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[事例5-3]退職後の不安等からうつ病になった中高年齢労働者の事例

1 概 要

年齢・性別:63歳、男性
職種・業種:事務系
疾患名:うつ病
主訴:食欲低下
既往歴:特になし

2 症状の経過と対処

  元来几帳面な性格で、同じ会社にて約40年間事務系の仕事をしてきました。X年の前年に61歳で定年退職後、X年に入り、食欲低下のため、消化器系の疾患を疑われ、A内科病院でPET検査なども含めて精査を行いましたが、異常はありませんでした。その後、A内科病院からB病院の心療内科へ紹介され、外来通院を開始し、一時的に症状は軽快しましたが、X年の翌年に入り、夜間不眠、抑うつ気分が強くなり、食事もとれなくなったため、当科へ紹介をされました。

  不安焦燥感が強く、十分に食事もとれない状態であったため、入院による治療を開始し、「療養をしていただくことが、仕事であること」と説明し、約3か月間の入院加療で軽快しました。

3 考 察

  非常に真面目な方で、仕事一筋に打ち込むことにより、几帳面に生活を組み立ててこられ、退職というライフイベントにより、これまでの生活リズムの土台が失われてしまいました。また、時間の過ごし方を仕事以外にもっていなかったことも、発症の原因の一つとなっていると思われました。当初は、食欲低下という消化器疾患を思わせるような症状が出現し、悪性新生物を疑い内科的に十分な精査を行った後、精神科への紹介となっています。このことは、うつ病の初期症状が必ずしも精神症状としての発症ではないということを示しており、興味深いところです。

  治療方針としては、外来通院での枠組みでは、どうしても療養をするというリズムを作り出すことができないために、「病棟で休んでいただくことを仕事としてください」というところから治療を開始しました。その結果、本人の生活リズムを取り戻すことができ、食欲も回復し、症状の改善をみた症例です。

  このように、仕事そのものが生活のペースメーカーとなっているような生き方の中に潜む退職後の時間的虚脱感が、几帳面な融通性のきかない性格と絡み合い、うつ病を引き起こす原因となったものと考えられます。

  また、入院期間中から陶芸などの作業療法により、余暇を過ごす方法についても取り組んでいただいたことが、今回の回復を後押ししたものと思われます。