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[事例5-5]うつ病の既往のある主婦の産後うつ病の事例

1 概 要

症例:33歳 女性、主婦、初産
既往症:20代の時にうつ病の既往あり
主訴:育児ができず、泣けてくる。子供がかわいいと思えない。夜眠れず、食欲もない。

2 経 過

  出産後、3週目くらいから不眠となり、育児がうまくできなくなり自分を責めてしまう。家事をしようとしてもどうしていいか分からず、泣けてしまう。赤ちゃんを見てもかわいいと思えず、かわいいと思えない自分は異常だと思いまた自分を責めてしまい、ゆううつな気分が高まってきた、とのことでした。

  4週目にはイライラが強くなり、些細なことでも泣き続けてしまうようになりまた。マンションに夫と子供の3人暮らしであったが、昼はご主人が就労しており母子だけになり、本人の病状が心配なため本人の母親が実家から来ていました。しかし症状が改善せず、悪化傾向にあったため、ご主人の付き添いで精神科クリニックを受診しました。

  受診時、夜もほとんど眠れず、食事もとれず、やせ細っていました。母乳も10日くらい前からは止まっていました。そのような状態で泣きながら、「子供が産まれたら、精一杯がんばっていい母親になって育てようと思っていたのに、少しも子供がかわいいと思えない。泣いていてもうるさいと思うだけでそんな自分はだめな母親で失格です」と訴えていました。

  夫婦関係は安定していましたが、ご主人はグループリーダーに昇進したばかりで多忙でした。妻のことを心配して育児にも協力的で、夜は妻に食事を食べさせたり、子供の世話をしていましたが、昼は仕事があり電話で状態を確認することくらいしかできてなかったため、妻の母親に来てもらうことにしたようでした。

  現在の家庭の状況を確認した上で、医師より、本人とご主人に現在の状態は出産後によくみられるうつ病であり、治療を要する状況である、と説明しました。また子供をかわいいと思えなくなるのもこの病気の特徴であり、症状が軽減すれば必ず、子供がかわいいと思えるようになるので、自分をだめな母親と決めつけて自分を責めないこと、また死にたくなることが病状の特徴でもあるので、子供のため、家族のためにけっして早まったことをしないことを本人にご主人とともに約束させました。

  薬物治療のために授乳することを現時点ではあきらめてもらい、抗うつ薬や睡眠薬を投与することに同意してもらいました。一方で環境調整のため、今後しばらくは実家に帰ってもらい、子供の養育に関しては本人がかわいいと思えるまでは無理に接触しないようにして、養育は本人の父母に全面的にお願いすることにしました。通院もしばらくは実家から来院してもらいました。

  治療後2か月もすると落ち着き、子供をかわいいと思えるようになったので自宅に帰ってもらいましたが、しばらくは母親に同居してもらいながら環境を調整していきました。

3 考 察

  産後うつ病は出産後6から8週の間に発症するうつ病です。約10回の出産に1回の割合で起こると言われています。原因は出産からおこる疲労と脳内神経伝達物質やホルモンの急激な変化が関与すると言われていますが、詳細は不明です。

  心理社会的要因としては、出産や母になること、育児のストレスや夫との関係など多因子が関与しており、治療のための薬物療法だけではなく、本人の置かれている環境やサポート体制を適切に評価して、入院や実家に返すなどの環境調整が重要になります。

  また、症状は一般的なうつ病とほぼ同じですが、本人だけではなく、新生児の養育も関わっているため、急速に悪化して衝動行為が高まることもあり、より密なサポートが必要です。