• HOME
  • 事例紹介
  • [事例6-1]高血圧症を有していた労働者の脳梗塞発症につき、安全配慮義務違反が認められた裁判事例(富士保安警備事件)

事業者・上司・同僚の方へ

支援する方へ

コンテンツ一覧

[事例6-1]高血圧症を有していた労働者の脳梗塞発症につき、安全配慮義務違反が認められた裁判事例(富士保安警備事件)

〔判 決〕

第1審:東京地方裁判所判決 平成8年3月28日 労働判例694号34頁

1 概要

年齢・性別:68歳(死亡当時)、男性
業種・職種:警備業務
疾患名:脳梗塞(死亡)
既往歴・生活歴:高血圧症、喫煙

2 事実経過

  Aは、1977年に入社し、病院における夜間及び休日の警備業務に従事していました。

  入社当初から高血圧を指摘されていましたが、1988年4月に冠不全・高血圧症と診断されて以降、降圧剤の投与を受けていました。Aの最高血圧は、内服を続けている場合は安定していましたが、服用しないと150ないし160になることがありました。

  1990年4月23日、Aは、宿直室で脳梗塞を発症しているところを発見され、意識が回復しないまま、同年5月9日に死亡しました。

  Aの労働時間は、脳梗塞発症前の4週間で、拘束時間が432時間、労働時間が320時間であり、その間休日がまったくありませんでした。また、仮眠用のベッドは、当直勤務の事務職員待機場所と同一の6畳間に置かれ、安眠することが困難な環境でした。Aは、入社以来、同様の警備業務を12年間以上にわたって行ってきました。

3 裁判の経過等

  Aの遺族は、会社及び代表者に対し、安全配慮義務違反を主張して、2,000万円の損害賠償を請求しました。裁判所は、会社と代表取締役の安全配慮義務違反を認めましたが、Aの身体的素因が考慮され、損害額の60パーセントが減額されました。最終的に認められた損害額は、弁護士費用を含めて、約1,000万円とされました。

4 判決のポイント

  裁判における主な争点は、ⅰ.Aの業務と脳梗塞発症との間に相当因果関係があるか、ⅱ.会社及び代表取締役に安全配慮義務違反があったか、の2点です。

  判決では、ⅰの点について、発症前のAの労働時間が、労働基準法の最低基準に違反していることは明らかであり、作業環境や長年の労働態様を見ても、Aの業務は過重であると判断されました。他方、Aの基礎疾患や、68歳という年齢、1日10本の喫煙習慣があったことなどについては、これらの自然的経過のみをもって脳梗塞を発症したとまでは認められないとされました。その結果、Aの脳梗塞発症は、基礎疾患等と過重な業務の遂行とが共働原因となって生じたものとされ、業務と発症との間に相当因果関係があると判断されました。

  次に、ⅱの点について、会社は安全配慮義務、具体的には、「労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、さらに、健康診断を実施したうえ、労働者の健康に配慮し、年齢、健康状態等に応じて、労働者の従事する作業内容の軽減、就業場所の変更等適切な措置をとるべき義務」を負っていたにもかかわらず、これらの措置をまったくとらなかったとして、会社に安全配慮義務違反があったと判断されました。また、本件会社は、従業員数が30名程度であり、業務全般を統括管理していた唯一の常勤取締役たる代表取締役個人についても、会社と同様の安全配慮にかかる義務を負うものと判断され、民法709条に基づき、損害賠償が命じられました。