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[事例6-2]高血圧症を有していた労働者のくも膜下出血発症につき、安全配慮義務違反が認められなかった裁判事例(三菱電機(安全配慮義務)事件)

〔判 決〕

第1審:静岡地方裁判所判決 平成11年11月25日 労働判例786号46頁

1 概要

年齢・性別:56歳(発症当時)、男性
業種・職種:電気メーカーの社員寮や社宅の管理営繕業務(関連会社に出向中)
疾患名:くも膜下出血・急性硬膜下血腫
既往歴・生活歴:高血圧症、飲酒、喫煙

2 事実経過

  1957年に入社したAは、1975年に、会社の健康診断で高血圧症を指摘され、要観察とされました。

  1978年より、関連会社に出向し、会社の寮や社宅の管理営繕業務に従事することになりました。

  1979年に、会社の診療所で降圧剤の投薬を受けた後、1981年以降も、会社の健康診断で産業医より繰り返し高血圧症であることの指摘を受けるとともに、節煙・節酒・血圧値に注意することなどを指導されていました。

  1985年6月、自家用車で帰宅途中に、くも膜下出血等を発症し、四肢麻痺等の後遺障害が残りました。なお、発症前の1年間におけるAの合計残業時間は、約58.5時間(1か月あたり平均して約4.9時間)でした。

3 裁判の経過等

  Aは、会社が過重な業務を放置したことや、産業医が降圧剤を投薬しなかったことなどが、会社の安全配慮義務違反にあたると主張して、1億5,794万余円の損害賠償を請求しました。裁判所は、「過重労働は認められず、産業医の対応も適切だった」として、安全配慮義務違反を否定し、Aの請求を棄却しました。

4 判決のポイント

  裁判における争点は、ⅰ.Aに対する過重な業務を会社が放置したか、ⅱ.産業医が降圧剤を投薬しなかったこと及び業務上の配慮を行うよう会社に伝えなかったことが過失にあたるか、の2点です。

  判決では、ⅰの点について、Aの業務が安全配慮義務違反と評価できるほど過重な業務とは認められないと判断されました。すなわち、Aが裁判において、「高血圧症であるAにとって過重な業務である」と主張する場合には、「単に高血圧症といっても、業務内容の制限等の業務上の配慮が必要とされるほど重篤なものから、日常生活上の一般的な注意で足りる軽度なものまで様々であり、また、従業員が、高血圧症であるか否か、高血圧症である場合にはどの程度のものかといったことは、使用者に容易に判明する事柄でもないから」、「Aの高血圧症が、業務上の配慮を必要とする状態であり、かつ、会社がこれを知っていたことまで、主張立証しなければならない」とされ、本件では、Aの高血圧症は、業務上の配慮を要する状態にあったとまでは認められないとされました。

  次に、ⅱの点については、「労働安全衛生法に基づく産業医による健康診断は、労働者に対し、当該業務上の配慮をする必要があるか否かを確認することを主たる目的とするものであり、労働者の疾病そのものの治療を積極的に行うことを目的とするものではないこと、高血圧症は、一般的に知られている疾病であり、その治療は、日常生活の改善や食事療法等のいわゆる一般療法を各個人が自ら行うことが基本である」こと等に照らせば、「仮に、Aの高血圧症が、当時、降圧剤の投薬を開始するのが望ましい状態にあったとしても、産業医がこれを指示しなかったことをもって、直ちに産業医に過失がある、あるいは、会社に安全配慮義務違反があるとはいえない」と判断されました。すなわち、会社における定期健康診断においては、たとえ高血圧症と判断される場合であっても、産業医がその場で降圧剤を投薬する義務まで負うものでないとされました。