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[事例4-2]麻酔医の急性心不全死事件

〔判 決〕

第1審 大阪地裁判決平成19年3月30日(事件番号大阪地裁―平成16年(ワ)10734号)
控訴審 大阪高裁判決平成20年3月27日(事件番号大阪高裁―平成19年(ネ)1378号、判例タイムズ1275号171頁)

1 概要

年齢・性別:死亡時33歳、男性
業種:医療
職種:医師
疾患名:急性心機能不全(特発性心筋症)

2 事実の概要

平成元年に大学医学部を卒業し、平成6年から某病院麻酔科に勤務していた医師が、平成8年自宅において急性心機能不全により死亡しました。死亡直前の3か月において、医師は12回の宿直、6回の日直を担当し、その2回に1度弱の割合で緊急手術に関わったほか、宿直時には4時間程度しか睡眠がとれなかったようです。また、病院での通常業務のほか医師としての研究活動をしており、論文作成や学会発表なども行っていました。

3 裁判の経過等

医師は、健康診断で実施される胸部レントゲン検査や血液検査では異常が見られませんでした(心電図はとられたことがない)が、特発性心筋症という基礎疾患があり、死亡前には体調不良もあったことから、病院は医師に時間外労働をさせないなどの安全配慮義務があったと遺族が主張し、裁判となったものです。第1審では、医師の死亡と業務の間に相当因果関係があり、遺族の主張が概ね認められました(1割の過失相殺)。病院はこれを不服として控訴したものです。

4 判決の要旨

病院で早朝実施されていたカンファレンス(症例検討会など)も詳細に検討され、その結果、医師の死亡前1か月については、時間外労働時間は107時間強、また死亡前6か月の平均時間外労働時間は116時間強であり、「発症前1か月に概ね100時間又は発症前2か月ないし6か月にわたって1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は業務と発症との関連性が強い」とする認定基準に鑑みれば、医師はその発症前に長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす過重な業務に就労したものと認めるのが相当とされました。

また、病院は医師の長時間労働を把握していたこと、麻酔科部長も麻酔科医の増員を希望していましたが、病院としては人員体制の見直しなどしなかったことなどから、最終的には使用者として安全配慮義務違反があったと判断されました。ただし、医師の業務は他の常勤医との比較でみても特別の差異が存しないこと、医師自身が本来の割り当て分を超えて働いていたことも認められること、一般に病院勤務時などにあってはその業務執行に対し直接的かつ強制的な指揮や指導がしにくい面があったであろうこと、研究活動を主として自宅で行いさらに疲労を蓄積していったと考えられること、以上から医師自身の業務などに対する姿勢や行動が大きく寄与していることが考えられ、医師自身に35%の割合で過失があったと判断されました。その結果、損害賠償金額が第1審からさらに減額となったものです。

5 判決のポイント

医師の業務は、労働時間などの量的負担だけではなく、質的にも高負担であることが各裁判所で指摘されています。例えばオンコールが挙げられます。オンコールとは、当直医を補佐し重症患者の緊急手術などの麻酔や処置に加わるために、常に病院から直ちに連絡がつき、かつ緊急の呼び出しに対応できる場所に待機する制度ですが、裁判所は、オンコールで呼び出された場合には相応の負担となり、呼び出されない場合にもある程度行動が制限されたものと認めています。

一方で、医師は過重労働に従事したこと自体は患者に対する思いや配慮から出たものであるが、なお自らの健康保持を考慮しながら、労働時間を短くするなどして負荷を軽減する余地はあったというべき(第1審)と判断されました。健康管理の専門家だからこそ、一般の方より自分自身の自己保健義務が高く求められるということでしょう。