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[事例7-3] PTSD診断で労災請求された不支給事例

1 通勤途上で交通事故に遭遇した事例

 女性(30代)は、入社3年目のある日、通勤途中の横断歩道上において、徐行しながら右折してきた自動車と接触して転倒、救急車で救急病院に搬送され治療を受けることになりました。傷病名は「大腿部打撲」と診断されました。その後、療養のため実家に帰郷しましたが、数週後に上京、そして、また帰郷するという経過を辿り、事故から4か月後、A病院にて治療を受けていましたが、同院では「事故のことを思い出すと恐怖感にかられて情緒不安定になる」との訴えから、事故より6か月後に精神科を紹介され受診したところPTSD(外傷後ストレス障害)と診断されました。精神科医は「初診時、交通事故に遭い、その数日後より、些細な物音で目が覚め眠れなくなる。事故相手の車が出てくる、人が死ぬ等の悪夢。自動車に対する恐怖感、横断歩道を歩けない」、「患者の夢等において、外傷的出来事の反復的、侵入的な回想、再現がくり返しみられ、PTSDと診断した」とのことでした。

 この出来事を「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」における、職場における心理的負荷評価表に例示された具体的出来事に当てはめると、「大きな病気や怪我をした」に該当し、平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」となります。しかし打撲程度の傷病であるため強度を「Ⅱ」から「Ⅰ」に修正されます。したがって、本件による心理的負荷の総合評価は「強」には至らず、業務外と判断されます。当然、PTSDの外傷体験A基準ICD-10の「破局的・脅威的」、DSM-Ⅳの「危うく死ぬ」、「重傷を負うかもしれない体験」 に該当せず、F4に分類される「神経性障害(不安障害)」と判断できます。

2 セクシュアルハラスメントを受けた事例

 女性(20代)は、研修が終わり、某研究所の環境・資源エネルギー研究部に配属され、同部で調査研究業務に従事していましたが、配属直後からチームリーダーである男性から性的言葉や軽く身体を触られるセクシュアルハラスメントを数回受けました。入社1年後に会社宛その旨を文書で提出するに至りましたが、会社人事部は事実関係を調査し、その結果、数回であるにしても「セクシュアルハラスメント行為があった」と認定、男性を別の事業場に異動させるとともに1週間の出勤停止処分としました。

 男性のいなくなった職場で、女性が従来の業務に継続して従事していたところ、ある日、私用で本社に来た男性が、女性の在籍するフロアーに立ち入るという事件が発生しました。この時は、たまたま女性は所要で外出していたこと、また周囲の配慮により男性と顔を合わせることはなかったのですが、この出来事があった後、2週後に激しいめまい、記憶障害・嘔吐等の症状が出現したため、某精神科を受診し「PTSD・抑うつ状態・不眠症」と診断され休業に入り、労災請求となりました。発病時期はセクハラ行為より10か月後、男性が職場に顔を出した2週後と特定できました。

 「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」に例示された出来事の類型にあてはめると「対人関係のトラブル」、具体的出来事として「セクシュアルハラスメントを受けた」に該当し、平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であり、強度は「Ⅲ」までは判断できません。また、判断指針は、発病から遡って6か月間の出来事を評価することになっており、厳密に考えるならば、発病の要因は「セクハラを受けた相手が職場に顔を出したことを聞いた」という伝聞体験であると判断できます。この状況から考えると、PTSDの外傷体験A基準ICD-10の「破局的・脅威的」、DSM-Ⅳの「危うく死ぬ」、「重傷を負うかもしれない体験」に該当せず、F4に分類される「神経症性障害」と判断できます。