き、産業医とも積極的に情報交換をし、職場の状況に合わせて治療を進めてくれました。すると、約半年で病状が安定し、現在は元気に働いています。

4 考察と課題

  産業医は、当初から主治医の処方内容や診断書の記載内容(特に休職や復職の判断)に疑問を持っていました。しかし本人と主治医の治療関係に影響を及ぼすような発言は控えるべきと考え、まずは職場調整を進めることで治療に寄与しようと試みましたが、結果的には病悩期間が遷延してしまいました。最終的には本人が転医を希望したため、一気に状況が好転しました。

  臨床の先生方の中に、産業医との情報共有や連携に懐疑的な方がいるのは残念なことです。しかし、治療をする上で、職場の様子や受入れ状況を聞くことは、たいへん役に立つのではないかと思います。また、産業医も主治医の情報があれば、タイムリーに職場調整を行うことができます。今後は、主治医と産業医の連携が進むことを期待しています。